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平成23年11月 第2460号(11月2日)

改革の現場 ミドルのリーダーシップG
  理事長の人柄が生む教職協働の強み
  文京学院大学

 文京学院大学は、故島田依史子女史が1924年に島田裁縫伝習所(後の本郷女学院)を創立したことに始まり、1991年に日本の女子大学で初の経営学部を設置して「文京女子大学」として誕生した。1997年には人間学部、2001年には外国語学部を設置したのち、2002年には文京学院大学へと名称変更して2005年に男女共学化。2006年には保健医療技術学部を開設するなど(現在4学部9学科、大学院4研究科)、大学の設立以来、社会ニーズを見据えた大学改革を進めてきた。教育の目玉として、何かに打ち込んだ学生、取り組みを始めた学生を表彰する「てっぺんフォーラム」や、グローバル人材の育成を先取りし、2024年の文京学院創立100周年までの15年間で、ユーラシア大陸を東ヨーロッパから中国、朝鮮半島まで3年に一度2週間〜3週間で3、4カ国を訪問する「新・文明の旅」などを打ち出し、学部を横串に刺した取り組みにより、学生の学習意欲に火をつけている。その根底には、「日本一の教育力を発揮しよう」という島田サY子理事長のスローガンと、事務局の絶え間ない職員力強化の努力がある。教員からの仕事を漫然と処理するのではなく、「提案する事務局」を目指してきた島田昌和副理事長、小野惠市理事・統括ディレクター、齊藤正春理事・法人事務局長、吉村郁夫総合企画室長、竹内秀和本郷キャンパス・キャンパスディレクターに話を聞いた。
 三代目島田サY子理事長は、急逝した依史子女史の子息和幸氏の夫人であり、島田昌和副理事長は島田サY子理事長の子息になる。島田家の気さくで人を大切にする伝統こそが大学組織の風土を作ってきた。若手職員にも気軽に語りかけ、否定的な意見にも真摯に耳を傾け、提案については検討のうえ実行を指示する。教職員もそれに応え、積極的な提言、様々な問題点の指摘も行う。理事会提案に学部が反対すれば、職員とともに島田昌和副理事長自ら何度も学部教授会に出向き、説明・理解を求める。結果として、スピード感のある改革が実現している。学園に教員と職員の間に上下関係が生まれなかったのも、こうした島田サY子理事長らの人柄の結果と言える。
 グループディスカッションやケーススタディが中心の職員研修会のほか、副理事長が若手職員有志を募って「マネジメント勉強会」を月に1回開催している。広報戦略やブランド戦略といったテーマはチームごとに自由に設定し、最後は理事長、副理事長にプレゼンをして、良い提案については即実行に移す。吉村氏は「理事長、副理事長が話を聞いてくれる風通しのよさがあります。教職員もその想いに応えようと、積極的にFD・SDに取り組んでいます。建学の精神を受け継ぐ理事長、副理事長が大学の個性を支え、職員が自由闊達に提案を述べる。このバランスがうまく機能しています」と述べる。
 例えば、学生募集戦略会議。学部横断的に教員、職員が参加する。この中で自学部の評判が良くても、他学部が悪ければ、大学全体の評判が悪くなることを知り、全学的な思考になる。現場の教職員の想いを形にし、経営的に成り立つよう考える。
 大学運営会議(学部長会議)は、川邉信雄学長が主宰・運営しているがこれもうまく機能している。小野氏は、「大学担当の本部理事が参加するため、大学と法人で問題共有して合意に達するのが早い。経営と教学の合議組織でありながら、あまり肩書を意識せず、理事会の意向も言えるし、教学も現場の声を上げられます」と述べる。教学と経営の距離が近いのは合理的である。
 職員採用については、戦略的に中途採用を増やしている。「前職の企業文化を進言してもらっています。企業と大学の異質性にこだわり過ぎると、大学は改革の機会を失い、その職員はストレスを溜め、お互いに不幸です。大学の動きを知った上で、大学の違和感を提案に替えてもらいます」と島田昌和副理事長は述べる。例えば、学内諸規程。非合理的な規程もあるため、職員に意見を求め、大幅な見直しを行っている。
 「東日本大震災の被災地には、職員13名がまず現地に向かい、大槌町のヘドロの片づけをしました。その噂を聞いた学生が『ボランティアに行きたいです』と言うので、大学からバスを出すことにしました。「新・文明の旅」企画については、「まずは職員から」と、英語を勉強しTOEICに挑戦する職員が出てきました。対象国を熱心に勉強し、大使館と交渉し、今では教員並みに詳しくなっています」と竹内氏は述べる。チャレンジ精神や学ぶ姿勢を、後ろ姿で学生に示す。職員も教育に関わっているのだ。「学生から見ても魅力的な職員であって欲しい」と島田昌和副理事長も言う。社会人のモデルになる職員。それに応え職員も努力している。昔は職員に対する学生の不満もあったが、年々の改革で少なくなった。
 「大学経営のPDCAサイクルはボトムアップでもトップダウンで回すものではありません。自由に意見が言える風土のもと、理事会が方針を出せば、様々なアイデアが現場から溢れてくるということです」と、齊藤氏は語った。

ボトムとトップが織りなす循環型管理運営
日本福祉大学常任理事/私学高等教育研究所研究員 篠田道夫

 大学創立時から自己評価委員会と将来構想委員会を同時に立ち上げ、評価を政策に生かす、実態に基づき改善を行う精神を根付かせてきた。
 五年に一回自己点検・評価報告書を発刊、他大学、高校、企業等の委員による外部評価を行う。授業・学生生活・施設等20項目の学生生活満足度調査を毎年実施、半年に1回の学生による授業評価はイントラネットで公開、「保護者満足度調査」として4年生の保護者を対象に保護者の視点から教育、学生生活、就職指導の充実度、学生の成長度、保護者自身の満足度等を20項目で調査する。卒業生満足度調査も実施し、ステークホルダーの評価を徹底してつかみ、これを基礎に学生満足度向上の仕掛けを作り、学部改組改革を連続して実施してきた。
 それが「てっぺん賞」や「スイッチオン(目標に向かってスイッチが入った人)賞」、「ゼミディベート(ゼミを戦う組織として熱くする)」、「さまざまな海外研修・海外インターンシップ」などを編み出してきた。学部改組も持続的改革に取り組み、経営学部、人間学部などの再編新設を行っている。学生実態、第三者評価や自己評価、優れた点や指摘事項などを次年度以降の大学運営や将来構想に生かすため、内部質保証システム(PDCAサイクル)の確立の具体的組織づくりに継続して取り組む。その一つが「ベンチマーク委員会」であり、具体的な教育目標の設定に基づき、志願者数、入学者数、定員充足率、中退率、授業満足度、学生満足度、各補助金申請・採択率、就職希望・内定率、卒業生満足度など、あらゆるものに目標数値を設定し、評価軸を明確にして、教職一体で実現に取り組む。さらに実効性を高めるべく「内部質保証委員会」を設け、教育、学生生活、キャリア、ディプロマポリシーなど事業の分野別に目標、方針・計画、達成度のサイクルとエビデンスを明確に設定しようと取り組みを始めている。これを自ら「循環型管理運営」と位置付け、ボトムアップだけでなく、一方的なトップダウンでもない、大学の実態(現実)と上からの政策が循環することで現実に立脚した改革が持続的に進むシステムと位置付ける。大学運営会議、学部運営会議が心臓・ポンプとなり、現場からの提案が機関決定され、方針となり実行し、到達点や問題を把握、改善・新規提案をふまえ新たな方針を作る、現場に根差した先駆的な改革推進システムだと言える。そして、それを担う人づくりを重視、特に職員は、ケーススタディ中心の体系的な研修の推進、「大学マネジメント勉強会」、目標管理、職員の経営・教学組織参加型運営、部課制の廃止と学生サポートを第一義とした支援センターへの再構築などに取り組んできた。
 背景には、島田理事長、川邉学長をトップとする教職員幹部の、現場に真摯に向き合いそこから出発する、地道な改善の積み重ねで大学の発展を実現する、基本を堅持した強い姿勢がある。



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