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平成23年5月 第2442号(5月18日)

学生ボランティアの組織的支援を
 西尾氏(日本財団学生ボランティアセンター長 早稲田大ボラセン客員准教授)語る


 東日本大震災の被災地ボランティアがゴールデンウィークをピークに減少している。一方、多くの大学から学生らが被災地ボランティアに行き、単位として認定したり、授業を公欠扱いする大学も出始めた。このたびは、西尾雄志日本財団学生ボランティアセンター長・早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター客員准教授に継続的に学生ボランティアを派遣する意味について寄稿してもらった。

 東日本大震災の一日も早い復興に向け、それぞれの持ち場で、ひとりひとりが最大限に努力することが重要である。
 佐々木正道編著『大学生とボランティアに関する実証的研究』(ミネルヴァ書房)によれば、阪神・淡路大震災時には、全国から150万人のボランティアが駆け付け、そのうちの40パーセントが学生であったという。
 今回の災害においても、ボランティアなくしては早期の復興はあり得ない。またボランティアとしての学生の力は決して小さくない。しかしながら厚生労働省によると、東日本大震災のボランティア数は、3月末の時点で4万3800人に留まるという。
 今回の災害は、その被害の大きさから、ボランティアの宿泊施設を確保することが非常に難しい。また「迷惑ボランティア」になることへの戸惑いからか、大学も学生を送り出すことに対する戸惑いがあるようにも見える。
 そこでぜひ、日本財団学生ボランティアセンターをご活用いただきたいと思う。
 日本財団は阪神・淡路大震災以降、ほぼすべての災害発生時に救援活動を行ってきた。東日本大震災においても、現地にスタッフを派遣し、被災地のニーズを把握し、活動を行っている。その現地スタッフと連携をとり、4月中旬から、本稿執筆時の5月9日までに、400名近い学生ボランティアを現地に派遣している。出発前には現地駐在経験者による事前指導を行い、現地では駐在員が指導にあたる。
 またボランティア用の宿泊施設も用意し、そこでは100名以上のを収容可能だ。また、参加する学生の経済的負担をできるだけ軽減するため、ボランティア保険の1400円のみの負担で、東京から現地までの交通費の一切を財団側が負担する。
 このボランティア派遣事業は、金曜出発、土日作業、月曜帰京の日程で、少なくとも6月末までは継続する。その後は現地と調整のうえ、必要に応じてかたちをかえて実施する。
 この派遣事業は、大学でボランティア関連の講義を担当されている教員の方にご活用いただきたい。現地では、朝八時から一六時までの作業を2日間行うので、90分講義8回分に相当する。これを実習時間としてカウントすると、講義4回分となる。その後、通常の講義において、授業の方針やシラバスの学習到達目標に照らし合わせて、ボランティア活動の振り返りを行い、レポートを課すことで評価することができる。
 また、ボランティアの単位化を検討する際、ボランティアの自発性問題がネックになるようなら、「ボランティア」ではなく、「災害救援活動」として考えればよい。講義科目ではなく、実技・体育科目のイメージで考えた方が実情に近いのではないか。
 また、現地でより必要とされるのは、長期間現地に滞在し、被災した方と信頼関係を結び、活動できる人材である。文部科学省からもボランティアのために休学する際、便宜を図る旨要請がある。しかし休学となると学生にとってはハードルが高い。それゆえ例えば、前期期間中にボランティア活動によって長期欠席した学生には、後期に科目取得の上限設定を緩和し、前期の遅れを取り戻すことができる配慮も検討すべきだろう。
 今年4月入社予定だったある卒業生は、今回の災害を受け、被災地に駐在し、長期のボランティア活動を行っている。その卒業生が入社する予定だったITベンチャー企業であるカレボネット社は、彼を解雇ではなく、無期限休職扱いにし、復職の道を残したという。われわれは通常業務の中でも、復興のためにできることを考え、行動に移すべきだ。そのあり方の一つとして、同社の対応は高く評価されるべきであろう。
 早稲田大学学生生活課の調査によると、ボランティア活動へのコミットメントと、学習意欲には相関関係がみられるという。教育を社会的使命として掲げる大学は、学生のボランティア活動を積極的に支援するべきだ。それは教育という本来業務に深くかかわっているだけに、単なる社会貢献活動にとどまらず、本来業務の質を高めることにもなるからだ。

「受け入れ先、送り出し」どうする   編集部まとめ
 各大学で、学生ボランティアの「受け入れ先」と「送り出し」の仕組みづくりが始まりつつある。
その方法を編集部でまとめた。
 まず、「受け入れ先」については、作業現場と宿泊場所と交通手段の三点を確保する必要があろう。作業現場と宿泊施設については次の手順で現地に問い合わせるしかない。@現地の提携大学、(宗教系であれば)同宗派の大学、A教職員の現地の伝手(フィールドワークをしている教員等)、Bすでに現地にボランティアに行った学生の伝手、COBOGの現地の伝手、D知人の学外教職員・学生の現地の伝手、これらがなければ、社会福祉協議会やマッチングサイトから探す、という手順になろう。内部の伝手であれば、現地との信頼関係もあるため、話は進めやすい。現地で作業経験のある教職員・学生がいれば、まずは学内報告会をして状況を伝えてもらうことも有効である。現地までの交通手段については、自前で用意するのが困難であれば、例えば、近隣の大学と協力してバスをチャーターするなども考えられる。
 送り出しについては、授業を休んで行く際には、インターン等と同様に、各授業を担当する教員との調整が必要である。学生の現地での成長を考慮にいれれば、初年次教育やキャリア教育としての位置づけも可能かもしれない。帰ってからの「振り返り」はしっかりと行う。ボランティア保険への加入は必須となるが、文部科学省から通知のあった「学生教育研究災害傷害保険(日本国際教育支援協会)」や、「社会福祉協議会ボランティア活動保険(全国社会福祉協議会)」等に、大学としてまとめて加入するとよい。学生の服装や持ち物については、どの地域に行き、どのような支援活動を行うかで異なるので、受け入れ団体に都度、確認する必要があるが、合羽、長靴、ヘルメットなど、どこででも必要となる装備は大学として購入して貸し出しても良い。学生個人で揃えるとなると軽く一万円は超えてしまう。
 現地での学生のマナーや津波が予想される余震が起こった際の対応法、緊急の連絡先などは、できれば独自のパンフレットを作成し、説明会を行う。これは今後、仮に自大学が震災を被災した場合の危機管理ツールとしても利用出来る。
 長期的に継続して支援を行うのであれば、ボランティアセンターなどを設置する。また、ウェブサイトも立ち上げ、現地から学生に書きこめるようにすれば、一般学生への広報にもなる。


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