平成24年4月 第2479号(4月18日)
■改革の現場
ミドルのリーダーシップ P
特色ある教育を作る持続的改善
神田外語大学
神田外語大学は、1963年創立の神田外語学院を運営する学校法人佐野学園が1987年に開学した。建学の理念「言葉は世界をつなぐ平和の礎」の下、開学以来、環太平洋地域の重要性に着目し、同地域の「言葉と文化」の教育にこだわり続けてきた。このたび、地域全体を俯瞰する視点の涵養や育成する人材像の明確化等を目的として、外国語学部設置の学科を、英米語学科、アジア言語学科、イベロアメリカ言語学科、国際コミュニケーション学科に再編。「イベロアメリカ」とは、イベリア半島のスペイン・ポルトガルとこれらの国を旧宗主国とする中南米諸国を指す。多数の外国人講師と留学生を擁する「グローバル・キャンパス」を形成し、いつでも外国の「言葉と文化」に触れられる機会を学生に提供している。このような状況を可能にしている仕組みや工夫等について、佐野元泰理事長、酒井邦弥学長、岡戸巧執行役員・事務局長、長田厚樹執行役員・学事部長に話を聞いた。
大学の役割として教育を最重視するとともに、教育の本質を学習支援と捉え、教職員一体の実践を行っている。酒井学長は「教育目標は自立学習者の養成です。課題を与えてプレゼンテーションさせる授業形式がスタンダードであり、予習・復習を欠かすと授業についていけません」と述べる。
教育重視の方針を教員に浸透させる仕組みも構築されている。「教員採用時には模擬授業をお願いしています。まずは3年任期付きで採用し、その後、再任審査委員会でテニュアとするか決定します。教育重視評価なので学生の授業評価は非常に高くなっています」と長田執行役員・学事部長は説明する。
特色ある外国語教育の一翼を担うのは、現在65名の講師が所属するELI(English Language Institute)である。ELI所属の語学専任講師の存在が、一教員当たり学生数が11.1人と驚くべき比率を実現している。学生と比較的年代が近い講師たちが、月曜日から金曜日の九時から17時まで常駐し、英会話の練習からレポート添削まで、学生目線で支援する。この講師陣は、英語教授法や応用言語学の博士又は修士課程の修了を条件として、世界中からリクルートされる。任期は2年で、審査ののち更に2年の更新が可能である。そのため、毎年15名程度が入れ替わる。この点について長田執行役員・学事部長は「確かに講師のリクルートは大変です。しかし、英語教育法は日進月歩ですから、常に新しい手法を持っている講師に教鞭を取って頂きたい。従って、教育実績に加えて研究実績も重要です。授業観察は年3回、独自カリキュラムや教材の開発、自立学習支援にも加わって頂き、毎年改善しています」と述べる。こうした雰囲気はELIに留まらず、全学的に教員は、相互の授業観察・研鑽に熱心。職員から授業参観の要望が出た際にも反対した教員は皆無であった。
教職員間に壁がなく、職員も学習支援に熱心なカルチャーは、神田外語学院から受け継がれたもので、学院の実践、経験が大学に上手に活かされている。更に学内の改革提案を現場から吸い上げるとともに、職員の育成の場として機能しているのが、大学連絡会議である。「月2回、各部署から1名ずつ若手職員が参加し、その職員が自分なりの改善提案をまとめてプレゼンテーションを行います。学内改革の端緒となる他、若手職員が自分の仕事を振り返る機会にもなっています。終了後は、議事録をまとめてイントラネットで全職員に共有されます」と岡戸執行役員・事務局長は説明する。
中期経営計画については、2005年の認証評価受審が策定の契機となった。受審で法律や設置基準の順守等は確認できたものの、1年ごとの事業評価と改善サイクルも必要であるとの認識から、翌2006年に中期経営計画に着手。現在は第2フェーズを迎える。「第2フェーズでは、全職員が事業計画の目標に対して責任を持つ仕組みに変えました。つまり「教育・研究の資質向上」や「学生支援の充実」という大きな方針や項目を掲げたのち、職員一人一人が自分の業務からどのように方針や項目の実現に貢献できるのか、3年間の実行計画を提出してもらいました。それらを積み上げたものが「中期経営計画」です」と岡戸執行役員・事務局長が言及する。つまりトップダウンで全体的な方針を定め、ボトムアップの積み上げでアクションプランを策定していく。
佐野理事長は今後の方針について次のような見解を示す。「神田外語大学が今後も必要とされるにはどうしたらよいか、今後、全教職員と話し合っていきたい。海外で働く卒業生のコミュニティも出来てきましたので、卒業生にも一層ご協力頂き、学生が卒業と同時に海外で働ける仕組みも作っていきたいです」。
「教職協働」と言わなくても、専門学校時代からその素地があった。意欲の高い教職員に支えられ、同大学は理想の外国語教育を目指す。
120項目の中期経営計画で総合的な改善に取り組む
日本福祉大学常任理事/桜美林大学大学院教授 篠田道夫
神田外語大学は「言語と文化を学ぶ日本一の環境」を自負する。学内に、7か国の建物や生活文化を再現したMULC(Multilingual Communication Center)や、英語のみで話し、徹底した個別指導を行うSALC(Self-Access Learning Center)といった自立学習施設を作り、さながら留学した雰囲気の中で外国語・文化教育を行う。その指導体制も充実しており、少人数・参加型・実践的な授業を、60人を超えるネイティブスピーカーの教員を含め、教員一人当たり学生11人という恵まれた環境で行っている。
2005年に受審した認証評価が契機となり、創立20周年を迎えた2007年前後から、弱点を克服し、高い評価を得たものには、さらに磨きをかけ、大学の質向上と特色化を図るシステムを確立・整備してきた。こうした改革推進体制は、2010年に就任した現理事長佐野元泰氏に受け継がれ、さらに加速することとなる。
2007年度からスタートした中期経営計画は現在、2012年度までの第二フェーズに取り組んでいる。この経営計画の大項目は、コ@教育・研究の質向上、コA学生支援の充実、コBキャリア支援の強化、コC企画力・改革力の強化、コD広報力・募集力の強化、コE運営・組織体制の強化、コF財務力の強化、コG社会連携の推進の8分野から設定される。それをさらに32の中項目に分類、120の小項目の計画として立案、総合的で具体性のある中味となっている。例えば、コA学生支援の充実(大項目)では、中項目@自立学習支援の充実に対して、具体的改善計画として15の施策(小項目)が設定されている。同様に、A留学生支援では7つ、B課外活動支援でも7つ、C健康・体力向上支援で2つ、D施設・設備の充実で四つの施策に具体化されるという具合だ。
小項目ごとに何をやるか、「実行計画」が簡潔に書かれ、「主管部署」「担当者名」が明記され、「スケジュール」として3か年の進行計画を具体化、「達成目標」として、どういう状態にもっていくのか、具体的な到達目標を記載する。計画自体は簡潔に1〜2行で、その下に半年ごとの進行状況を書き込む。
優れている点は、この計画が上からの指示ではなく、担当者の提起がベースに作られることだ。中期経営計画の柱、大きなテーマの提示、志願者や就職率など具体的な目標を含む全体目標の提示を受け、担当者が現場から自ら現状を分析、問題点や強化策の課題を設定、改善・向上計画を立案、達成目標を設定する。これを事務局長が取りまとめ、執行役員会で審議してまとめる。そして、各担当者が進捗状況を半年ごとに電子フォームに記載してチェックするとともに全職員の共有化を図っている。
職員は一人当たり1〜4項目程度の課題を受け持つ。これを人事評価の目標管理シートとも連動させ、日常業務遂行上の目標の他に中期経営計画上の自己の役割・課題を明記させ、年度単位でさらに詳しく到達状況や問題点を記述し、また次年度の改善計画を練る。目標を鮮明にした改善行動を積み重ねることで職員の育成、力量向上も進める。上述の大学連絡会議では、職員が持ち回りで具体的な改善計画のプレゼンテーションを行う。学生満足度アンケートを実施し、その集計結果と併せて出された意見に対する具体的な改善策、サービス向上策を同時に発表している。これもこうした取り組みの延長線上ではじめて可能となる。
中期経営計画に基づく3年・1年・半年単位の改善サイクルを続け、これに年度単位の自己点検評価を重ね合わせることで、改革推進の独自マネジメントシステムの確立を目指す。変化の激しい高等教育環境、高校生や学生ニーズの変化、就職先の動向にもきめ細かく対応し、現場からの改善を総合的に推進することで、大学の特色化、評価の向上を継続的に進めることを狙っている。
全職員参加型の改善行動の積み上げを通じて、「日本一」を自負する特色ある教育を作り上げ、進化させている。