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平成23年10月 第2459号(10月19日)

改革の現場 ミドルのリーダーシップF
  教職員が背中で見せる教育
  群馬医療福祉大学

 群馬医療福祉大学は、1449年に漢学学問所を開設したことが起源となる。20世紀に入り、幼稚園、中学校、高等学校、専門学校、短期大学を次々と開き、大学は2002年に社会福祉学部社会福祉学科を設置して開学した。特徴的な教育が、ボランティア活動の必修化である。学生がボランティアとして福祉施設などに研修に行くと、自然と生きた人間関係が生まれ、机上では身に付かない人間力が磨かれる。研修先は大学OBの勤め先も多く、就職がそのまま決まってしまうことも少なくない。こうした結果、就職率は関東地区で第2位という高さを誇る。クラスアドバイザー(担任)制を導入し、徹底した少人数教育が行われていることも特筆すべき点である。
 アイディアマンであり、教職員の精神的なリーダーでもある鈴木利定理事長、川端智久総務部長、大竹勤教務課長、田口敦彦企画調整室長、梅山文秀キャリアサポートセンター長に話を聞いた。
 「本学は少人数教育の強みを生かし、教職員が学生一人ひとりと徹底的に向き合っています」と鈴木理事長は切り出す。「その中で『学生はこういうもの』という思い込みを打ち破り、生の情報を得ていきます」。
 梅山センター長は、「私(教職員)という個人の人間をさらけ出し、学生にこういう人なんだと知ってもらうことが本当に重要です。4年間の中で、お互いの本音が言い合える関係にならないと、どんな支援もうまくいきません」と話す。
 また、学内での挨拶や美化活動等は鈴木理事長が率先して行う。朝は誰よりも早く大学に出勤し、学生に声をかけ、その輪に入り込む。鈴木理事長が続けると、教職員もそれに習い、それを見た学生も実践するようになる。「福祉の本質は人間力であり、これを教育するのはなかなか難しいけど、教職員が先頭に立ってやれば、徐々にそれが学生の習慣にもなる。自分たちが恥ずかしがっていてはダメです」と川端総務部長。
 実は川端総務部長、大竹教務課長は教員である。専任教員を目指し、現在は職員としても仕事をしている。同大学には各課で2〜3割の職員兼「教員」(教員兼「職員」ではない)がいる。この一風変わった職務制度について大竹教務課長は、「事務方とか教員方とかいう区別が大嫌いなので」と切り出した後、「学生の担任を持ちますので、学年会議には教員として出ますが、教授会には部長や課長等職員として出席します。この制度だと教員が事務を、職員が教育現場を理解しているということにもなります。教職協働というより、そもそも境界がありませんから、自然と一緒にやっていこうという雰囲気になります。本学では、教員志望者はまずは職員として採用します」。経営、教学両面に関わることができるので非常に理に適っているし、小規模大学だからこそできるメリットでもある。FDとSDには両方とも参加できるから効果的であるという。
 鈴木理事長に教員と職員に今後求められる力を聞いた。
 「教員も職員も必要なのは現場での実践力です。当然、学生と身近に関わらないと面白くありません。とにかく学生と一緒に生活し、こちらから心を開く。現場での実践が大事なのは学生にとっても同じことで、ボランティア活動をさせて、大学で勉強させると理解が進みます。試験勉強だけではダメです。ただ、研究活動となると時間を取るのが難しいですね」。
 教学、経営面でのスキルや知識よりも大事なことがある。それは「どこまで腹を括って仕事をしているか」と表現できるかもしれない。いくら能力があっても腰が引けているようでは何もできないし、誰もついてこない。「自分にはこの大学しかない。スタッフは家族です」とポツリと述べる方がいた。鈴木理事長以下、中核的な教職員は一人残らず、「自分がいなければダメだ」と腹を括っている。それは、愛校心という言葉では生ぬるいほどの覚悟である。彼らを見て育った部下もまた、強いつながりを感じながら仕事をする。
 最も大学を、教職員を、学生を愛しているのは鈴木理事長だと職員は口を揃えて言う。「チャレンジ精神とほめ上手。雷を落とすのではなく、背中で見せる教育を自ら実践されている」。群馬医療福祉大学の強みは、徹底した現場実践主義を自ら行う鈴木理事長のもとに育まれたといえよう。

日本福祉大学常任理事/私学高等教育研究所研究員 篠田道夫
 群馬医療福祉大学の建学の精神は極めて明快、かつ教育システムを貫くことを徹底している。福祉の専門職としての理論や技術の前に、まず福祉の心、福祉に携わる人の資質・人間力の育英こそが使命だとする。教育目標「ボランティア、環境美化、礼儀作法」を、全学生に義務づける教育の三本柱とする。ボランティア活動を学部共通科目(必修含)として配置、自分たちが学ぶ教室を学生自ら清掃し、挨拶は理事長を先頭に教職員が率先垂範、全学生が行っている。その教育の自信は、例えばキャリアサポートセンターが実施する就職先へのアンケートに見られる。「建学の精神、礼儀やあいさつ、ボランティア活動が、本人の日常の勤務や生活に生かされていますか?」など教育の成果を直裁に質問し、採用担当者から高い評価を得ている。
 その教育方法もきめ細かく、熱心だ。例えば学生の出席状況を把握し月1回教授会、教員会議に報告、クラス担任から学生に個別指導が行われる。学生コメントカード、授業評価自由記述欄で学生の声を集約、教員は改善策をその都度丁寧に答える等に現れる。それらの成果が関東地区2位、全国6位(週刊東洋経済、2010年)の就職実績にも現れる。しかも驚くべきことに就職者の9割が福祉関係に就職。あえてインターンシップをしなくても日常的な福祉施設でのボランティアが効果を発揮する。就職係が掴んだ求人情報は、時間差なく全てのクラス担任に伝えられ学生に情報提供、個別指導による学生情報も就職係に集約される。
 この背景には、鈴木理事長・学長の強いリーダーシップがある。若くして理事長を継ぎ、40年間、幼稚園しかなかった時代から経営トップとして専門学校、短大、大学まで作り上げてきた。幼稚園時代からの率先垂範は今でも変わらず、この運営感覚が良い意味で大学運営に生きている。教授会に限らず、基本的に全ての委員会、学科会議、担当者会議に出る。現場の状況把握、現場での指揮、現場主義を信条とし、直接教職員と意見を交わす。しかし単なるトップダウンではない。
 トップの意思は明快に伝える。しかし、部下を認め、良い行動や意見はすぐに評価し、痛いところを突く意見にも耳を貸す。その点で強いトップでありながら教職員が顔色を伺うことなく言いたいことを言う雰囲気を作り出す。この点が鈴木氏の人柄であり強みだ。部下への信頼がトップへの信頼も作り出す。
 一方で、組織的な運営・執行システムはきちんと整備している。授業評価・教育改善システム、就職支援システムも、学生の声を組織的に把握し改善に生かす仕組みだ。学長直轄の企画調整室が学長のアイディアを形にし、政策に落として学内に提起、実行する。中間的審議機関はなく学長直轄だが、議論や意見も重視、これをつなぐのも企画調整室だ。これに学園ならではの教員が事務幹部を兼務するシステムが有効に機能し、独特の教職一体運営を作り出し、事務方という意識を払拭、職員の発言力を高めている。大学を我が家と見なす雰囲気、家族的な一体感をベースにした運営、これに改革推進システムが結合することで、この学園に大きな力を作り出してきた。
 現場のあらゆる問題にトップが教職員と一緒に格闘する姿、率直に意見を述べる教職員、建学の理想・人材養成に妥協なく、切磋琢磨する中での一体感がこの大学の持続する発展の原動力となっている。



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