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平成23年12月 第2464号(12月7日)

大学教育におけるソーシャルメディアの活用のポイント― 下 ―
  

京都外国語大学マルチメディア教育研究センター准教授  村上正行

 前回は、大学授業にtwitterを活用した実践について紹介した。今回は、大学教育にSNS(Social Networking Service)を活用した実践事例を紹介した上で、授業にソーシャルメディアを活用するためのポイントや問題について検討する。
 SNSとは、友人関係や共通の話題などをベースとしたコミュニケーションを支援するコミュニティサイトであり“人と人とのつながり”に焦点を当てていることが大きな特徴である。日本においては、2004年にmixiやGREEがサービスを開始し、広く利用されており、現在、国内最大手のmixiは、2011年10月に登録しているユーザが838万人(ネットレイティングス発表)となっている。世界においても、Facebookが八億人のユーザを有しているのを始め、さまざまなSNSが運用されている。
 SNSの普及に伴い、大学を中心とした教育現場においても、授業内外における学生同士の議論や外部者との交流などSNSを教育や学習に活用する試みが行われている。本稿では、京都外国語大学において日本語教員養成の支援を目指して運用しているSNS「JapaS(ジャパエス)」を紹介する。このJapaSは、平成20年度に文部科学省「質の高い大学教育推進プログラム」に採択された「多文化共生時代の協働による日本語教員養成」というプロジェクトとして運用が開始されたもので、GPが終了した現在も継続して活用されている。教壇実習前後の学生同士のコミュニケーションを増加させる、教員が学習者に対して適切な支援を行う、学習者が作成した教案や教材などを共有する、といったことを目的としている。
 ユーザは日本語学科の学生に加え、日本語教員を目指している学生、卒業生、教職員などがおり、400名以上が登録している。機能としては、プロフィールやメッセージ、ブログなど一般的なもの、また、ユーザ全員が所属するコミュニティを準備した上で、目的ごと、授業ごとにコミュニティを作成し、授業内での活用も行なっている。授業に関する感想、模擬授業のための指導案などを書き込み、学生同士の情報共有、意見交換などを行う。また、日本語教員の実習のために海外に留学している学生などには、教壇実習記録をJapaS上に書いてもらっている。学生がさまざまなことを書くことで、ポートフォリオとしても機能し、自分の学習を振り返ってもらうことができる、と考えている。
 教育にSNSを活用する際に問題になるのは、学生がSNSにログインしない、ということである。それを解決するためにさまざまな仕掛けを行った。まず、ログインした際に新しい情報が提供されるように、日本語教員経験のある研究員に毎日ブログを書いてもらった。また、授業での活用においては、学生がコミュニティに書いた意見や準備した授業案などについて、当初は研究員や教員が積極的にコメントをすることで、学生に意見を書くことのモチベーションを高めることを目指した。こういったことを通して、ログインが日常的になり、学生同士が意見を書きやすい環境をつくることを目指している。
 また、卒業生で日本語教員として働いている人に、ブログを書いてもらうようにお願いし、学生が実際の日本語教員の体験や経験を知ることができるようにした。これは、ロールモデルの提供として、非常に有効であったと考えている。
 さらに、物理的な空間として日本語教員養成推進室を設置した。推進室には研究員が常駐し、1年次生から4年次生までがそれぞれ実習の準備作業を自由に行うことができる。インタビューの結果などから、推進室には対話相手がいつでもいること、同じ目的でありながら異なる属性の人がいて参考になること、自由に対面で会話ができることなどが機能し、結果的にSNSへの書き込みが促進され、特に学年を超えた交流ができるようになった。すなわち、SNSを単独で使うだけではなく、対面コミュニケーションを組み合わせることによって、それぞれの特徴を生かしたコミュニケーションがより活性化することができた、と考えられる。
 前回、今回とtwitterやSNSを活用した大学教育の実践を紹介してきたが、ソーシャルメディアを教育実践に利用する場合には、いくつかの重要なポイントがある。まず、ICTやソーシャルメディアを活用する授業をデザインする上で、なぜそのメディアを利用するのか、教育目標は何なのか、を明確にしておく必要がある。すなわち、そのメディアを使う文脈を学生に感じさせることが重要となる。
 新しいメディアを教育実践に活用する際に注意すべき点は、教員がそのメディアに慣れていること、学生や生徒がどのようなメディアを利用しているかを知ることであると考える。教員がそのメディアに慣れていない場合、授業が盛り上がらなかったり、トラブルになったりする可能性がある。また、学生のメディア利用は変化が早く、年代によってはっきり分かれることがあるので、状況を大まかに把握することが大事である。その上で、学生に教育実践で活用するメディアについての知識をしっかりと説明することが重要となってくる。
 筆者らは「SNSを教育・学習を目的として利用する場合、教育・学習目標に直接関係する学習内容の理解の支援だけではなく、インフォーマルな情報も含めてより広範囲に、さまざまな形の支援を行うことができる。これは、SNSの機能である日記やコミュニティなどを利用することによって可能となり、“人と人とのつながり”を支援することにもつながる」と述べてきた(村上・山田・山川 2011)。ソーシャルメディアを活用する場合、このインフォーマルな情報をどういう形で共有していくかがポイントになる。ただ、これまでにもさまざまなICTを活用した教育実践がなされてきたが、掲示板やメーリングリストなどにおける交流を活性化する上でも、この点は重要であると考えられ、これまでに得られた知見もかなり参考になる。これまでにICTを活用した経験を振り返ってみることはとても重要である。
 話題は変わるが、最後に若手FD研究者ネットワーク(JFDN Jr.)の紹介をさせていただく。2011年9月現在で、参加人数は89名(66大学)であり、大学教育センターの教員、FD委員会やFD業務に関わっている国公私立大学の教員、FDに関する業務を行なっている大学職員、FDに感心を持っている大学生・大学院生も参加している。現在、私が代表を務めさせていただいている。
 JFDN Jr.の活動の目的は大きく三つあり、大学教育センターやFD業務に関わる若手教員のネットワークづくり・相互支援、FDやFD実践に関する研究の推進・実行、若手研究者によるムーブメントの支援である。
 大学教育センターに勤めている教員やFDに関わっている教員は、自分の研究分野と違う業務に携わっていること、これまで大学で教育活動をほとんど行なった経験がないのに大学教員に対して研修を行う立場になる、などさまざまな悩みを抱えている。また、大学教育の改善という新しい業務の問題点もある。このように同じような立場の教員同士がつながり、情報共有を行うことによって、相互に支えあうことを目指している。また、FDに関わっている若手研究者は、大学の現状に関する課題に対してさまざまな意見をもつことも多いが、任期付きでの雇用も多く、立場的な問題から、大学内でなかなか意見を言えないという問題もある。そこで、このネットワークとして大学の現状について意見を表明していく、という役割も担うことも目指している。
 主な活動は、夏ごろに開催する年1回の合宿研究会、京都大学で実施される大学教育研究フォーラム(3月)にあわせた懇親会、メーリングリストやWebページ(http://jfdn-jr.net)による情報交換・共有、メールマガジンの発行、などがあげられる。メーリングリストおよびメールマガジンへの登録は常時受け付けており、上記Webページより申込みが可能となっている。もし、ご興味があれば、ご登録いただければ幸いである。
(おわり)


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