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平成23年11月 第2462号(11月16日)

改革の現場 ミドルのリーダーシップI
  教職協働で手厚い学生支援
  ルーテル学院大学

 ルーテル学院大学は、プロテスタントの開祖とも言うべき宗教改革者マルティン・ルター(ルーテル)の教えを元に、日本福音ルーテル教会が設立し、日本ルーテル教団が運営に参画した。100年にも及ぶ神学教育(神学校及びキリスト教学科)の歴史のほか、社会福祉学科や臨床心理学科を置き、「一人ひとりを大切にする教育」をミッションにキリスト教精神に根ざす教育を行っている。教育面では「副専攻」制を導入し、広い知識を学べるように配慮、また、国際プログラムでは世界のルーテル教会のネットワークを生かし、各国との交換留学を行っている。小規模ならではの機動性により、キメの細かい学生サポートを実現した組織改革について、事務長高瀬恵治氏、総務管理センター長村上秀紀氏、学生支援センター長篠宮 誠氏、経営企画センター坂田好和氏に話を聞いた。
 事務組織を2008年に再編し、総務管理、学生支援、経営企画の三センターに、それらを法人事務局も兼ねる事務センターが統括する編成とした。また事務室を一つに集約してワンストップサービスを実現し、業務を横断的に担当できるようにした。この狙いについて、高瀬事務長は、「担当者しか分からない、というお役所的な縦割りを崩し、諸サービスの多様化に対応させました。管理職層で詳細を詰めながら、教授会や理事会で説明を積み重ね、『とにかくまずはやらせて頂きたい』と強く求め、最後は市川一宏学長のリーダーシップで行われました。大きな反対はありませんでしたが、今後どうなるのかと不安に感じる教職員は多かったと思います」と振り返る。
 総務管理と学生支援は業務内容が異なるが、事務室を一つにしたことで各センターの距離が縮まり、また、学生支援対応の中枢となる学生サポート委員会も、福利厚生部門、学生相談部門、就職進路指導部門の三部門で構成されていることから、一元的かつ多面的に学生を支援していく仕組みになっている。学生を入口から出口までシームレスに見る構造はまさに小規模ならでは。広報(総務管理センター)についても、各セクターとの連携により、充実した内容を発信できている。
 学長方針の一つに「教職協働」がある。もともと教員・職員の間に上下関係はなく、同じコミュニティで働く仲間という共同体の意識と風土がある。何しろ専任教職員数は約五〇名。上下を気にしていては大学が回らない。
 坂田氏は「職員が主体的に大学を作り上げていこうとする風土があります。例えば職員側から積極的に、補助金を始め学内外の情報を調査しながら、企画を発案しています」と述べる。
 FD・SD研修は「教職員研修会」として年に5回程度行われる。専任教員、職員、内容によっては非常勤講師も参加し、今後の大学をどうするか、教育方法や附属機関等の組織体制、学生対応をどうするか、建学の精神をどう捉え展開するかなどをテーマにグループディスカッションが行われる。「困難な時にこそ、協力して考えられる最善の一手を打つ」ことが、学長の方針でもある。
 この「教職協働」の姿勢は学生支援に如実に現れる。例えば、欠席した学生は、教務委員会で協議を経て、学科長が個人面談を行う。必要に応じて保護者を呼び、支援法について話し合う。「新入生に対しては年に2回、全教員が分担して個別面談を行い、情報共有と対応を検討します。新しい環境に入った新入生が抱える不安や課題を早期に発見し、教職協働による多面的な個別対応を行うことは極めて重要で、休学や中途退学を防ぐ第一歩となります。特に自分の居場所がなかなか見つからず悩んでいる場合は、小さいキャンパス故に孤独感をリアルに感じてしまうこともあります。職員も一人で居る新入生に積極的に声を掛けるなど、人・大学との繋がりを実感してもらえるよう工夫しています」と篠宮学生支援センター長。これも小規模大学だからこそできる手厚い学生支援のあり方である。
 学内での情報共有は万全だ。全職員参加の職員会議を月例で行っており(学長は3カ月に一度参加)、教授会の議案や資料も回覧される。逆に教授会には事務長、管理職が陪席し、諸報告や提案、そして様々な案件に関する発言は自由にできる。朝礼が週に一度行われ、各センターの週の予定、共有すべきことが報告される。
 更に事務組織の改革に合わせ、試行的に職員には業務管理シートを導入。職員一人ひとりの個人目標を定め、半期に一度管理職と面談を行って振り返りと目標を共有し、自分がどう大学に貢献ができるかを考えるきっかけとしている。村上総務管理センター長は、「漠然と仕事をすると、それぞれの慣れが出ますので、目標に基づいて業務に取り掛かり、必要とあらば見直しを図ります。個人の悩み、業務上の課題、改善の意見が出てくるので、コミュニケーションが取れ、モチベーションアップにもつながる場として非常に有意義です。この面談から出てくる小さな意見も引き上げるようにしています」と述べる。
 今後の職員の課題としては、「学外に出て他大学の教職員と積極的に交流して見地を広め、新しい知識を取り入れて、当事者意識を持って現場に生かしていくことを期待しています。ただ単に行ったきりにするのではなく、職員会議での報告や勉強会を通して内部でどう生かすかを大事にしていきたいです。小さな大学ゆえに様々な発案に対してはいきなりつぶさずに実現の可能性を探っていきます。自ら成長し力をつける意識を持ってもらいたいです」と、高瀬事務長は述べる。
 小規模であることは決して不利なことではない。教職員一人一人が大学の経営に当事者意識を持ちやすく、学生に対しても手厚い支援が可能となる。同大学の組織改革の結果がそれを物語っている。

小規模ながら原理的運営を貫く
日本福祉大学常任理事/私学高等教育研究所研究員 篠田道夫

 教員29名、職員22名、学生約500人。全員の顔が分かり名前で呼び合える真のアットホーム・キャンパス。教職一体・連携協力で、一人ひとりを大切にする教育と生きたコミュニケーション環境がこの大学の強みを作りだす。
 前述のように年2回全学生と面談。授業出席率は非常に高く、欠席4回で定期試験の受験資格にも関わるため、すぐ学生と個別相談、難しい問題は保護者も同席する。毎回の授業で、感想や分からない点、要望などを調査、指導する。授業評価アンケートはホームページで概況を公開、自由記述欄で指摘された点は、問題があれば学長が教員と面談し改善を図る。学生会執行部とは月1回学生連絡協議会を開催し、豊かなキャンパスライフを過ごすための情報共有と改善に向けた協議を行う。就職率は94%、うち80%が福祉分野へ。社会福祉士国家試験の合格率も54%と高く、年末には受験勉強のため学長を先頭に輪番で学生の質問に答える。
 小さい集団ゆえに組織運営が弱いかと思えば、これが全く逆。教授会は議論百出、平均3〜4時間以上と時間をかけ、実質的な審議が機能している。
 理事会で扱う教授会提案事項も、案件によっては数回に亘って議論を続けることもあり、率直な議論と一致がこの大学の強い行動力を作り出す。
 中期構想づくりにも経営・教学で組織的に取り組む。規模の小ささは、経営的には不安定な要素ともなり計画的な運営が不可欠だ。大学の近未来委員会が理事会の経営委員会と一体、裏表の関係で議論を進めている。学部改組や教学の構造改革、財務計画、募集政策などをとりまとめる。日常の政策は、学内戦略企画委員会と事務組織である経営企画センターと一体で取り組む。全ての委員会は教職で構成、職員のほぼ全員が何らかの委員会に所属することで、大学構成員としての役割と責任の自覚を高める。
 前述の事務改革も、あえて波風を立て、原則的な改革を、コンサルタント(外の風)も取り入れながら断行する。それまでの課別編成、業務の縦割り化による閉そく感を打破すべく、四つのセンターに抜本再編、外部環境の変化や戦略への機動的な対応、入口から出口までの一貫教育支援、複数担当配置体制でサービス向上を目指し、定期的な人事ローテーションも可能とした。
 業務管理シートも同様に、半年間の主要業務、成果、問題点、反省点、当面の処置、次期の方針・目標を職員単位で作成し上席と面談、管理職層は市川学長と面談する。職務の原則的な点検・評価、改善の検証を行い、目標に基づく業務で、個々人の役割認識の向上、人材育成を図る。
 これらの源流には、慣れ合いを排し、原理・原則に忠実に、常に基本に立ち返って改革していこうという市川学長ら幹部集団の強い意志が感じられる。少人数組織が陥りやすい、マンネリズムや人間関係の固定化を、活発な議論と参加型の組織運営、本格的な教職協働で活性化させ、意気高く改革に取り組む環境を創り出している。



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