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平成22年12月 第2425号(12月15日)

大学は往く  新しい学園像を求めて<6>
 関西国際大学
 学ぶスキル、身につける
 二重三重のサポート  入学前から授業体験

 各大学で初年次教育が花盛りである。高校とは異なり、大学では自主的な学習が求められる。入学直後にその移行がうまくいかずドロップアウトしていく学生が多い。初年次教育によって中退率の抑制や学生の質の維持向上につなげるのがねらい。これに先行して取り組むのが関西国際大学(濱名 篤学長、兵庫県三木市)。入学前に大学の授業を体験する「ウォーミングアップ学習」がある。入学時にノートの取り方や図書館の使い方から、インターネットによる情報収集の仕方、レポートの書き方を教える。学習支援センターを設け、進学・留学の相談から「授業内容が分からない。どうしたらいいか」といった悩みまで受け付けるなど幾重もの支援がある。これにより中退率が下がるなど成果をあげた。学長に、先進的な初年次教育のこれまでとこれからを中心に聞いた。
(文中敬称略)

中退者減る 先進的な初年次教育
 「初年次教育ばかり注目されて…」と逡巡する学長に「明治神宮野球大会は惜しかったですね」から取材を始めた。11月15日の同大会で関西国際大は東海大学に破れ準決勝進出ならず。同大野球部は阪神大学野球の強豪で、今年度のパ・リーグ最優秀新人賞の榊原諒選手はOBである。
 関西国際大学(KUIS)は1950年、創立者の濱名ミサヲが「戦後の復興は教育、特に幼児教育にあり」との信念から「愛をもって学園となす」を建学の精神として開設した「愛の園幼稚園」(兵庫県尼崎市)が淵源である。
1987年、三木市に関西女学院短期大学(経営学科)を、98年、関西国際大学(経営学部経営学科)を設立。2001年、人間科学部を開設。07年、教育学部を開設、09年に尼崎に新キャンパスを開設した。現在、人間科学部と教育学部の2学部に約1700人の学生が学ぶ。
 学長の濱名が大学を語る。「研究より教育、すなわち入学してきてくれた学生が成長を実感できる教育を目指しています。学生には、大学では『何を学ぶか』ではなく『何ができるようになるか』を考えるように常に言っています。そのための学びを保証することが大学の責務だと思います」
 この濱名の言葉を具現化したのが1冊の本。「知へのステップ」のタイトルで、リーディングの基本スキルの章では、文章の読み方の種類から、要約の仕方、レポートの書き方に至っては読点の打ち方まで解説してある。02年に出版した。 
 初年次教育のバイブルともいえる「知へのステップ」。98年の大学開学以来、上村和美教授を中心に学生の生の声を生かしながら授業実践を繰り返し、改良を加えた。現在、多くの大学でも初年次教育のテキストとして使われる。
 「高校から大学への学びに円滑に移っていけるように、1年生には『知へのステップ』をテキストにした『学習技術』という科目を必修にしています。もちろん単位認定もします。そこできちんと大学で学ぶスキルを身につけてもらってから次のステップへ進んでもらっています」
 同時に、卒業後の人生設計の「キャリアプランニング」で、『学習技術』をどう使って自分の目標を実現していくか、学生一人ひとりが考え、自身の目標をできるだけ明確にしていくよう指導。学生は、自己分析結果やレポートなど、自分の学習成果を収めた『ポートフォリオ』を作成する。
 「ポートフォリオを四年間記録し続けることで、自己の目標管理や学習到達度がそのつど確認でき、自身の成長を具体的に実感し、目標達成へ向け意欲を高めてもらいます。〇七年から『Eポートフォリオ』を導入、より活用しやすくなりました」
 「初年次サービスラーニング」も同大ならではの取組み。地域貢献と重なる。市民としての責任に基づき地域社会の課題を解決すべく、社会貢献活動を通して体験と知識の「総合化」と「ふりかえり」によって学びを深める。
「教室の中だけで教員から一方的に知識を伝達されるのではなく学生自身が能動的に地域社会、そして世界に出て自らの経験と教室内での学びを統合して学習目標を達成していって欲しい。この頂点にあるのがカンボジアで活動する海外サービスラーニングです」
 サービスラーニングの活動記録や学習成果も「Eポートフォリオ」に記録、コメントが付加され、学生に対する形成的評価が促進される。
 同大の初年次教育の特長は2重3重のサポートがある点だ。開学時に設置した学習支援センターもそうだ。教員が交代で常駐、授業内容の質問から進学・留学の相談まで受け付け丁寧に指導している。
 06年には、「KUIS学習ベンチマーク」という到達目標を定めた。卒業までの4年の間に、学生が成長した証しとして身につけてから大学を巣立って欲しいという共通の到達目標である。
 学習奨励制度もユニークだ。同大は成績を総合的に判断でき、努力の成果が明確に表れる成績評価システムGPAを導入している。このGPAのレベルに応じた学習指導や成績優秀者の表彰などを行っている。
 さらに、マイレージを取り入れた「キャンパスマイレージ」。資格・検定取得をはじめ、クラブ活動やボランティア活動などの成果に対して、決められたポイントを与え、さまざまな特典と交換できる。貯まったポイント別にアメリカや中国への海外研修に参加できたり、電子辞書がもらえる。
 「初年次教育で学生による支援があるのも、うちの特長です」と濱名。「学生メンター制度といって、選ばれた上級生(2〜3年生)が、新入生をサポートします。1年生を対象に教職員や新入生のサポートやキャリアプランニング等の運営準備・支援などを行っています」
 学生メンターになった先輩の学生は学びを深めることができると同時に、新入生も学生メンターを目指すという相乗効果が期待できる。
 2011年度から新「経営学科」を開設する。観光・ツーリズム、フードビジネス、ブライダル、地域マネジメント、スポーツビジネスの5コース。「ビジネススクールに近い発想で、インターンシップを重視、マネジメント能力を身につけるのがねらいです。これまで考えてきたことを凝縮した学科です」
 これからの展望を聞いた。「学生に自信とやる気をつけさせるため初年次教育に力点を置いてやってきました。中退者が減るなど一定の効果はあがっている。しかし、学習ベンチマークの達成者をもっと高めるなど改善すべきことは、まだある。改善しながら大学運営を進めていきたい」
 先進的な初年次教育を推し進めてきた先駆的な学長は妥協を許さず改善の要をしきりに説く。それが学長のめざす「小さな大学だが、わくわく・ドキドキできる大学」につながる。そのことが体験からわかっている。


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