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平成22年8月 第2412号(8月18日)

地域活性担う人財の資質は
  地域活性学会清成忠男会長に聞く 
   


 

 平成18年度、各地の大学が、内閣官房・内閣府と連携して「地域再生システム論」というユニークな授業科目を開講した。その輪は徐々に広がり、幾度か議論を重ね、わが国の重要な社会課題、政策課題である地域活性化をアカデミズムの立場から支援するべく、「地域活性学会」が創設される。大学は、いかに地域と共に地域活性に取り組むべきか。会長を務める清成忠男前法政大学総長に話を聞いた。

―地域活性化とは何ですか。
 地域が活性した状態とは、その地域が経済的に自立しており、市民が快適に住んでいて満足度が高いということ。そういう地域は他所から人が訪れても印象がいい。そして、地域の経済活動を活性するには三つの方法しかない。
 第一に、地域産業を地域の住民の手で活発にするか、新しい産業を起こす。第二に、地域の外部から企業等を誘致する。第三に、国や自治体の公共投資や補助金でテコ入れする。
 企業誘致は、人件費の安い中国等に流れてしまうのでほとんど不可能。財政依存は労働人口が減少して税収が落ちる一方で、社会保障費の増加で厳しくなっている。そうなると、地域住民自らの手で産業を何とかしなければならない、ということになる。しかし、これは決して容易なことではない。
 地域の担い手たちが高齢化し、若者は都会に出て行ってしまう。日本経済全体も成長していない。実際問題として、県庁所在地には人口が増加するが、そこから遠く離れれば離れるほど少子高齢化になっている。
 全国で、人口が一貫して増加しているのは約10都道府県。あとは減少し続けていて、青森・岩手・秋田、そして、高知・鹿児島・宮崎と、東京から遠い日本の両極は減少のスピードも早い。
逆に三大都市圏には、日本の人口の半分以上が集中している。この構造的な問題が、地域の様々な問題の根本原因の一つとなっている。
―私立大学の志願者にも影響がありますか。
 私立大学の志願者は約七割が三大都市圏に集まる。特に、早稲田大学、明治大学、法政大学の3校に30万人以上が志願する。全国の私立大学の志願者が300万人余りだから、3校で1割を占める。金沢工業大学の黒田壽二学園長は、大都市の大規模大学が定員以上に入学させると、地方の大学に大きなマイナスになると仰っている。
  「定員割れ」と言われるが、個別大学の努力で対応できる限界を超えている。人口減少という構造的な問題は、いくら頑張っても解決は難しい。
―地域活性を担うのはどのような人財ですか。
 まず、ヨソ者ということが挙げられる。ある地域で生まれ育った人は、その地域の特徴・価値に気づきづらい。何も無い、何も出来ないという錯覚に囚われがちだが、他所の人からは簡単に「地域活性の資源」が見えたりする。何でも地域の資源として活用しうる。望ましいのは、地域の人がいったん外にでてUターンすることだ。
資質的には、アイデアを豊富に持っていて好奇心が強い、また、明るく楽観的な人。「できない理由」を並べるのではなく、「実行するためのマイナス条件を潰していける」人だと思う。
 札幌学院大学、法政大学、高知工科大学、沖縄大学の4大学は、昨年から文部科学省の大学教育改革の支援のひとつ「大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム」に「まちづくリスト育成プログラム」が採択されている。まちづくリストとは、地域活性化の具体的な事例を学び、実際に全国各地で地域活性化を担う人材である。地域を超えて学生が交流するプログラムを作成することで、その地域に埋れている価値を発見する、ということも狙いの一つである。
 この連携の特徴は、地域コンソーシアムとは異なり、同じ地域内で連携をしていないところだ。同地域内だと、どうしてもライバル意識があるので完全な連携は難しい。一方、広域の地域連携であれば、学生の獲得などにおいて競合することはまずないので、安心して連携ができる。
 一朝一夕にはいかないが、「その大学じゃないと学べない」という特徴を創ることも必要だろう。例えば、文化女子大学のファッション、鳥取大学の砂漠緑化研究などは、世界から学びに来る。そういう分野を開拓していくしかない。
 地域おこしのキーパーソンがいない場合は、他所から引っ張ってくるしかないが、大学で人財育成をしていれば、「こういう人財がいます」と提案できる。更に各地域の大学の地域活性の専門家を学会でプールしておけば、すぐに派遣できる。これは、私が会長を務める地域活性学会の目的でもある。
―人財育成以外の大学の役割は。地域の資源として考えると。
 研究面では、新しい産業を起こすイノベーションの種を生み出すことも可能だ。自然エネルギーを更に効率よく利活用する産業や農工商連携も考えられる。
 新産業の創出については、必ずしも大学が産業を起こす主体になるのではない。地域の主体、例えば経営者が新事業を起こし、大学の技術を移転してその後もCTOなど技術アドバイザーとして支援する。大学発ベンチャーがほとんど失敗に終わったのは、教員が企業経営者になったから。教員は技術の専門家でも経営の専門家ではない。
 大学が地域シンクタンクになる、という役割もある。その場合は、その地域を十分に調べることが重要だ。その地域を最も知っている存在であるべきである。
 私が、とある地域に集中講義を行った時のことだが、「清成先生はこの地域の経済をどのように評価されますか」と聞かれた。「そんなことは(地元の)大学の先生に聞いたらいい」と応えた。そうすると、「いや、先生はそんな話はしてくれない」と。だから、「分かった。一日だけ時間をくれ」と言って講義の後に県庁に行って地域経済情報を片っ端から探した。
 それで、その県には様々な「日本一」があったことが分かった。こうした話を学生に聞かせたらびっくりして、「こんな話初めて聞いた!大学の先生や地元の新聞はこの地域はダメだダメだと言うけど、日本一がこんなにあるなんて!」と。どんな地域だって長所はある。それをどうやって見出していくか。
 具体的には、静岡県にある静岡産業大学は地域密着型の大学で有名だ。地元企業からは寄付をもらうのではなく、寄付講座として経営者に講演してもらう。そうすると、学生も地元にこういう企業があったのかと気づく。地域産業が抱える問題を、大学が知恵を出して解決するし、地域の人財ニーズにあった学部を作って育成をしている。そういう考えが浸透するから、定員割れをしないし地域に信頼される。
―こうした人財を育成するには。
 人財育成に重要なのは、なにより動機づけである。それには教員が地域を理解していて、この地域には何が必要かを分かっていて、「とりあえずやってみなさい」と背中を押してあげること。実際に手足を使って動いてみる中で地域の問題、更には問題の構造が分かってくる。そういう意味では、教員への動機づけも必要かもしれない。

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