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平成24年8月 第2494号(8月22日)

今日からはじめる自律的なSD実践 個人編 ―2―
  

大学行政管理学会大学事務組織研究会リーダー
学校法人芝浦工業大学  寺尾 謙


組織の視点を持つために所属大学を知る
 筆者は前回、とある大学職員の自律的なSD実践を紹介した。第2回となる今回は、組織の視点から「規程集」「履歴書」「情報共有」による「自律的なSD実践」の詳細を紹介する。
 所属大学を知るということは自律的SD実践において絶対に欠かすことが出来ない。読者の皆様は、所属大学の歴史、組織、制度、業務、財政状況を含めた客観的数値、課題の多くを把握されていることであろう。これらを知る材料として、所属大学の自己点検・評価報告書等が挙げられる。昨今の大学経営の厳しさを考えれば、これらに加えて所属大学のポジションを知り、日本における大学の歴史を学び、文部科学省の政策と所属大学における施策実施状況の対比と同時に他大学との比較を行う必要も出てきていることも間違いない。
 更に、大学を取り巻く法令にも明るくなることが求められ、学校教育法、私立学校法、大学設置基準のみならず、補助金等に係る予算執行の適正化に関する法律、個人情報保護法、公益通報者保護法、金融商品取引法、著作権法等の関係法令の理解も必要とされている。
 これらが必要とされる理由として、どの部署で勤務していても、主たる法令に基づき業務の管理・運営が行われている。更に、現場から大学の経営にコミットしていくためには、これらの法令を理解し、業務戦略を立案することが必須であり、加えて、これらを(大学側のアプローチではなく)自発的に学ぶことによって、表層的なイメージやブランド的な側面からではなく、現実的な側面から大学を捉えることが出来ると考えるからである。
 だからこそ、そのための準備として、今回紹介する組織の視点による自律的なSD実践が重要となる。
規程集を読むということ
 前回、筆者は所属大学の規程集を熟読することを勧めた。これは、業務を理解することで効率化を図り、空いた時間を自律的なSD実践に充てて欲しいという想いと、SD実践をサポートしてくれる規程を探すという二つの意図がある。
 更に実際の熟読にあたっては、寄付行為(基本規程)から読み始め全てを読むことと、業務上の判断に困ったときに読む癖を付けることが重要であると考えている。
大学職員の履歴書
 大学職員の履歴書とは、大学職員として入職後に取り組んだ業務を記した「業務経歴書」を指す。
 大学職員の履歴書を作成することは、自分が行ってきた業務等の自己点検・評価を行うだけでなく(人材育成計画に基づき、大学に)育てられる自分と(自分自身の取り組みにより)育った自分を顕在化させることによって個人、或いは組織を改善させる二次的な意義がある。
 この手法は國學院大学教学事務部大学院事務課長の山口輝幸氏が提唱している。山口氏は、所属大学における専任職員数の減少に伴う職員のあり方、業務配分の再検討と対話を重視した従業員満足度の向上に加え、部下のモチベーションの維持・向上を図ることを目的に、独自での職員相互評価制度を構築した経験から、この手法を確立した。
履歴書による自己管理と業務マネジメント
 ある仕事を行っている時に自分自身のプライベートはどのような状況であったかを記憶、或いは管理している人は少ない。労務管理という観点からは人事部門が人事記録として管理しているが、実は自己管理と業務マネジメントの観点から、自らの履歴書を作り、自分のプライベートがどのような状況であったのかということを認識していることは当該業務の遂行工程を改善する意味で極めて有効である。
 つまり、履歴書の作成により自律的なSD実践へのスムーズなスタートが切れるようになるわけである。
履歴書を作成する
 履歴書の作成にあたっては、入職年月日や異動記録等を記載することに加えて、業務経歴書に相当する記載が必須となる。次にその項目を紹介する(筆者一部改編)。
 @所属部署における業務改善・改革への取組み(提言)
 A所属大学(法人)における業務改善・改革への取組み(提言)
 B受講したセミナー・研修
 C規程の草案作成
 D所属部署以外の業務(入学試験監督等)
 Eプロジェクトならびに各種委員会への参画
 F取得学位・取得資格
 G学会参加・研究発表
 H著書(寄稿等)・論文
 Iその他
履歴書作成のポイント
 挙げた項目のうち、@ACについては、必ずしも実現に至っている必要はない。それは、それまでの過程で十分な取組み、つまり情報収集・分析や具体的なプランニングがなされた経験が重要だからである。
 Eの場合には具体的にどのような形で参画し、成果があったのかなどを示す必要がある。特に、諮問機関であった場合は答申という形で成果を示すことになるので、答申のポイントを押さえておくことが肝要である。
 ここで注意したいのは、FGHにウエイトがかかりすぎると、少なからず日常業務に影響することが懸念されることである。つまり、業績をつくる背景には、個々の業務遂行工程の長期化や少なからずの周囲の協力が不可欠であり、このことをどれだけ留意できるかが、大学職員の履歴書を書いた後の行動で大切なところである。
 しかしながら、履歴書を書くことは難しい。筆者も山口氏のアドバイスにより自らの取り組みを履歴書に落とし込み始めたのは、ここ数年であるため、本学入職直後の記憶は曖昧で記載できないものがあり容易に作成できるものではない。まずは、形式などにとらわれず、オリジナリティある履歴書をつくられることをお勧めしたい。
情報共有のススメ
 履歴書の作成後は、その内容を大学職員仲間と共有することをお勧めしたい。共有する過程で自身の仕事の現状、改善点、提案を発表し、それに対して他の職員が質疑応答を行うことで、仕事の棚卸しと可視化が可能であり、振り返りにも非常に有益である。
 加えて、他部署から異なる視点でのポジティブなアドバイスを受けることで、大学全体と自分の仕事がどのように関連しあっているかに気づく契機となり、異動の多い大学職員にとっては部署間の情報共有は極めて有益であり、内容次第では、業務上の連携も容易となり更なる業務の効率化にも寄与することであろう。
 しかしながら、実施に当たっては各職員の負担になることは間違いない。発表者に賞賛を送り、出てきた意見は否定せず、ポジティブな姿勢を見せ、質疑応答や議論の推進役を担うファシリテーターの力量が問われる。意見を引き出し、再び「情報共有がしたい」と思われる場を作るための準備が改めて必要かもしれない。
 多くの大学の場合、情報公表の各種データを共有しながら進めることで無理のない導入も可能であると筆者は考えている。
おわりに
 大学行政管理学会は、約1500名の大学職員で構成される学会である。全国各地に地区別の研究会とテーマ別での研究会を設け、年間100回を超える研究会が開催されている。加えて、非会員でも参加できる研究会もあるため、是非とも、自律的なSD実践を行うに当たっての刺激を求めて積極的に参加をしていただければと考えている。(おわり)


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