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平成24年7月 第2491号(7月25日)

改革の現場
  ミドルのリーダーシップ <23>
  地域密着で個性的教育を作る
  鹿児島純心女子大学



 鹿児島純心女子大学は、1994年に、長崎純心聖母会を母体として創立した。中学校から短期大学までを鹿児島市内に設置する一方、大学は鹿児島市から離れた薩摩川内市に設立、その後付属の幼稚園と保育園を同市内に設置した。建学の精神は「聖母マリアのように神様にも人にも喜ばれる女性の育成」。現在は、国際人間学部、看護栄養学部の2学部を設置する。地域ニーズに合わせた教育を行い、就職決定率はなんと文系大学では驚異の98.1%。その経営手法について山本文雄理事・法人事務局長・大学事務局長、中馬庸三学生支援課長、平川欽哉進路支援課長、川畑康成入試広報課長から話を聞いた。
 薩摩川内市からの熱心な誘致により設立。長谷ノブ理事長は大学経営に熱心で、状況が悪化する前に対策を立てることを信条とし、時代の先を読んで必要な学部を作るなど、強い信念と行動力を持ち合わせていた。また、歴代学長も日常的に事務部署に顔を出しては職員に気軽に声をかけ、朝礼でも積極的に想いを伝えた。「どんな苦しい時でもやればできる」と明るく教職員に語りかけてきたことが、現在の教職員のモチベーションの高い文化を形成してきた。
 学長には「学園が持つ伝統のカトリック精神に基づく女子教育を継続することこそが重要で、小さくても聖母マリアのような女性を輩出したい」という強い思いがある。また、「マリアさま、いやなことは私がよろこんで」の学園内標語は、一部教職員の名刺にも刻まれている。小規模大学ならではのアットホームかつ教職員の距離の近さが最大限に活かされている。例えば、きめ細かいキャリア支援は、就職率が、健康栄養学科で平成22年度、こども学科で6年連続、看護学科は14年連続、100%と驚異の数字を叩き出す。
 企画室等の部署はなく、大小の様々な企画は、理事長、学長、事務局長が下案を考える。教員と職員は運命共同体という認識が根付いており、20近くある大学委員会には課長級職員も2、3名参加している。
 職員がデータやエビデンスを集め企画の提案を行う。「しかし、教員が持っていない知識を補完する程度で留まってしまっています。事務局として教員に何を提言出来るかが課題ですね」と山本理事。昨年度からはSDを兼ねた問題解決型ワーキンググループの試みを始めている。昨年のテーマは中退予防。全ての課から若手職員を出してもらい、課題と解決策をまとめて、翌年4月にFD委員会に報告をしてもらった。「大学全体が若手の発想による政策提言案を受け入れられる土壌になっていけばと考えています。逆に若手には企画性をもった提言が出来る力をつけさせたいけど、まだまだです」。
 特筆すべき取組は、何と言っても文部科学省のGP事業に5年連続で採択されたことだ。「外部資金の調達を強く訴えた副学長の提案により、学長や副学長、学部長等をメンバーとしたGP委員会を設置し、4学科に「各科で特色ある教育に光をあてて、プログラム化して申請にトライしなさい」と指示を出しました。出てきた申請書案をGP委員会で審査をして、実際にプログラムに応募しました」と中馬課長は振り返る。短大時代に1回目に採択を受けた経験をもとに、中馬課長が取りまとめながら、採択されるコツを蓄積し、ヒアリングをはじめ、担当者にアドバイスをする。小規模だから採択件数は目立ち、また、広報上の特色のアピールとその予算にも繋がった。
 第三者認証評価を契機に自己評価は毎年行っており、その結果はホームページにアップしている。「教職員自らが仕事を見つめ直し整理しています。自己評価を気にしながら仕事をすることは負担にもなりますが、絶えず自分たちのポジションが確認できます」と平川課長は語る。
 大学を中心市街地から離れた場所に設置したことについては、「学生募集への影響はあまりありません。今年も受験者数は変わっていません。薩摩半島の北部にかけて大学がありませんから、地元の高校生が自宅から通ってくるなど、教育内容で支持して頂けています。最近では新幹線が開通して、八代から30分、熊本も通学圏内に入ってきました。これまで水俣、八代方面の受験生は鹿児島の方は向いていませんでしたが、薩摩川内市も射程に入れ始めています。大学の本質は立地ではなく、どこで理想の教育を行うかだと思います」と川畑入試広報課長。鹿児島市内の競合学部については、「むしろ本学の特色やメリットを打ち出すことが重要です」とも説明する。地域連携も進んでいる。平成18年には「鹿児島純心女子大学と薩摩川内市教育委員会との連携協力に関する協定」を締結し、地域連携事業計画も作成している。ここには、職員に限らず学生の力も借りている。
 純心聖母会を母体とする大学は三つある。東京純心女子大学、長崎純心大学、そして、鹿児島純心女子大学だ。そして、これらの学長には純心聖母会よりシスターが派遣される。三大学の連携が今後の課題だ。

GP5年連続獲得など特色ある教育づくりを推進
日本福祉大学常任理事/桜美林大学大学院教授 篠田道夫

 鹿児島純心女子大学は、鹿児島市内にある短大、中・高と同じキャンパスで1〜2年次教育の一部を行っていたが、2008年に本校のある薩摩川内市に統合し、全学教育を行うことを決断した。中心都市移転の流れにあえて逆らって薩摩川内市で生きることを決めた背景には、開通した九州新幹線の停車駅という交通アクセスの面もさることながら、鹿児島県北西部にある唯一の大学で、薩摩川内市の支援も熱心、もともと地域密着型で地域ニーズに応えることに存在価値を置いてきた設立の理念があり、立地場所よりも個性ある教育を実現できるか否かが、生き残り発展する核であるという強い信念があった。
 しかし、その道は平たんではなかった。定員確保には厳しい環境で、創立時の国際言語文化学部を2001年には国際人間学部に改め、2002年にはこども学科、健康栄養学科を増設、2004年英語コミュニケーション学科に改組、2010年に国際人間学部に4コース制や幼稚園、小学校教員免許課程を置くなど資格と就職を重視する連続的改革を行ってきた。
 優れているのは、地方・小規模でありながら、2006年から5年連続GPを獲得、作り上げてきた個性ある教育のレベルの高さを実証したことである。採択されたテーマは「川内川エコパートナーシップ」「認知症教育を通した人づくり・まちづくり」「英語新時代を拓く教師養成モデルの構築」「企業アンケートに学ぶ学士力・実務力向上と学生支援体制の強化」などで、大学のミッションと個性を良く示すものとなっている。
 その背景には、全学カリキュラム・教養教育特別委員会など、時々のテーマで改革組織を作り、大学教務委員会が主導して、全学あげて学士課程教育の質向上、初年次教育、リメディアル・補習教育、シラバスと成績評価、キャップ制、GPA導入、単位制の実質化など中教審等の答申を正面から受け止め、原則的な教育改革を積み上げてきた成果がある。また、学長を責任者とするGP特別委員会を設置、その下にワーキンググループを置き、申請にあたっての事業の必要性、教育効果、そして事業申請、採択後の事業推進に一貫して全学的、専門的に取り組む仕組みと責任体制を整えたことが上げられる。
 教育の成果を示す就職実績も抜群だ。今年(2010年)の大学案内でも冒頭に就職実績98.1%を強調、特に、こども学科、看護学科、健康栄養学科は就職率100%を誇る。
 こうした優れた改革ができる背景には、GPのテーマにもなったアンケートに基づく改善システムが機能している。学生による授業アンケート、学生生活実態調査、就職先の企業アンケート、卒業生アンケートを取り、丁寧に改善策を講じることで学生の満足度を向上させてきた。
 そして、これらの取り組みは個々バラバラで実行されるのではなく、長期計画(平成21年度〜28年度)、中期計画(平成21年度〜24年度)で全体方針として示され、教職員が共有して進める運営となっている。この計画では、学部・学科ごとに課題や改善方針を明示すると共に、教育研究の充実、学生支援、地域貢献などテーマ別に新規事業や、改善策が盛り込まれ、これがまた補助金獲得の柱となりかつ評価向上、学募の核となっている。
 学長は規定で設立母体である「長崎純心聖母の会」会員がなり、現松下学長は理事長も兼務する。カトリック精神をバックに、経営面では、七つの設置校トップが参加する「学園管理・運営会議」が、大学では役職者と事務局長が加わる「大学管理運営会議」が、目標達成を目指す中期計画を強力に推進する。
 人事考課はなく財政上も課題はあるが、制度よりも専任教員70人、職員27人、全員の顔と特性を掴み、適材適所、一体感を重視した運営が効果を上げている。
 こうした取り組みで次第に定員割れを克服、今年は4学科中3学科が定員を確保した。地域密着で個性ある教育づくりに取り組んできた成果が、着実に表れている。


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