平成22年11月 第2423号(11月24日)
■大学は往く
新しい学園像を求めて<5>
京都外国語大学
学園の国際化を推進
キャンパスに特別区を 英語しか使えないゾーン
卒業生の赤染晶子の芥川賞受賞を心から喜んでいるが、大学のPRに利用しない姿勢が清楚である。京都外国語大学(松田 武学長、京都市右京区)はグローバルに考え、語れる人材を育成する語学系大学のパイオニアとしての自負と確信がある。私立の外大としては国内最多の学科数(八言語+国際教養)を有する。「言語を通して世界の平和を」という建学の精神、「社会とともにある総合学園」という創立者の思いは時代や世代を超えて変わらない。バイリンガル、トライリンガル、マルチリンガルがめざせる学びのシステム。国際交流協定校は海外21カ国50大学、派遣留学や海外セミナーなど多彩な留学制度を用意、これらをきめ細かな少人数教育が支える。これまでの大学の歩みと、グローバル化が進むなか、語学系大学はどう対応していくのか、を学長に聞いた。
(文中敬称略)
きめ細かな少人数教育 言語通して世界平和
京都外国語大学は、1947年創立の京都外国語学校が前身。50年、京都外国語短期大学を設置。59年、京都外国語大学(外国語学部英米語学科)を開設。63年のイスパニア語学科を皮切りに学科を増やした。
66年、フランス語学科、67年、ドイツ語学科、ブラジルポルトガル語学科を開設、74年、中国語学科、04年、イタリア語学科を開設。07年にイスパニア語学科をスペイン語学科に名称を変えた。今年度、国際教養学科を開設した。
松田が大学を語る。「建学の精神に沿って多様化する国際社会で真の世界平和に貢献できる人材を育成してきました。グローバル化の進むなか、高度な外国語の運用能力はもちろん、国際情勢その背景にある歴史や文化などを捉える幅広い教養と、外国の人たちと対話し協働して問題解決する能力を育成しています」
世界平和を掲げる建学の精神については「世界平和は身近なところにあります。自分自身が平和になることは他人と折り合いをつける術を身につけること。他人を変えたいと思うなら、まず自分が変わること。それが平和につながる第1歩だと思う」と補足した。
松田は大阪外語大(大阪大学と統合)出身で、今年4月に京都外語大に教授として迎えられ、8月に学長に就任。専門はアメリカ外交史で、学長室のデスクには大きな地球儀がある。「地図帳でなく地球儀を見ながら、教育研究も学校運営も考えています」
松田が学生を語る。「先生に対して丁寧で、もっと育ててあげたい、もっと教えてあげたいという気にさせる学生が多い。熱心で前向きなので、悪い面は問題にしないで、いいところを発見して伸ばすようにしている。つねに原石を探し、誉めて育てています」
グローバル化の時代、語学系大学の対応を聞いた。松田は「現在、私たちは『フラット・ワールド』の時代に生きています。『フラット・ワールド』とは、インターネット上に必要な情報が全ての人に公平に存在、その気さえあれば、いつでもだれでもが必要な情報を手に入れることのできる世界です」とこう続けた。
学生の就業力強化
「このフラット・ワールドの時代に、いかにして学生の心に火をつけ、学習意欲を高めるか。その鍵は学生との信頼関係に根ざした教員一人ひとりの手腕にあります。同時に、学習意欲が学生の心の中から自然と湧き上がってくるキャンパスライフもその重要な鍵だと思います」
具体的に、どのように大学運営をしていくのかを聞いた。@学園の国際化の推進、A学生の就業力強化、B京都という地の利を生かした地域連携、の3つをあげた。
国際化の推進について。「日頃のキャンパスライフを通して外国体験できるようにしたい。キャンパス内に特別区を設けて、そのゾーンは英語しか使えないようにするとか、タイムゾーンをつくり、ある時間帯は英語しか話せないようにする、のもおもしろい」
なぜ、そこまでやるのですか?「外国語運用能力が身につくと、その言語で自分の意見を外国人に伝えたいという知的欲求が湧いてきます。さらに、その国に行って自分の力を試したいという欲求が起こる。そうした学生を育てたい」
就業力について。「学生一人ひとりが自ら希望する仕事に就職でき、卒業後、充実した人生が送れるように、これまで以上にしっかりと学生諸君を支援していきたい」
九月、文科省の大学生の就業力育成支援事業に同大の「異文化間就業力の育成」が優れた取組みとして選定された。松田が説明する。
「日本の企業が国際競争の場で打ち勝つためには多様性を取込み日本の高度な技術力やサービスを活かさなければなりません。海外でのフィールドワークに重点を置き、異文化環境の中で多様な人間と協働しながら自らの異文化間就業力を養い、さらに人的ネットワークを構築することで就業力を強化していくという仕組みです」
京都らしい地域連携
京都という地の利を生かした地域連携について。京都にある外国語大学ならではのサークルが「フリーガイドクラブ」。
「金閣寺や平安神宮などの四社寺を訪れる外国人観光客を無料で、またはボランティアで英語でガイドしています。さまざまな学科の学生が所属し、社寺の情報だけでなく日本の歴史や文化への理解を深めながら、実践的な英語力やコミュニケーション力を磨いています」
ところで、作家の赤染晶子は、京都外国語大学外国語学部ドイツ語学科卒業、北海道大学大学院文学研究科ドイツ文学専攻博士課程中退。2010年、「乙女の密告」で第143回芥川賞受賞。
「京都外国語大での先生との交流で文学の才能が刺激されたと思っています。在校生に『私もやってみよう』というチャレンジ精神を呼び起こしてくれてうれしい。同時に、若者には多様な才能、能力があり、これを開発していく必要があると思いました」
楽天やユニクロといった企業が「社内公用語を英語にする」と発表したことが話題になった。これについて尋ねると、「語学力重視は語学系大学としては有難いが、要諦は外国語を話せることでなく中身の問題」ときっぱり。
同じ口吻で、松田は大学のこれからを「今後、本学をさらに躍進させるために、京都外国語大は他の大学とひと味もふた味も違う大学をめざしたい」とこう続けた。
異文化を理解、共生
「日本にいながら世界の言語と文化を学び、日常のキャンパス生活を通して外国が経験できる大学という環境を作っていきたい。教育では、日本のソフト・パワーの一翼を担う京都外国語大ブランドの人材の育成です。高度な外国語を身につけ、異文化を理解し、外国人とコミュニケーションでき、共生し、共働する学生を育てたい」。
学長に就任してまもない松田は大学のビジョンを何度も同じ言葉で語るなど意欲的で、その夢の実現にも意欲満々だった。