平成24年6月 第2487号(6月27日)
■学習環境デザインで 能動的な学習を支援する 2
能動的な学習を支援する学習環境 大学図書館とラーニングコモンズ@
日本の大学では、18歳人口の減少、グローバル化や情報化などを背景として、教育の質保証を目指した大規模な教育改革を進めている。その中で、主体的な学習者となり、生涯学び続ける市民となる学生を育成するために、アクティブ・ラーニングを導入する大学が増えている。この流れの中で、大学図書館も、多様な取り組みによって、教育改革、そして教育の質保証に貢献しようとしている。
本稿は、前号の城間祥子先生による「能動的な学習を支援する学習環境」の続編である。前号では教室空間を中心とする学習環境について解説しているが、本稿からは教室外の学習環境である大学図書館について、ラーニングコモンズに焦点をあてて説明する。
1.大学図書館の新しい空間モデルとしてのラーニングコモンズ
ラーニングコモンズの定義は諸説あるが、多様な利用形態や学習スタイルに対応するために、学習支援サービス、情報資源、設備を総合的にワンストップで提供する学習支援空間であると言える。コモンズは共有空間を意味する。米国の大学図書館で1980年代半ばにインフォメーションコモンズが計画されたのが始まりで、学士課程教育が「知の伝達」から「知の創出・自主的学習」に移行したことを反映して、ラーニングコモンズへ転換した(米澤、2006)。『大学図書館の整備について』(審議のまとめ)でも、学生の主体的な学習を支援するために、ラーニングコモンズなど学習支援の場を充実させることが重要だと指摘している(科学技術・学術審議会、2010)。
日本では、2000年に国際基督教大学の図書館がスタディ・エリアを設置したのが始まりで、2007年にお茶の水女子大学の附属図書館が「ラーニング・コモンズ」を設置した。その後、名称は多様であるが、東京女子大学、金沢大学、静岡大学、名古屋大学、大阪大学など、大学図書館内にラーニングコモンズを設置する大学が急増した。東京女子大学のように外部資金を得て図書館を改修した例もあるが、耐震改修の中でその機能を追加する大学が多い。名古屋大学では、二年間の概算要求でラーニングコモンズを整備した。
2.ラーニングコモンズの構成要素
McMullenは、米国の大学図書館の調査をもとに、ラーニングコモンズの構成要素を右下の表のようにまとめている(McMullen,2008)。
従来は、学習に必要となる図書館資料などの情報資源、PC等の情報基盤、その効果的な活用を促す人的サービスは、キャンパス内に分散し、個別に提供されていた。ラーニングコモンズの目的はこれらを総合的に提供することである。これは、サービスを提供する側から考える運営者志向ではなく、サービスを受ける側から考える利用者志向の学習支援空間であることを意味する(呑海ら、2011)。
前号にあるように、アクティブ・ラーニングを促す教育方法の広がりとともに、アクティブ・ラーニングを促す教室の整備が求められている。アクティブ・ラーニングを支える教室外の学習環境として、大学図書館の整備が求められる。
次号からは、国内の大学図書館に設置されたラーニングコモンズを紹介する。
(つづく)
〈引用文献〉
中央教育審議会.予測困難な時代において生涯学び続け,主体的に考える力を育む大学へ(審議のまとめ(案)).中央教育審議会,2012.
呑海沙織,溝上智恵子.大学図書館におけるラーニング・コモンズの学生アシスタントの意義.図書館界,2011,No.359, p.176.
伊藤義人.特集によせて.名古屋大学附属図書館研究年報.2008,No.7,p.1.
科学技術・学術審議会.大学図書館の整備について(審議のまとめ).科学技術・学術審議会,2010.
河西由美子.“自律と協同の学びを支える図書館.”学びの空間が大学を変える.ボイックス,2010,p.102-127.
加藤信哉編訳.ラーニング・コモンズ基本論文集(科学研究費補助金(基盤研究(B))研究成果報告書).2010,136p.
McMullen, S.US Academic Libraries:Today,s Learning Commons Model.,,OECD. http://www.oecd.org/dataoecd/24/56/40051347.pdf(参照2012―06―01).
米澤誠.インフォメーションコモンズからラーニングコモンズへ.カレントアウェアネス.No.289,2006,http://current.ndl.go.jp/ca1603(参照2009―08―05).