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平成23年8月 第2453号(8月24日)

改革の現場 ミドルのリーダーシップ C
  職員参加の王道の改革
  長野大学

  平成22年度の「日経グローカル」誌(日本経済新聞社)の大学の地域貢献度ランキングにおいて、私立大学部門で第1位に長野大学がランクされた。社会福祉学部、環境ツーリズム学部、企業情報学部の3学部を擁する。同大学は公設民営型の先駆的な大学として昭和41年に発足、一時は福祉系学部が人気を博したが、現在は学生募集状況が悪化、試練の時を迎えている。この状況を打破するため、嶋田力夫理事長はいくつかの改善策を掲げた。建学の精神を踏まえた「長野大学憲章」では、改めて大学の目標を定めつつ、その実現のためのステップアップ戦略を打ち出した。目玉の一つ、「夢チャレンジ制度」では、学生からチャレンジ企画を発案してもらい、審査ののちに予算をつけるもの。この中で学生は企画力や実現力、自信を身につけていく。ゼミの学習はほとんどが地域にかかわり、これが地域貢献ランキングを押し上げた要因でもある。また、障がい学生の支援にも積極的で、聴覚障がい学生には講義のノートテイカーによる情報保障はもとより、大学行事でも必ず学生などのボランティアが入る。この過程で教職員と学生が自然な形で助け合い、補い合うキャンパス風土が形成されている。
 大学改革の今について、嶋田理事長、平林弘朗総務課長、菊池行則総務課主幹に話を聞いた。
 最も力を入れている改革は学生の教育支援。学内の会議をできるだけ削減したり、教授会後に、課題を抱える学生の検討会を開いたり、職員も日常的に学生指導に当たるなど、教職員が学生と向き合う時間をいかに確保するかに腐心している。職員の持つ学生の詳細なデータを頼りに教職員が一体的に支援しており、教員が上、職員が下という文化はない。
 「昔は教授会の権限が強かったが、もはやそのようなことを言っていられない。学生募集が立ち行かなくなってきたためだ。危機意識のある職員が『大学を支えないと』と考え、大学運営会議や学生募集推進特別チームに正規に参加して発言をしている。キャリアサポートセンターでは、センター長は教員、副センター長は職員が務め、教職協働の体制を作っている。ただ、責任の所在がはっきりせず、誰が本腰を入れて改革に取り組むのかが曖昧。責任者を明確にすることが課題だ」と嶋田理事長は述べる。
 職員の力を結集していく動きは始まっている。今年から目標管理制度を導入したが、その真意について平林課長は、「人事的な評価がないと、『自分の仕事はこれで十分だ』という認識で終わってしまう。指導も評価もなしに職員が自然と成長することはない」と述べる。職能資格基準を作り、基準を満たしたら評価が上がる制度を運用し、モチベーションも保てるようにしている。
 また、外部で得た知見を持って、ようやく教員と渡り合うことも出来る。職員個人の主体性や論理的思考、批判的思考、事業立案においては、4〜5年のデータを取り推移を分析する力を鍛えるべく、外部での研修会参加にも力を入れる。そのための経費補助など、特に若い職員の積極的育成を制度化している。嶋田理事長は何度も繰り返す。「大学は職員が支える以外ない」。
 目標管理制度によって職員一人ひとりが少し高い目標を掲げ、それに積極的にチャレンジし、改革の提案を出す。会議で説得して提案を通し、実際に事業をやるという一連の体験の中で、職員は育成され、問題意識を持っていく。地味ではあるが、こうしたサイクルの構築が職員の育成と改革への第一歩である。
 職員が力を付ければ、教員が教育・研究に専念できるようになる。「一定の時間が掛かるが、教員の思考も変えてもらわなければならない。ただ、全員に関わってもらうのは難しい。少しでも共感してくれる教職員を一人ずつ地道に巻き込んでいければ」と平林総務課長と菊池総務課主幹は話す。
 職員を改革の中心に据え、少しずつ王道の改革を行おうとしている長野大学の姿が見て取れた。

学生の成長支援に全てを集中する
私学高等教育研究所研究員/日本福祉大学常任理事 篠田道夫

 長野大学は、二度目の逆風に立ち向かっている。一度目は創立間もなく、本州大学経済学部として誕生したものの経営悪化に陥り、当時の長野県知事を理事長に迎え、大学名を変更、経済学部を社会福祉学科を含む産業社会学部に改組し、立ち直った。今、また厳しい局面に立っている。福祉人気による安泰意識、旧来型の教員主導の運営体制、改革を進めるマネジメントや運営体制が対応できず、新幹線が通り便利になったことが東京圏の大学との競争を激しくした。
 こうした事態を打開すべく、将来構想委員会を立ち上げ、2007年には学部改組を行い3学部体制とした。翌2008年には長野大学憲章を制定。地域に根差す大学の原点に立ち返り、教育の再建をスタート、教育方法そのもの、学生育成のプロセスを根底から変えることを提起した。それが「Step up戦略」(長野大学における「成長」支援の枠組み)である。その柱として、教育の基礎・基本の重視、学生の自己成長の徹底支援の二つを掲げる。
 「教育の質・特別検討チーム」を立ち上げ、具体的な施策を検討。学習とティーチングポートフォリオ導入/リメディアル教育/ウェブシラバス/観点別教育目標と詳細授業計画/キャップ制見直し/授業評価アンケートの学生公表/学生アドバイザー制度/学習支援室の設置…やれることは全てやる。学生の成長を支援する、この一点にあらゆる手法・制度を動員し集中させる。この成否は「教職員が如何に学生と向き合う時間を組織的に確保するかがポイント」とする点も重要な点だ。この延長線上で大学の個性作りの実績の定着を目指す。
 その成果は出ている。例えば日本学生支援機構が行う優秀学生懸賞事業に2009年には優秀賞3名、奨励賞1名、2年連続の受賞、社会福祉士など国家資格の合格率も向上しつつある。しかし、これがまだ志願者減少のスピードに追いついていない。
 改革路線は正しい。地道な努力が重ねられているが、評価の抜本的な向上に至っていない。評判や話題を作り出すパフォーマンス、教育成果のアピールももっと必要だ。そのための強力なリーダーシップ、教職一体の取組の抜本的強化、若い力を生かした大胆な改革の実践、そして何よりも、力を持った職員の登場が求められている。
 2011年からは、新学長を中心に、その布陣と政策が着々と進行しつつある。教学意思決定機関を評議会から全学教授会に移管。教員のみの学長・学部長会議を職員三人を正規メンバーに加え大学運営会議とする。学長室を新たに設置し、副学長・学部長と共に職員を正規メンバーとし、学長スタッフ機能、政策実行機能を強化する。幸い、地域立大学でしがらみはない。教員職員が、真摯に、一体となって取り組めば、何でも出来得る状況にある。今後が期待できる大学だ。


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