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平成23年7月 第2450号(7月27日)

改革の現場 ミドルのリーダーシップ A
  勉強熱心、活発な議論の風土を作る
  愛知東邦大学

 愛知東邦大学は、経営学部を持つ短期大学を平成19年に改組して以来、教学改革として「入学者確保」と「中途退学防止」を掲げ、ここ数年は人間学部新設やAO入試改革、初年次の少人数教育、きめ細かい個別指導に熱心に取り組んできた。また、系列の東邦高等学校との連携を強化することで高校、大学の教育に特色を出した。
 あわせて組織改革にも着手。法人と大学の意思決定を調整する教学法人協議会、二学部間の調整を図る大学執行部会と、全学的な教学事項を決定する全学協議会などを設置した。
 法人と大学の事務局を法人事務局長が兼任して一元化することで、スムーズな情報伝達を行っている。運営方針の決定に当たっては、「担当理事」制度を導入し、理事会の責任の所在を明らかにした。迅速な意思決定と執行責任の明確化。これが大学改革の成否を分けるといっても過言ではない。
 トップの意思決定を現場の実行力にどう繋げていくかも運営の重要なポイントである。同大学は、短大時代より教員と職員の協調性が高く、会議でも同等に議論を行う風土があった。組織改革のプロセスで教員から職員への権限委譲を促進し、職員の現場判断を促した。増田貴治法人事務局長は言う。「他人事から自分事にしていくことが大事です」
 このような体制を構築するのに、じっくりと時間をかけた。常に組織改革の中心にいた増田法人事務局長を奮い立たせてきたものは何か。話を聞いた。
 「大学院に通ったり、日本私立大学協会附置私学高等教育研究所のプロジェクトに参画したり、認証評価機関の評価員を務めたりと、問題意識を持って大学外部で見聞したことが、組織としても個人としても有益な経験になっています。ただし、その経験をそのまま学内に持ってきても上手くいきません。私は生え抜きの職員として、外部の知恵をいかに本学独自の組織風土や文化の中に溶けこませるかに注力することが使命と感じていました」
 こうした積極的な振る舞いは、部下にも影響を与えた。増田法人事務局長の修士号取得を皮切りに、毎年のように職員が大学院に通い始めた。すでに管理職の半数近くが修士号を取得、いまや組織文化になりつつある。大学院で学べることは「知識」にとどまらない。例えば、論文を書くプロセスで身につける、問題発見力、分析力、論文執筆力、プレゼンテーション力は職務遂行において大きな武器となる。一方、所属部署での課題をテーマとした修士論文に取り組んでも、異動によりその研究成果を生かせない、というケースも少なくない。研究成果を現場に引き継ぎ、現場の経験と理論を融合させながら、個の能力や成果をいかに組織全体の力に集約させるか。単純な足し合わせではなく、全体を最適にするにはどのような仕組みが必要か。これもこれからの課題です、と増田法人事務局長。
 一方、現場の意見は少し異なる。総務課の二宮加代子課長はこう述べる。
 「現在は総務課にいますが、異動前の教務課の経験と大学院での学習が役に立っています。総務を知った上でどう学生支援を行うか。異動により、視野が開けたように感じます」修士号取得後の異動にも一長一短があるようだ。
 増田法人事務局長もそれを認める。「確かに限界と感じていたことの原因が部署異動によって客観的に分析でき、それを乗り越えることもあります。異動後にしばらく業務運営が不安定になりますが、そこはそのメリットを取ります」
 運営の中核になる部署では、企画力や実行力、多少の「強引さ」といった、改革のエンジンになる力を持った職員を配置している。大学職員は、自分で自分の限界を決めてしまうところがなくもないので、それを打ち砕く人材が必要だという。そんなエンジンとして、大学の経営改善策を検討する法人企画課に配置されているのが西 弘美課長だ。やりがいやモチベーションはどう維持しているのだろうか。
 「同じ課題を自分と異なる視点で見る同僚がいて、意見交換をしながら、一緒に解決していくことでお互いのモチベーションを高め合っています。取り組む仕事が教学や経営の改善に繋がっている実感もあります。補助金等の外部資金を獲得するため色々と考えているうちに、大学への愛情がより強くなる。それが達成されたとき、やりがいとして感じられるようになります」
 二宮・西両課長のモチベーションは相当高く、大学改革のアクセルを絶えず踏んでいるようにも見える。それでは、先頭を走っている法人事務局長のモチベーションは?
 「学園トップである榊直樹理事長のリーダーシップ、愛校心、そして他大学の先輩職員の存在でしょうか。例えば、飲み会の席で「日本一の大学にしたい」という話を聞くと、こちらもテンションが上がります。先輩の後ろを一生懸命に着いて行っているだけですが、モチベーションは自然と生まれてくるものではありません。トップだからミドルだからではなく、元気がある人から伝染するものですね」
 増田法人事務局長は内外のモチベーションの高い職員と絶えずコミュニケーションを取ることで、改革への意欲を高めていた。

現場の改革提案力とフットワークの良さ
私学高等教育研究所研究員/日本福祉大学常任理事 篠田道夫

 愛知東邦大学は、直面する二つの危機克服に、徹底的にスモールサイズを生かす学びの充実、その素早い、連続した改革で立ち向かってきた。それは少人数教育による「東邦基礎力」学習、学生ポートフォリオによる個人指導・援助、文部科学省大学教育・学生支援推進事業にも採択された「就職合宿」による朝から夜までの学生トレーニング、全職員が一年生数名を受け持つ東邦スチューデントサポーター制度など一人ひとりへの親身な、行き届いた対応が上げられる。
 これには、前述のとおり、大学の歴史が浅いこともあって事務局長以下40代、30代が幹部層を構成する若さと、勉強熱心でモチベーション高く活発に議論する風土がある。その背景には提案型職員を歓迎・重視する理事長以下幹部の姿勢、理事会のもとに「教学法人協議会」を置いて、経営、教学・事務局が一体で知恵を出して大学を作っていこうという参加型運営の基本理念がある。
 組織・機構も効果があると見れば「朝令暮改」を恐れずすぐ変える。しかし断片的改革を積み上げているかと言えば、全くそうではない。
 2008年には「東邦学園将来計画の策定について」の討議を、全学のあらゆる機関に呼びかけた。七つの政策基本領域を設定し、戦略マップ「明日の東邦」として誰にでも分かるよう一覧にした。それを具体的に推進する「第三次中期財政計画」も進行中だ。
 思いついたらすぐ実行。現場からの改革提案力とフットワークの良さこそが一番の強みである。
しかし、教学改革にせよ経営改革にせよ、それが改革推進の全体像の中でどこに位置づくか、常に明確にするよう努めている。教職員の個々の活力を集約し、大きく方向付け、戦略目標達成に結びつけているところに、事務局長や経営トップ層の優れた指導力がある。
 教職員のエネルギーを最終的に改革という一点に集中させることで、大学の評価は変えられる。外部から熱心に学び、その良さを取り入れ、小規模ならではのマネジメントを実践しようとする幹部の姿勢が効果を発揮している。
 大きな戦略提起、現場からの前向きな改善提案と行動、それを生かす組織運営、この三つのシナジーが学園に活力を作り出している。


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