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平成23年7月 第2449号(7月13日)

改革の現場 ミドルのリーダーシップ @
  改革の当事者意識を醸成する
  椙山女学園大学

 大学改革は、トップはもちろん、トップのブレーンとなり、改革の内実を作り、それを実行に移す中核的教職員の、現場を動かす強力なリーダーシップが欠かせない。策定しただけでは力を発揮しない改革方針、中長期計画をどのように浸透させ、関係する教職員を鼓舞激励し、目標実現に迫っているか。外からは見えにくい現場の貴重な経験、改革の肝を明らかにしたい。そこで編集部では、私学高等教育研究所「私大マネジメント改革」プロジェクト代表の篠田道夫日本福祉大学常務理事の協力を得て、日本私立大学協会加盟大学の次世代の中核人材の改革の現場を訪ねることとした。

 椙山女学園大学は、女子大としては日本最多の7学部(生活科学部、国際コミュニケーション学部、人間関係学部、文化情報学部、現代マネジメント学部、教育学部、看護学部)を設置する総合大学である。学園は「人間になろう」を教育理念として106年の歴史を持ち、幼稚園から大学院までを擁立し、総合的な人間形成を目指している。大学は就職の良さにも定評があり、通常の教育はもちろん、教養やマナー、20以上もの資格取得対策講座を開講して就職活動を支援している。しかし、高木吉郎事務局長は、「建学の精神である『女性により高い教育の機会を提供する』の実現には、まだ現状の学部では充分でない」と述べ、事務局中期目標の方針にも「新分野への組織力強化」等を掲げている。短期間に新学部の設立、組織改革などをやり遂げた原動力はどこから来るのか。高木事務局長、小林嗣明総務部長、松本勤学務部長、竹田浩康企画広報部企画課長、原田明人総務部総務課長、北出幸夫学務部教務課長に話を聞いた。
 平成19年より履修登録、成績確認やシラバス検索、そして休講・補講情報等を一元的に管理できる学生支援システム「S*map」(エスマップ)を運用している。導入に向けて職員によるワーキンググループ(WG)を作り、何度も検討を重ねて企画書を作成した。教員にはなかなか理解が得られなかったが、事務の効率化には是非とも必要であったため、事務局主導で同システムの構築・運用を行った。
 このことはしかし、職員の経験としてその後の取組に役立つことになる。WG方式は自らの所属とは別に、様々な世代・部署の職員から、多様な意見が集約できるという側面があると同時に、共同作業の経験そのものがSDにも繋がる。次なる目標を「組織改革」と位置づけ、メンバーを替え、大学事務組織と法人の組織の無駄な部分を徹底的に洗い出した。平成19年、この成果として大学事務と法人事務組織の一部が統合・スリム化。これに伴いマンパワーが創出され、組織されたのが「企画課」である。企画課の当面の目的は新学部の設置とされた。市場調査から文部科学省への申請手続まで、外部のコンサルタントを入れずに担当職員が一から調べ上げた。平成19年には教育学部、平成22年には看護学部を次々と設置、そして、平成23年より文化情報学部メディア情報学科が増設された。このWGでの経験は、更に教育改革における教職協働に生かされる。
 教育改革の必要性は中教審答申「学士課程教育の構築に向けて」を受けて学内でも高まっていた。今度は、学長のリーダーシップのもと、教員と職員が対等の立場で議論する場として職員も委員として加わる「教職協働」によるWGを作り、学園の課題に対する分析と行動指針など教育改革の答申を作成した。これを受け、同じく「教職協働」による実行WGを立ち上げ、実現に向けての具体的方策・実施責任母体・実施時期を行動計画としてまとめられ、その責任母体である関係委員会や担当課で実行された。これが一定の成果として教員にも認識された。
 この「教職協働のWG方式」は、大学の会議にありがちな「議して決せず、決して動かず」ではなく、「決する」ための資料を集め、実行に移す(動く)職員が担保されるというメリットをもたらす。「現場の情報を持つ職員が意見を出し、現実に沿った答申を出すことが出来ます。職員がきちんと最後まで実行に責任を持つので、改革が先に進まないということはありません」と高木事務局長は言う。教員も近年の大学経営の危機感を感じており非常に協力的という。
 現在、事務局部課長会のもとに、いくつものWGが同時に走っている。WG立ち上げに際しては、最初にその目的と、基本的に『やらない』という選択肢はないこと、期限を定め、攻めの気持ちでWGに取り組んでいくことをしっかり伝え、途中で中間報告を受けながら、最終答申の方向性を調整していく。小林総務部長は「WGを通して、職員として必要な調査力・文章構成力を高めることができます」と述べる。この制度の優れた点の一つが、若手に実践の場を与えているということである。この経験により、職員の積極性と実務力が磨かれ、意欲のある者には機会の場が与えられる。
 同大学の職員の専門性を「職員の専門性ガイドブック」という形にまとめたのも注目すべき点である。これは各部署で必要な知識、能力、関連法令等を書きだしたもの。これによって職員が自らを客観的にみる「メタ認知」的な視点が養われるとともに、項目を書きだしていく過程で、自らの知識や能力を確認できる。この作業プロセスそのものが気づきにつながる。
 「椙山スタッフディベロップメント(SSD)」は、若手職員有志が自主的に行う勉強会であり、持ち回りで事例や参加したセミナーの報告を行うもの。「報告を行う」ことは、内容をきちんと理解している必要があるため、報告する側にとってのSDにもなるわけだ。この勉強会自体は「自主的な域を超えた広い活動」として展開されているが、あくまで「自主的」であるため、事務局長は口を挟まないようにしているとのこと。
 最後に「局長賞」制度を紹介したい。これは職員の中から各課の課長が二名ずつ推薦し、五名を選んで表彰するもの。派手なことをしている職員を推薦するのではなく、地味だが全体の役に立っている職員もきちんと表彰する。高木事務局長は「学生にも当てはまるが、褒めることで職員はどんどん伸びる。大学は教授会が決めただけでは進まず、実務を行う職員が経営に参画してこそ、機能するようになる。大学職員が大学改革の鍵を握っている」と力を込める。
 同大学の改革の原動力は、職員一人ひとりが大学改革の一翼を担っている、という当事者意識を醸成する仕掛けがあることだ。志と能力を高めることができれば、大学改革は自ずと成功しよう。

「意欲を引き出す工夫された参加型運営」
篠田氏より

 椙山女学園大学は、堅実、着実な改善を積み上げながら、大きな変革を作り出している。
飛び抜けた力がなくても、WGやプロジェクトを作ればスーパー職員何人分の力を発揮することができる。チームでの仕事は、職員の強み、特性を生かす最大の武器であり、課の縦割り業務、処理型業務を脱却し、解決を求められる経営や教学のテーマに直接シフトできる。参加者の視野を広げ、また隠された力を引き出すのにも効果がある。改革案がまとまればメンバーの自信や確信となり、個人の意見では聞く耳を持たない組織でも、WGの答申なら議題として取り上げられ、承認されればただちに実行に移され、提案が現実のものとなる。大学は自分たちの力で動かせるという実感、改革への参加意識と共に、これを繰り返すことで企画力が身に付いていく。「職員の専門性ガイドブック」は、分掌毎に求められる専門的能力や知識を定めた優れたものだが、こうした基礎能力の確立に止まらず、「事務局中期目標」で大学目標と連動したより高いチャレンジ目標を提起し、さらに目線を上げて業務に取り組むことを促している。事務の課題を遂行するレベルから教学や経営が求める課題への挑戦が、業務を高度化させ、事務局の存在感を高め、改革を担いうる組織、職員を作る。その取組の中で優れた成果を上げた職員を「事務局長賞」で励ませば、皆が目指すべき、望ましい職員像も共有できる。
強烈なリーダーシップというより、意欲を引き出す工夫された参加型の運営で、この大学の活力を作り出している。


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