平成23年5月 第2443号(5月25日)
■授業改善のための小さな実践
―クリティカルシンキングの授業を例に―
●初回の授業で学期末の試験問題を公表する?
クリティカルシンキングでは、普段から「なぜ」と考える習慣をつけることが重要である。週に90分だけの学習をしても、とてもクリティカル・シンカーにはなれない。この授業では@授業で論理的に考えるだけでなく、A授業外でも論理的な思考を行なう習慣を身につけることを重視する。
学生にとって試験は、極めて重要である。また、学生は試験のためならば真剣に学習する。学生のこの習性を活用するべく、初回の授業で、試験に出す問題の一部をを学生に公表している(表1)。
問1の設問では、授業中は積極的に授業に参加し@論理的に考えることが求められる。さらに、問2の設問は、A普段から論理的に考えることが必要となる。これら設問のように、試験を能力測定のためでだけでなく、学習の促進剤として利用することができる。
さらに、単刀直入に単位を学習の促進剤にすることも可能である。単位をとる必要条件をあらかじめ,初回に公表する。例えば「A以上の成績をとるには、前もって渡した課題発表をすることが必要条件である」と公表する。確かに試験問題や単位をインセンティブにして学生に勉強を促すのは、理想的とは言い難い。しかし、出席だけして勉強した気分になってしまうよりも、これを機にクリティカルシンキングの楽しさを学んでもらえば良いと考えている。
重要なことは、初回に試験問題や成績の基準を公表することだ。これは教員からの強烈なメッセージとなる。代返とテストだけでは、高成績はとれないことを宣言する。学生は、授業を真面目に受けるようになる。なお、教員自らが試験問題を前もって公表するのは、前回紹介した「『フライング』の勧め」を活用したものである。
●試験答案を後日に回収する?
初回公表とは対照的に、試験問題の何題かを、設問別に、3日後、2週間後、1カ月後等として提出を遅らせて、充分に考える時間をとる方法がある。近年のEメールの発達により、次の手順のように回収や管理が容易になった。これにより、学生は充分に考える時間を確保できる。
手順A件名に学籍番号(半角左詰め)、氏名、科目名の記入を指示する。つまり、「12J123456 鈴木太郎 クリティカルシンキング」となる。なお、添付ファイルの有無、文字数、フォント等の指定が可能。
手順Bメールソフトの自動仕分けを設定すると、科目名ごとに自動的にファイルされる。
手順Cメールソフトの件名をクリックすることで、学籍番号順に自動的に並ぶ。
「それでは、筆記試験とレポート試験の違いがないですね」と、おっしゃる方もいる。しかし、なぜ筆記試験とレポート試験の区別が必要なのであろうか? 試験問題の事前公開や試験答案の後日回収を行なうと、レポート試験との差異は小さくなる。筆記試験とレポート試験かの区別は重要でない。大切なことは学生が実力をつけることであり、さらに、そのための最善の方法を柔軟に考えることであろう。
●成績はSかAを全員に?
「受講者全員がA以上をとること」、これが目標であり、初回の授業で提示している。受講者全員がSを取ることは不可能かもしれないが、受講者全員がA以上の成績になることは不可能とは言い切れない。実際に筆者は某大学で過去に全員A以上を付与した事があり、その事実を、初回の授業で学生に伝えている。やればできる、と学生が考えれば、学生のやる気が起きる。すると、学生は真面目に真剣に授業に取り組むようになる。さらに、授業内容は全員A以上を取得するという高いレベルであることを、学生が自覚し努力をするので、授業を進行しやすくなる。
なお、過去において全員にAを付与した事例は、必修科目で出席率98%と極めて高く、確かに全員が真面目に取り組んでいた。
●計画2進法?
虎の巻やアンチョコは今や死語になりつつあるが、授業に関していえば次に示す授業計画表(表2)とタイム・マネジメント表はまさにそれである(注3)。マクロ的な俯瞰作業と、ミクロ的な時間配分の双方の検討が必要となる。二種類の表ともフレームワークは、縦軸は時間的な進行であり、横軸には学習内容、目標、学びのポイント等で、授業に重要な要素である。この表は、授業時間ごとに毎回作成するのではなく、何か新しい事、設問・演習、科目等を始めるときに作成している。なぜなら、クリティカルシンキングで学生に教えている「手段と目的の明確化」を、教員自ら実行して効果を確認ができるからだ。ワードでもエクセルでも良いし、手書きでもよい。書くことで整理が進む。つまり、何のために(Why)、何を(What)、どこで(Where)、どのタイミングで(When)、どんな手法で(How)、どれくらいの時間をかける(How long)かを検討して、授業展開をスムーズにするのに役立っている。
この方法を、正確に命名すればおそらく二種類表作成進行検討・確認法となるのだが、極めて分かりにくい。そこで、計画表が2つで授業が進むので、単に「計画2進法」と呼んでいる。