平成24年2月 第2473号(2月22日)
■改革の現場
ミドルのリーダーシップL
組織改革で教育特色化を推進
神戸学院大学
神戸学院大学は、日本初の男女共学の栄養学部の単科大学として1966年に開学した。その後は法学部、経済学部、薬学部、人文学部、総合リハビリテーション学部等を次々に開設し、現在の7学部11学科と大学院6研究科、法科大学院を置く総合大学となった。神戸市内に3キャンパスを有し、2007年に開設されたポートアイランドキャンパスは神戸の夜景を一望できるオシャレなスポットとして地元では有名だ。今後厳しくなるであろう学生募集等にくさびを打ち込み、10年後の将来像を検討するため、2010年には、総合企画会議の下に「将来計画検討プロジェクト」を立ち上げた。教学、競争力強化、キャンパス環境整備等多角的に分析を行い、2011年1月に最終答申を出した。現在の改革状況を松本史朗事務局長・常務理事と難波一安総務部長に話を聞いた。
総合大学ならではの充実した教育プログラムの目玉は、「共通教育科目」と、防災・社会貢献、スポーツマネジメントの二ユニットで学べる「学際教育」である。中でも防災・社会貢献ユニットは、提携校である東北福祉大学、工学院大学とともに、東日本大震災の復旧・復興支援で活躍中である。定員は少ないが、ユニットに入る学生は大きく成長する。
「学際教育は、学長主導の下で社会貢献を専門としていた教員と若手職員のチームで立ち上げ、文部科学省のGP事業への申請書を作成しました。賛同する教員が徐々に集まりプロジェクトが立ち上がり、学部を超えて履修できる現在の形になりました」と松本事務局長は述べる。もともと、社会で活動をしている教員が多かったことも、職員側との連携がうまくいった要因だ。それが現代GPで採択された。学際教育機構は学長直轄とし、機構長は副学長が務め、学部横断的な取組は学長・副学長が責任を持つ。
「2007年に事務組織を部課制からグループ制に再編し、組織をフラット化したことにより、学生・受験生の情報や社会的なニーズを新しい企画に繋げやすくしました」と難波総務部長は言う。例えば、企画部が行った在学生アンケートや受験雑誌等での受験生・保護者へのイメージ調査の結果、「神戸学院大学は就職に弱い」というイメージがあることが分かった。そこで、就業力育成を目的にキャリア科目を置き、教職員の企業訪問を増やし、企業の採用担当者を新たに迎えるなどして学生の就職支援を強化。この取組をパンフレットやゼミを通じて周知した。また、オープンキャンパス運営の見直しなども行い、それまでは入学センターを中心に学部に依頼していたものを、学長のもとで学部横断的な実行委員会を設置し、在学生もTシャツを創るなどして従来以上に協力をしてもらい実施。効果は上々だと言う。
同大学には、大学経営において教員の力が強かった歴史がある。全学的な経営議案も、一つの学部教授会が反対したら通らない時期があったが、ここ十年の間に学部長レベルでは学生募集等への危機意識が醸成され、当時の事務局長が「理事会も大学経営を担わなければ」と主張したこともあって、2001年に寄附行為変更を行い、直後に常任理事会が置かれた。教員サイドから事務職員理事も必要だとの意見も出た。教学・経営に関する事案を審議する「総合企画会議」メンバーは教員だけだったのを、2003年から部長職員が参加。この審議結果を受けて、経営案件は常任理事会へ、教学は評議会へと送られるようになった。このようにして経営組織の強化と、それを実質的に支える事務組織の体制づくりを行った。「その際に教授会からの意見はありませんでしたが、各種会議の構成員について、学長が指名する教員が多すぎるなど学長の権限強化に対する意見はありました。しかし、学長は改革に意欲的で、例えば、中長期計画の策定等でも大まかな方向性は学長が出します。それに基づいて企画部が意思決定に必要な学内外の情報を収集し、定例的に事務幹部との打ち合わせを行います」と松本事務局長は振り返る。
答申は数回提出されたものの、実行にまでなかなか結び付かないので、2010年に岡田豊基学長が就任した際に、「実効あるものにしていく」と呼びかけている。その中で職員に求められている力を松本事務局長は説明する「情報を収集して教員に伝えていくコミュニケーション力です。経営、法律、会計などの専門知識をもとに事業提案を行い、教員と議論が出来る職員です」。
大規模大学では、教職協働がなかなか進みづらい。しかし、職員の経営参画を果たし職員の担うべき役割を明確にした同大学から学ぶことは大きい。
中期計画の確立・推進へ経営・教学・事務組織を強化
私学高等教育研究所研究員/日本福祉大学常任理事 篠田道夫
神戸学院大学の神戸ポートアイランドキャンパスは、素晴らしい校舎と立地で知られる。大学改革のテンポも速く2000年に入ってから連続的に学部・学科を新設、増設、再編した。同キャンパスを開設した2007年からは、全学共通の教養教育、基礎教育を実施する「共通教育機構」と学部の専門教育にとらわれない幅広い学問を学び実践力を高める「学際教育機構」で学部を超えた自在なプログラムを提供している。
企画部のアンケート調査等から、就職が弱いと評価されていることを掴んで、徹底したキャリアサポート体制の強化を推進してきた。就職内定まで四年間の全行程を支援、企業人事部経験者4〜5人を採用し指導強化、年間2300名の学生が個別相談に訪れ、また650社の企業を訪問する。目標設定―実践―振り返り―改善―のサイクルをWEB上に活動記録として蓄積するキャリアポートフォリオを構築した。1年次から進路ガイダンス、キャリアトレーニング入門を実施、内定まで徹底したフォローアップを行い、24時間どこからでも就職情報が見られるシステムも作った。採用企業アンケートを実施し、報告書を作成、各学部へもフィードバックするなど、あらゆることに取り組んでいる。
2012年に法人創立100周年を迎える。それまでに、次の発展計画である中期計画をまとめるのが学長が掲げる公約の柱だ。これまでの拡充政策の到達を踏まえ、まずは教学の充実、内実作りに集中、就職や学生募集の成果につなげる。その上で、学部学科の改編、そのための施設建設等大規模事業に着手する。高校の校地問題も課題となっており、そのための資金蓄積の計画も必要だ。これらの大きな改革の骨格を、100周年を機に固める。理事会での審議は言うまでもないが、これらの中長期計画策定の中心を担っているのが総合企画会議である。また、また、そこに行くまでの実質的な骨格づくりをするところが学長、副学長、学部長、事務局長等で構成される学長を中心とする会議である。
こうした展開を可能にした背景には、10年に及ぶ、経営強化、管理運営改革、事務機構整備の持続的な改革の努力の歴史がある。1970年代以降、大学の経営・教学事項の全てを教学組織が決める、教授会中心の運営が続き、理事会はいわば形式的な運営となっていた。理事会で決定しても評議会で覆ることもあり、また、学部と評議会の関係も、学部に係わる案件は評議会で学部の意向に反して決定することは難しく、学部の利害が対立し調整が難航すれば政策決定が困難になる事態もあった。構成員参加型の運営により、理事長・学長の権限は限られ、選挙で選ばれる学長と学部長には上下の関係はない、という風土であった。
しかし、近年の大学を巡る厳しい環境から、教学主導では経営難になっても法的・社会的責任は取れず、法人の経営基盤の整備、経営組織やそれを担う事務組織の整備・確立を求める声が、教職員、とりわけ事務組織から強く上がった。2001年、寄附行為変更、常任理事会の設置、経営・教学・事務一体の総合企画会議を立ち上げた。2002年からは事務局長の理事就任、経営を支える法人部と企画部を立ち上げ、経営確立の条件が整った。これによって、相互の責任を持った本来的な法人、大学運営体制が確立し、今日の発展の基礎を作り出すことになる。
規模の大きな大学での改革推進には、独特の困難が付きまとう。粘り強く改革を積み上げ、着実に成果に結び付ける努力が、大きな前進につながっている。