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平成24年7月 第2488号(7月4日)

学習環境デザインで  能動的な学習を支援する 3
  能動的な学習を支援する学習環境 大学図書館とラーニングコモンズA


三重大学附属図書館研究開発室准教授  長澤 多代

 アクティブ・ラーニングを導入した授業では、学生は、特定の課題や学問分野に関する知識を獲得することに加えて、知識を活用したり、これをもとに新しい知を創出したりすることが期待されている。その過程では、他の学生と議論したり、多様な情報資源を活用したりすることが重要になる。ラーニングコモンズは、これを効果的かつ効率的に支援できる教室外の学習環境である。前号では、大学図書館の新しい空間モデルとして、ラーニングコモンズの構成要素を説明した。本稿では、ラーニングコモンズの機能のうち、アクティブ・ラーニングと関わりの深い、協同的に学習する空間、多様な情報資源へのアクセスの窓口について説明する。
 3.協同的に学習する空間
 協同的に学習する開放的な空間はラーニングコモンズの中核である。可動式のいすやテーブルを配置して、利用者自身が目的や人数に応じて学習環境をデザインできるようになっている。いすは不要なときに小スペースにまとめられる並行スタッキングできるものが多い。テーブルは複数を組み合わせて多様なレイアウトを可能にする小型のものが多い。ホワイトボードも必須アイテムのひとつである。可動式で小型のものが多く、仕切りの役割も果たす。大阪大学では、大小のホワイトボードを設置している。学生は、ホワイトボードで計算式や図を共有しながら話し合いを重ね、予習や復習をしたり、グループ課題を仕上げたりしている。
 開放的な空間に加えて、囲われた少人数グループのための演習室を設置する大学も多い。壁は透明なガラスで、一部に半透明のフィルムを貼付することもある。プライバシーを確保しつつ、互いの気配を少し感じることによって、刺激をしあえるような空間になっている。金沢大学では、開放的な空間のとなりに6〜8名で利用できるグループ用のスタジオを設けている。スタジオ内にも、可動式のいすやテーブル、ホワイトボードを設置している。この演習室では、学生が勉強会をしたりプレゼンテーションのリハーサルをしたりもする。
 協同的な学習の空間は情報発信の空間にもなる。図書館が主催する情報リテラシー関係の講習会、授業やセミナーでの利用もある。名古屋大学では、図書館員が文献収集の方法に関する講習会を開催している。上智大学では、「レポート・論文の書き方」、「大学生が知っておくべき法律問題の基礎知識」など、学内の教員が担当するセミナーを開催している。
 4.多様な情報資源へのアクセスの窓口
 ラーニングコモンズでは、多様な情報資源へのアクセスの窓口となるために、物理的な環境を整備したり人的なサービスを提供したりしている。
 物理的な環境として、電子ジャーナルやオンラインデータベースを活用するためのコンピュータやネットワーク環境を整備することがある。多くの場合、据置型のPCを整備するとともに、持ち込んだPCを利用できるデスクを設置している。お茶の水女子大学では、据置型のPCを66台設置するとともに、貸出用のPCを利用する席を八席設け、無線LANの環境を整備し、スキャナー機能つきプリンターを1台配置している。大阪大学では、据置型の18台のPCを入口付近の端末ブースに設置するとともに、貸出用のPCを24台用意している。上智大学では、据置型のPCはないが、PC利用エリアに18席を設けるとともに、有線と無線LANの環境を整備し、貸出用のPCを37台用意している。
 学生が情報資源に効果的にアクセスできるように、データベースの検索の手順を説明したリーフレットを作成して、コモンズ内に備える大学もある。名古屋大学では、テーマごとの情報資源とアクセス方法を示したパスファインダー(情報探索の道しるべ)を提供している。電子情報へのアクセスだけでなく、図書を整備する大学もある。上智大学では、レポートの作成法、プレゼンテーションの方法、語学の辞書をコモンズ内に整備している。名古屋大学では、ライティング関連の図書コーナーを設けて、レポートや論文の書き方、大学での学び方、研究の基本、英文ライティングに関する図書を配している。
 物理的な環境の整備と並行して、人的なサービスも提供している。上智大学では、大学院生スタッフがコモンズ内の学習支援席で学習相談に応じている。利用時間は平日の12時半から17時である。主な相談内容として、レポートの書き方、情報収集の方法、プレゼンテーションの方法など学習関係のものに加えて、ゼミの選び方や授業のとり方に関するものがある。データベースの高度な検索法など大学院生スタッフでは対応できない相談を受けたときには、図書館の参考調査を案内している。
 東京女子大学では、学生アシスタントが、図書館の利用案内、端末操作のサポート、資料の探索やレポート作成の支援を担当している。お茶の水女子大学では、ラーニング・アドバイザーとなった大学院生が常駐して機器の利用や学習をサポートするのと並行して、学生アシスタントが図書館業務をサポートする。
 大阪大学の総合図書館では、利用支援カウンターにティーチング・アシスタント(TA)や図書館員が待機し、情報資源へのアクセスやレポート作成に関する質問や相談に応対している。同理工学図書館では、TA自身が小規模の講習会を企画・実施している。名古屋大学では、平日の15時から19時まで、大学院生のスタッフが日本語、中国語、英語で学習をサポートしている。
 日本では、ラーニングコモンズを箱物として議論する傾向が強いという指摘がある。永田は、学習用のコンテンツが得られないコモンズは、ほぼ自習室と等しく、単なる作業場所でしかないと指摘する(永田、2008)。アクセス可能な情報資源を含む学習コンテンツのあり方、その効果的かつ効率的な利用を支援する人的サービスのあり方もあわせて、ラーニングコモンズを計画することが重要になる。
 次号では、ラーニングコモンズの設計について説明する。
(つづく)

 〈引用文献・参考文献〉
 各大学の事例については、各大学のWebページや訪問調査で得たデータを参照している。
 レポート・論文を書くために.館燈.2011、No.180. p.2.
 永田治樹.大学図書館における新しい「場」インフォメーション・コモンズとラーニング・コモンズ.名古屋大学附属図書館研究年報.2008、No.7. p.3-14.
 上田直人、長谷川豊祐.わが国の大学図書館におけるラーニング・コモンズの事例研究.名古屋大学附属図書館研究年報.2008、No.7. p.47-62.
 上原恵美、赤井規晃、堀一成.ラーニング・コモンズ.図書館界.2011、No.360.p.259.


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