平成24年4月 第2478号(4月11日)
■改革の現場
ミドルのリーダーシップ O
教学マネジメントサイクルの確立へ
筑紫女学園大学
(学)紫女学園は、明治40年に浄土真宗本願寺派の北米開教使だった水月哲英氏が、帰国後に筑紫女学校を創設したことに始まる。その後、中学校、短期大学、幼稚園を開設し、1988年に筑紫女学園大学を開学、現在は文学部と人間科学部を設置している。同大学では、三つのポリシーに加えて、四つ目のポリシーである「サポートポリシー」を提唱、学生支援について独自の「進化」を遂げてきた。どのようにしてこうした取組が生まれてきたのか。金子修三法人本部事務局長、假屋幸康事務長、吉井 清事務次長・企画室長、花村 哲企画広報課長補佐に話を聞いた。
大きな転機は認証評価だった。二代前の高石史人学長は、認証評価を受ける体制を整備するため、職員の役割を重視する改革を行った。平成15年に企画室を設置するなど事務組織を再編し、教員のみだった各種委員会において課長職の職員を構成員とした。高石学長は更に職員を困惑させる提案を行う。「認証評価を受けるに当たり、自己点検・評価報告書の各章の原案は各課の課長が書くようにと指示しました。それまで職員は教員からの指示にいかに的確に行うかが仕事で、文章を作成することが初めての課長もいました」と金子事務局長は述べる。まずは各課長が原案を作成し、担当する教員と協議、その結果を企画室がまとめる、という流れとなった。
しかし、報告書の執筆という経験が、職員の意識を大きく変えることになった。自己点検・評価報告書を書くということは、少なくとも自らの業務領域を完全に把握しなければならず、ひいては大学全体の客観的・数値的な現状やあるべき姿や目標を考える契機となった。「学内規定の大幅見直しや「基本理念と教育目標」を作成するなど、事務局主導の大学改革のきっかけになったと言えます」と吉井事務次長。
さらに特筆すべき点は、認証評価を受けたことで事足れりとしなかった点である。「評価員から継続的な自己点検を行っていくように、と指摘されたこともあり、教育開発センターと企画室が中心となり毎年夏休みにテーマを決めて教職員を対象として進捗・意見発表会を行うことにしました。例えば、今年は教学のあるテーマ、翌年は事務のあるテーマ、と教学と事務の発表を毎年交互に行います。このようにして事務と教学のマネジメントサイクルを回しています」と花村課長補佐は述べる。
更に平成20年に中川正法教授が副学長・教育開発センター長に就任した際に、三つのポリシーに加えて「サポートポリシー(SP)」を提唱した。これは初年次教育支援としての入学前教育、リメディアル教育、導入教育、自校教育などで、学習支援としての履修指導、クラスアドバイザー、スチューデントルーム…、キャンパスライフ支援としての健康支援、経済支援、課外活動支援、キャリア支援などの総合的な支援制度の体系化である。この理由について、「アドミッションポリシー(AP)とカリキュラムポリシー(CP)に整合性が取れておらず、カリキュラムについていけない学生がいます。様々な支援を体系化しSPの中に意味づけ、職員も含めた教職一体の学園としての学生支援の在り方をSPとしてまとめています」と假屋事務長。この背景にも職員の存在が欠かせなかった。外部の情報収集を熱心に行い、まとめてきたのは職員だった。
更に、FDについては「教育・学習効果を最大限に高めることを目指したA領域(教育課程構築)、B領域(授業・教授法の向上)、C領域(組織の整備・改革)への教員・職員・学生による組織的な取組の総体」と定義し、それぞれの領域について取り組んでいる。研修会では教育開発センターが企画室と連携して授業評価アンケートや初年次教育等毎年テーマを決めて行っている。現在は、様々なアンケートに基づき、エビデンスベースの取組が行われつつある。
筑紫女学園職員に求められている力は何か。金子事務局長は「将来を見通した企画立案力です。将来に向けて仕事をするとき、事務職員として過去の仕事の整理や現在の仕事を正確に行うのは当然ですが、「将来の筑紫女学園の価値を高めるには、今何をしなければならないか」を考え、具体的な事業を提案することです」と説明する。
教学や経営のPDCAサイクルを回して質的改善を行っていると、各大学に即した新しい取組が現場レベルから提案される。まさに同大学における「サポートポリシー」がそれだ。また、このたびの取材の中でも「AP」や「CP」という言葉が当たり前のように飛び出してきた。一般職員が政策、そして、現状の大学全体に関心を示し、考えている証左である。
SP(サポートポリシー)を定式化、専攻・コース目標で教育を充実
日本福祉大学常任理事/桜美林大学大学院教授 篠田道夫
筑紫女学園大学には、教育目標とその達成数値目標、AP・CP・DP(ディプロマポリシー)を学部・学科・専攻・コースごとに記載した冊子がある。これは「基本理念と教育目標―教学マネジメントサイクルの確立のために」と題するもので、2年ごとに改訂され、教職員の教育活動や業務遂行の柱として使われている。
この冊子の冒頭で、これまでの「自己点検評価報告書」は執筆者の思いを述べた物の寄せ集めで、これが組織的意思となり、改善に資することはなかった。その最大の原因は、核となる使命・目標が未確立、かつ学科・専攻レベルの達成目標が設定されていなかった点にあることを強く指摘している。この冊子は、平成15年の認証評価を契機に、大学の力の源泉である教育の質向上、人材養成機能の強化のため実効性ある評価・改善を行う教学マネジメントサイクルを確立したいという、小野学長(当時)の強烈な問題意識からスタートしている。
もうひとつの重要な提起に、前述の四つのポリシーへの発展の定式化がある。地方中小規模大学の現実、経営の事情から、志願者は、学力・意欲に関らず受け入れなければならない状況にあり、入学後直ちにCPに繋がらない。そこを繋ぐには、多面的・総合的な正課外教育、支援体制の構築、学生サポートシステムが不可欠であり、これらをサポートポリシーと名付けた。そして、この4Pが、総合的に機能することで多様な学生を動機づけ、活性化し、支援して、学生の成長を図ることが出来る。
そして、特に優れているのは、教育目標の設定、さらに、その達成のための数値目標の設定である。専攻・コースにまで落ちて設定される目標は、かなりバラエティに富んでいる。社会福祉士等国家資格合格率、各種教諭免許取得率、司書、学芸員など資格取得者何名・何%、開講する課程の終了者数、TOEICの点数やパソコン、ワープロ検定合格者数、大学院進学者数、留学や海外研修参加者、授業評価の満足度の向上、ボランティア参加率、就職率さらに幼稚園教諭等その学科の専門分野への就職率目標等である。教育の成果を、出来るだけ数字で追求しようとしている。そして、この推進のために、前述したFDの三領域を、三層構造として体系化し推進している。
事務局も、この教育目標を基にして、各課で「SPを具現化する方針」を立てるとともに、その優れた点(強み)と課題(弱み)を明らかにし、どのように改善するか、達成目標(何を達成するか)と向上・活用計画(いつまでにどうするか)を明らかにする。
こうした一連の目標や計画は、立てっぱなしではなく、その実践を経て、毎年1回「発表会」と称し、教育、事務1年交代で、丸1日かけ、全教職員参加で到達状況と評価の報告・討論会を開催している。
こうしたマネジメントサイクルの推進組織として、自己点検評価組織と共に、教育開発センターが、学長の下で強力な力を持って動いており、これを大学企画室が支えている。センター長は副学長か学部長、企画室長は事務局次長が担う。
教員任せだった評価報告書を、職員が全て原案を書くように転換したことをきっかけに、目標設定からその到達度評価まで、事務局が主導的に管理する仕組みに変わった。ここから事務局の力量が飛躍的に高まり、改革推進の運営面は職員主導で進むようになった。
認証評価の実質化、如何に評価を改善につなぐかの問題意識から、徹底した教学改革のマネジメントサイクルを構築した優れた事例と言える。