平成22年9月 第2415号(9月8日)
■高めよ 深めよ 大学広報力 連載を終えて(上)
「動かない水は腐る」と変革へ
マスコミの胸に飛び込め 改革に必要な大学広報
本紙の連載企画「高めよ 深めよ 大学広報力」は連載80回を迎えたのを機に、ひと区切りとしたい。大学全入時代を迎え、加盟校にとって、どうすれば大学の名前、存在を広く理解してもらい、より多くのよい学生を集めることができるか。加盟校はもとより国公私立の各大学を取材、多くの学長や広報担当理事、広報担当者らの声を聞くことができた。当初の目的である加盟校のトップや教職員に広報の大切さを理解してもらおうという狙いは、ある程度、達成できたのではないかと考えている。そこで、連載を終えるにあたって二回にわたって、連載を振り返る。(上)では、改革を行った大学が得た成果と大学広報の役回り…という視点で印象に残った事柄や他の大学に参考になることをジャンル別にまとめた。(下)では、大学の置かれた状況を見据え、取材した大学関係者や広報の専門家らの助言を織り込み、「これからの大学広報はどうあるべきか」を再考した。
90の国公私大を取材
この連載で、取り上げた大学の数は約90大学になる。初期の連載では1回の記事で2つの大学を掲載(12回)したためだ。テーマは「大学広報力」だが、(もちろん「広報力」全般については聞いた)それより、大学の変革=「動かない水は腐る」に照準を当ててきたつもりだ。
具体的には、取材した大学が、少子化・大学全入の厳しい時代、どのような大学改革を行ってきたか、どのような生き残り策を実施しているのか、今後、どう改革を行うつもりなのか―を中心に、これにプラスして広報の役割を綴ってきた。
これまでの連載記事を振り返って読みたい人は、日本私立大学協会のホームページの教育学術新聞に「大学広報力」のバックナンバーを全て掲載しているので、これを開いて読んでほしい。
さて、印象に残った事柄、他の大学にとって参考になることをまとめた。取材した大学を@大学の規模A都市部の大学と地方の大学B総合大学と単科系大学Cスポーツに力を入れる大学D広報体制の強弱―ジャンル別に箇条書きにした。広報と直接関係のない話もあることをあらかじめ断っておく。
大規模伝統校の強さ
(1)大学の規模に分けて、どのような改革を行ってきたか、何で存在感を示したか、を検証した。いわゆる大規模伝統大学の強さが垣間見えるかもしれない。
[早稲田大]グローバル化の推進に全力投球。私大の強み・存在意義は建学の精神と強調。
[慶應大]OB会(三田会)の比類なき強さ。大学の資金集めや、学生は就職活動に活用。
[中央大]多摩移転の功罪は「功」と判断。大規模大学だが、入試広報では細かな高校訪問。
[明治大]なまりの聞ける大学の消滅。リバティータワーや学部再編などで受験生数首位に。
次に、中小規模の大学で、印象に残った大学とその事例をみてみたい。
[前橋国際大]小さな大学の大きな改革。改革は一人の力でも可能。
[静岡産業大学]マーケティングの権威、大坪学長の重い存在感。
[千葉商科大学]学長が広告塔、マスコミに登場して大学をPR。
[ICU]「学生の満足度」の高さは抜群。「大学案内」を有効活用。
(2)厳しいといわれる地方の大学でも頑張っているところも多い。
[国際教養大学]学長力と英語力で脚光。寮生活、海外留学は必須。
[豊田工業大学]世界のトヨタの力。就職に強く、日産への就職も。
[松本大学]地域貢献ランクで全国三位。小さな大学の自信と誇り。
(3)単科大学は広報面でも総合大学に比べ、不利といわれるが…。
[神田外語大学]英語教育システムを他大学に“輸出”する英語力。
[武蔵野音大]音楽雑誌などに広告出稿したり、独自の学校説明会。
(4)ブランド力強化、知名度アップとして大学スポーツ強化があげられる。成功した大学をみてみたい。
[東北福祉大学][流通経済大学]優れた指導者の存在、マスコミのほうから取材が殺到。
[中央学院大学][上武大学]箱根駅伝出場によって大学の知名度、受験生数が大幅アップ。
[山梨学院大学]スポーツ強化が学問にも波及。学生に連帯感も。
(5)広報体制は大学によって様ざまだ。3つの視点でみてみたい。
▽広報経験者を招聘
[信州大学]国立大学法人化で広報強化、民間の広報経験者を招請。
[文教大学]広報理事は博報堂出身。教員採用の強さをアピール。
[明治大学]広報強化で新聞社、プロ野球球団などから中途採用。
▽ブランディング実施
[明治学院大学]ロゴから大学のカラーまで、ブランディングの魁。
[相模女子大学]「女子大であり続ける」と宣言、ブランドを再構築。
▽ベテラン広報マン
[千葉工業大学]「記者との人間関係が広報の原点」と言う広報担当。
[女子栄養大学]東洋大学でムーミンを使って評判の広報マンが着任。
改革で成果あげる
次に、ユニークな改革や活動を行っている大学を紹介したい。むろん、それによって成果をあげている大学だ。
[金沢工業大学]就職率の高さを誇る。「文藝春秋」に広告出稿。
[清泉女子大学]改革をしないのが改革? 伝統の力で受験生は安定。
[国士舘大学]かつて「男の大学」は女子大生が増え、明るい大学に。
[東京工科大学]不断の改革。実学主義という建学の精神が裏打ち。
[甲南女子大]お嬢さん大学が看護学部設置。他学部に効果が波及。
[東京都市大学]武蔵工業大から校名変更、受験生は大幅に増える。
[京都産業大学]益川教授のノーベル賞受賞効果で受験生が増える。
[武蔵野大学]女子大から新学部設立し共学。大学ランクで上位に。
[東京女子大学]二学部を再編して、一学部に。受験生には好感。
[東京家政大学]入試と就職業務を一本化。これにより受験者安定。
[京都女子大学]女子大初の法学部を新設。名門女子大も改革に着手。
[嘉悦大学]独自の初年次教育導入。「学長力」が改革を促す。
[東京農業大学]卒業生中、農業に就くのは減少。農業回帰で人気。
[芝浦工業大学]入試制度、新学部、新校舎などの改革で受験者増。
最後に、今回の取材で、個人的に印象に残ったことを記す。難儀したのは、取材を申し込んで断られるケース。それを翻意させるには、「お話をお聞きすれば、いろいろ書くことが出てきます。先日訪れた大学のときも、そうでした」が常套句?それでも駄目なケースも…。
この取材では約90大学を訪問して、広報担当者と名刺を交換。プレスリリースの必要性を述べたこともあり、取材後、どのくらい、記者宛てにプレスリリースを送ってくるかに関心があった。3大学だった。多いとみるか、それとも…。
頑張れ大学広報マン
取材で知り合った全国紙の教育担当記者から聞いたちょっといい話。経営破たんした大学に「入学者数を出してほしい」と依頼。出さないと思ったところ出してきた。以来、この記者は「この大学に好意的な記事を書くようなった」と告白した。
取材する記者も血の通った人間。大学の広報担当者は怖がらず、彼らの胸にどんどん飛び込んでいって欲しい。頑張れ大学広報マン。