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平成23年11月 第2463号(11月23日)

ソーシャルメディア導入の授業 ―上―
  twitter活用の実践事例
  

京都外国語大学マルチメディア教育研究センター准教授  村上正行

 大学授業にソーシャルメディアを活用する大学教員が増えている。その中でもよく知られるtwitterは、140文字以内でツイート(つぶやき)することで情報を発信するメディアであり、フォローされているユーザーにそのツイートが届けられる。また、フォローしたユーザーのツイートを一欄して見ることができる。日本でのユーザー数は、2011年4月で1549万人となっている。ソーシャルメディアを活用した授業実践について京都外国語大学マルチメディア教育研究センターの村上正行准教授に寄稿してもらった。

 2008年度から学部でのFDが義務化され、授業改善に関する取り組みが数多く行われるようになった。その中でも、学生が授業に積極的に取り組むこと、活発に自分の意見を述べること、他の学生と議論を行うことなどを支援する授業デザインが重要となっている。
 一方、2000年代中盤くらいから、インターネット上においてユーザが情報を発信するなど、コミュニケーションが容易になってきた。mixiに代表されるSNS(Social Networking Service)、YouTubeやニコニコ動画などの動画共有サービス、twitterやFacebook、Google+などのソーシャルメディアなど、さまざまなサービスが開発され、普及しつつある。これらの特徴は、個人が発信した情報を共有することを通して、個人や組織が容易につながることができ、さまざまな経路で情報が伝播していくことだと考えられる。このような背景から、大学教育の実践にソーシャルメディアを活用する試みが行われるようになってきたと考えられる。
 筆者は2010年度から京都外国語大学の春学期「情報社会論」の授業において、授業中にtwitterを活用して学生の意見、感想を書かせるという実践を行っている。SNSやYouTube、Googleや電子書籍などデジタル社会におけるサービスを紹介しながら、それらの特徴、利点、社会への影響などについて解説している。受講生は40名前後である。
 twitterを授業に活用することの意義は2点あると考えられる。一つは学生のコミュニティ形成である。twitterでは、「ハッシュタグ」を用いることで、授業に関するツイートのみを一覧することが可能となり、必要に応じて「リスト」を用いれば他の受講生のツイートも閲覧できる。また、「リプライ」や「リツイート」を通じて学生同士の交流も可能であり、このような特徴から一緒の授業を受けている、といった気持ちが生じ、授業内のコミュニティが形成されると期待できる。また、学生が希望すれば教員や他の学生をフォローすることで、授業外の学生のツイートを見ることができる。このことにより、学生同士の関係性が高まってコミュニケーションが活発になること、日常生活で感じた気づきなどを授業と関連づけることなどが可能になると考えている。
 もう一つは授業への参加意識の向上である。twitterの活用により、授業に関する情報を共有した上で自分の意見や感想を書くことが可能になるから、授業への参加意識が高まり、理解が深まることが期待できる。
授業でtwitterを活用する授業デザインを行う上で、次の五点に注意した。
@授業の最初にtwitterの説明を行う
 2年とも授業以前にtwitterを使ったことのある学生はほとんどいなかった。そこで、授業中に積極的に活用してもらうために、まずtwitterに関する理解が必要であると考え、2回目の授業でtwitterに関する授業を行った。特徴、利点、欠点を説明し、実際に体験してみることで、授業中での活用への導入となった。1回の授業では十分ではなかった点もあったので、その後の授業でも適宜説明を加えた。
A授業の内容をまとめる学生を準備する
 授業を聞きながらパソコンを活用して自分の意見や感想を書くという作業には慣れが必要であり、自分の知らない新しい内容を聞いている際には特に難しい。そこで、twitterにある程度慣れており、授業内容に関する知識にも詳しい学生に授業の内容をまとめてもらうようにした。このことにより、他の学生はあとでそのツイートを見れば授業の内容を確認できるとともに、授業中に自分の意見や感想を書く際にその発言をリツイートすることなどで、何に対しての意見かも分かりやすくなる。
B多く発言する学生を準備する
 このような実践においては、授業中に発言が少ないと学生が様子を見て発言しないまま、といった悪循環に陥ってしまう可能性がある。また、授業に関する内容だけになると、敷居が高くなり萎縮して発言できない学生も出てくる。
 そこで、インターネット文化に慣れている学生に積極的に発言するようにお願いし、気軽な発言から授業に関する発言まで幅広い内容のツイートをしてもらった。また、その学生は、リプライやリツイートなどの機能も積極的に活用した。
Cプライバシーについて配慮する
 授業で使うアカウントは、授業専用として取得して利用しても構わないと指導した。シラバスにはtwitterを活用する旨を書いたが、プライベートで利用しているアカウントを使うことに抵抗がある場合や、この授業でtwitterを始めたとしても授業外では使いたくない場合もあると考えられたからである。この点を配慮して、数回繰り返して学生に伝えた。
D授業の内容をまとめて提示する
 授業でツイートされた内容は、Togetter(http://togetter.com)というサービスを活用してまとめ、次の授業の最初に、簡単に前回の内容を復習できるようにした。2011年度の授業分の内容を公開しているので、興味がある方はご覧頂ければ幸いである(http://togetter.com/id/munyon74)。
 授業評価として、2010年度の最終授業に質問紙調査を実施した結果を紹介する。回答者数は37名であった。授業中にtwitterを活用したことに対する評価は、すべて平均4を超える評価であり、授業全体の満足度も4.62と高い結果となった。
 他人の発言を見ることに注目すると、「他人の発言を見るのは、面白かった」の評価が4.54と非常に高く、自由記述においても「様々な意見の中で、同じようなリアクションや違う感覚を持っている人が目に見えてわかったので面白かった」と、自分と同じ意見に共感したり、違う意見を見て納得したりしたことが分かる。また、「他人の発言を見ることが、授業を理解する上で役に立った」が3.92で、授業を実況中継したことなどが理解を助けたと考えられる。対して、「他人の発言を見ることで、受講する動機が高まった」は3.59であり、動機を高めることについては他の評価に比べるとそれほど高くない結果であった。
 対して、自分の意見を書くことに注目すると、「発言するのは、面白かった」の評価も4.11と高かった。また、「発言することが、授業を理解する上で役に立った」が3.36、「発言することで、受講する動機が高まった」が3.83であり、他人の発言を見ることに対する評価とは反対に、発言を書くことは受講に対するモチベーションを高めることにつながったと考えられる。「授業中に発言するのは苦手な方だが、twitter上だと気軽な感じで自由に発言できてよかった」といった自由記述がいくつか見られ、口頭よりも気軽に発言できることが有効だったようである。
 次回は、大学授業にソーシャルメディアを活用するためのポイントや問題について検討する。
(つづく)


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