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教育学術オンライン

平成24年6月 第2487号(6月27日)

教育改革は建学の精神から
  学内への浸透を図る2つの方法の提案



 教育学術新聞では、2011年7月より、日本福祉大学常任理事の篠田道夫氏の協力を得て、「改革の現場―ミドルのリーダーシップ」を連載しているが、これを通して、改革に一定の成功が見られる大学の参考になりそうな事例を紹介する。

●建学の精神を追求する
 各私立大学の存在理由でもある「建学の精神」に、創業者の教育哲学が込められているので、やはり全ての改革のスタートはここに立ち戻るべきである。アドミッション、カリキュラム、ディプロマの三つのポリシー設定も、これ抜きには語れない。
 例えば、嘉悦大学が改革に際してまず行ったことは、若い教員たちが、嘉悦大学の創設者、嘉悦孝女史の思想や生涯を研究し、創設者の教育哲学を徹底的に頭に叩き込むことだった。建学の精神である「怒るな働け」を現代に求められる人材像に置き換えて教育目標を打ち立てている。
 甲南女子大学の北市哲朗常務理事は、私立大学の教育改革について、「不易流行」が重要だと訴えた。すなわち、不易は「建学の精神」という創設時の魂、本質を追究して、現代的な教育理念に落とし込むこと。流行はその時代の社会の要請に敏感に、そして的確に対応することである。
 まさに、建学の精神を現代風に置き直すことが重要である。最近はやりの「グローバル人材の育成」を掲げるにしても、建学の精神に基づいたグローバル人材像は、各大学によって異なるはずである。更に、教育方法自体もPBLやサービスラーニングと言ったアクティブラーニングを採用することも必要であろう。また、研究活動も教育に活かすための研究活動、とする位置づけが必要であろう。そこを徹底して突き詰めることが、まさに私立大学の教育改革の本質である。
●どのように突き詰めるか
 トップのみで建学の精神を突き詰めるのも一つの方法だが、弊紙の2485号で紹介した、「プロジェクト型研修(PBT)」を活用することを提案したい。すなわち、若手教職員のプロジェクトチームを結成し、この任を与え、報告させるのである。
 さて、教育目標が定まったのちには、これをどのように学内に浸透させるかが問題となる。教育目標を打ち立てるより、学内に浸透させる方が数倍困難な問題となろう。ここで明星大学に見る二つの手法を紹介する。
 一つは、学科ごとに、学科主任等をリーダーとした若手・中堅教職員のチームを作り、彼らが教育目標をみっちりと理解し、学科全体にそれらを伝えるナビゲータとしての役割を与えることだ。更に彼らは、学科教員と協議しながら、教育目標等を実現するための数値目標を定め、更に、それぞれの教職員がその目標を実現するために何を行うかを各自で定める。ビジョンから個人の目標管理まで一本の筋が通った仕組みを構築するには、このように各学科にナビゲータを据える、という手法は効果的であろう。その後、学生の学習成果を評価するアンケート等を実施して、評価の低い項目については改善につなげるといった、教育のPDCAサイクルを構築する。
 二つ目は、改革に後ろ向きな教職員の説得手法である。深刻な収容定員割れ等にならない限り、本腰を入れた改革はなかなか進まないものであるが、明星大学は非常に明快な理由をこうした教職員に突きつけた。
 つまり、全ての改革は「点検・評価活動の一環」としたのである。その背後には、7年に一度の受審が「義務化された」第三者評価の存在がある。評価をパスするために、日常の改革が必要であり、改革のエビデンスとして点検・評価を行うとしている。
 認証評価は更に、自大学の改革推進のボトルネックを評価員に「指摘してもらい」、改革を後押ししてもらう、という利用の仕方もある。このように改革者にとって、認証評価は味方に付けることができ、「やらなければ基準違反になる」制度を根拠とするのは優れたやり方の一つである。
 あるいは、中教審等の各種答申、学校教育法、私立学校法、大学設置基準等の改正を学内の説得材料に利用している大学も少なくはないが、当然、一朝一夕でできることではない。自大学の教育改革の方向性を明確に見据え、答申等の深い読み込みにより、どの個所を引用するか、あるいはしないかを判断することは、それなりのセンスが必要となろう。
 教学改革に限ったことではないが、改革に成功している大学幹部の手法には定石がある。反対する教職員の意見を上手に抑え、現場の若手・中堅教職員の積極的な意見・不満を吸い上げ、経営に活かす仕組みを確立している点である。しかし、このような「ボトムアップの経営」を目指すこともまた、トップの判断が重要となるのである。


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