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平成23年1月 第2428号(1月19日)

学びやすい環境を大学につくる
 ラーニングコモンズとチューター承認制度 <上>


 熊本大学大学院教授システム学専攻長 鈴木克明

 学生支援の動向として、アメリカの大学ではラーニングコモンズ、アカデミックセンターの設置の動きが加速している。アメリカの大学学習センター学会全国大会で2007年度に優秀センターとして同学会から表彰されたデイトナ州立大学とタラハッシコミュニティカレッジを視察した鈴木克明熊本大学大学院教授システム学専攻長に寄稿して頂いた。

1.デイトナ州立大学でみた光景
 2011年1月4日、米国フロリダ州にあるデイトナ州立大学(Daytona State College)を訪問した。アカデミック支援センターを視察するためである。改築したばかりの3階建のビル入口脇のコーヒーショップを通ると、そこには220台のパソコンが設置されたセンターがあった。学期が始まる前ということもあり、いつもは多忙を極めるキャンベルセンター長以下、十数名のスタッフの出迎えを受け、一日かけてゆっくりと見学させてもらった。広々として自由に机の配置が可能なセンターの入口には学生が来室時に利用登録するキオスクが6台、数台のパソコンが島型に配置されている学習スペースやパソコンが置いていない丸いテーブル、20人ほどが一斉に学習できるコーナーなどが見渡せた。奥には10人ぐらい入れる小部屋が五つあった。
 学期が始まると、センターは学生で溢れ、座る席もない状態が続くという。センターのWebサイトには、その様子が動画で紹介されている(http://www.daytonastate.edu/asc/)。何か分からないことがある場合、手を挙げるとすぐに助けに来てくれる学習支援専門員やチューターが常駐し、学生を支援する。勉強をするには居心地の良い空間だ。この部屋は主に数学系の支援をする場所で、同じビルの2階と3階には数学の授業が行われる教室がある。そのため、とくに授業後には列をなして入室してくるという。この部屋の他にも語学系の支援を行う部屋が、図書館の1階に100台ほどのパソコンを備えたセンター別室として配置されている。ここ数年の間に規模も大きく拡充し、施設も増えた、という。
 大学のユニバーサル化が進むアメリカでは、学生支援センター、学生センター、アカデミックセンターなどの呼称で、授業外の学習を手助けする活動が各大学で組織化されている。我が国の大学における教育方法改善の切り口として、授業改善を主たるターゲットとするFDの他に何があるだろうか。科研費の研究班でこのことを議論して行きついたのが学生支援センター活動の組織化であった。今回の視察は、昨年の10月に引き続いて2度目になる。前回は、大学学習センター学会(NCLCA)の全国大会を視察した。そこで2007年度に優秀センターとして同学会から表彰された大学がその後どう発展したかをぜひ見てみよう、ということで今回、フロリダ州の二つの大学を訪れることにした。
2.学習支援センターの成功を支える要因
 この大学は、長く短大として存在してきたが、近年、少しずつ4年制の課程を増やしている学生数1万7000人(うちフルタイム55%)規模の州立大学である。いわゆる18歳人口の他にも、30―50代の学び直しのニーズにも答えるために、多様なカリキュラムを提供してきた。いきおい学生の準備状況に格差があり、学習を支援する機能の充実が図られてきたという。各種の助成金を受けながらも、大学独自の予算も充てて、センター活動を発展進化させてきた。この大学ほど大学全体の教育機能の中核を担う役割が期待され、またそれに応えているとの印象を持ったのは初めてだった。スタッフの一人は、「このセンターがなくなったら中退率も上がるでしょうし、学生は学業に成功せずに大学を去っていくことになる。投資効果に見合う以上の成果を上げてきた」と誇らしげに語った。
 なるほど、成功を支えてきたいろいろな仕掛けがあることが分かった。数学は入学時にプレースメントテストを受けて実力を判定され、大学レベルに未達成と判定された者は卒業単位にならない基礎科目の受講が義務づけられる。その科目の成績のうち20%はセンターでの演習で評価されるため、毎学期1000人もの学生が基礎科目の単位をとるためにセンターを利用するという。基礎科目が終わったら大学レベルの数学に進むことができるようになるが、そこでも成績の10%がセンターでの演習で評価される。これならば、学生は来ますわな…。
 学生を助けることを生甲斐にしているとてもフレンドリーな専任職員を学習支援専門員として常駐させている(数学系六名でシフト制勤務)。彼らの監督下で、近隣の大学院生や退職高校教諭などのプロのチューターやすでに当該科目の単位を修得して科目担当教員から推薦を受けた上級生(ピアチューター)もいる。答えを教えないように、でも学び方をしっかり示してあげるように仕込まれた支援者がいる。成績にカウントされるという強制力から利用し始めた学生も、これは便利だと思って利用し続けるような仕組みになっている。
 さらに、授業担当教員もセンターに顔を出して質問に答えることも多いという。教員のノルマとなっている週10時間のオフィスアワーの一部に充当できるという制度に支えられて(学科によってはそのうち週五時間はセンターでチュータリングすることを義務づけている)、教員にもセンターの存在が認知されている。ある学科長は、「学生と二人称の関係が構築できるので、授業もやりやすくなる」と話してくれた。講義しているだけでは見えてこない学生の苦労に接する機会として貴重なのだろう。きっと講義にもいい影響を与えるはずだ、と思った。
昼食には学長も顔を出してくれ、家庭的な雰囲気で歓待を受けた心地よい思い出と大きな収穫とともに、季節外れのデイトナ海岸を後にした。
3.TCCのラーニングコモンズ
 もう一つの訪問先タラハッシコミュニティカレッジ(TCC)は、フロリダ州の州都にある州立の短大である。2008年にそれまで学内に点在していた学習支援の組織を全学生対象のラーニングコモンズとしてまとめて一本化した。その結果、図書館司書との協力関係が構築され、教員との連携も密になり、オープンアクセスPCを中心に熱気にあふれた学習活動の場が提供できるようになったという。
 TCCのラーニングコモンズは、学生数1万5000人規模の短大で、学期の最初の5週間で9000人が利用する施設となった。異なるニーズの学生に対して効率的に仕分けする「分化型支援実施モデル」を考案・採用し、訪問者のニーズに合わせた支援体制を確立した。つまり、自学のための資料がどこにあるかを教えるだけの支援、10分程度で学習の開始方法を指南するだけの支援、そして、さらに長時間の継続的支援が必要な者の3区分でまずは診断し、効率的に多くの学生を扱っている。利用者数の拡大に留まらず、利用学生に学業成績向上の実績を残すことにも成功している。発表者のもとに27人の専任教職員を抱え、ラーニングコモンズ関係者はその中で15人を占めるという。前回の米国訪問でそういう学会発表を聞いてから、是非一度実地見分してみたいと思っていた大学であった。
(つづく)

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