平成22年8月 第2411号(8月4日)
■高めよ 深めよ 大学広報力 〈78〉
こうやって変革した 75
ユニークさで存在感示す
歯と文学が一緒の大学 連携強め改革を実現へ
鶴見大学
歯学部と文学部という組み合せで構成されるユニークな大学。鶴見大学(木村清孝学長、横浜市鶴見区)は曹洞宗の大本山總持寺が創立した。女子短期大学を母胎に4年制の女子大に、そして男女共学へと変遷をたどった。文学部には日本文学、英語英米文学のほか、文化財学、ドキュメンテーション学といったユニークな学科がある。歯学部は、難民申請中の人たちに無償で支援歯科診療を行い、周辺市民に対する「生涯学習セミナー」、学部とは独立して実施する司書・司書補講習(図書館学講座)などユニークな活動は成果をあげる。こうしたユニークさで存在感を高めているが、歯学部は他の歯科系大学同様、定員割れに悩む。学長は「歯学部、文学部が一緒の特性を生かし連携を強め、有機的に結び付ける方策を実践して活力ある大学に変革したい」と前向きだ。ユニークさの中身、これからの改革などを学長らに聞いた。
(文中敬称略)
女子大から男女共学へ「人間力」養う教育
鶴見大学は、1953年設立の鶴見女子短期大学(国文科単科)が起源。63年、文学部の4年制大学鶴見女子大学を開設。70年、鶴見女子大学に歯学部を増設。73年の歯学部の男女共学化に伴い鶴見女子大学を鶴見大学に改称。98年に文学部も男女共学化した。
名刹總持寺に隣接、取り囲むようにキャンパスがある。大都市・横浜にありながら木々の緑に覆われる豊かな自然に恵まれた教育環境。歯学部と文学部の2学部の約2200人の学生が学ぶ。
学長の木村が大学を語る。「建学以来、仏教、特に禅の精神に基づく『大覚円成 報恩行持』をモットーとしています。この考えのもと、私たちは『心の教育』と『オンリーワン教育』を進めています。学生一人ひとりに教職員が十分目を配り、それぞれが持つ長所、個力をできる限り伸ばしていくよう努めています」
文学部の紹介から。「少人数のクラス編成で、学生と教員とがフェイス・トゥ・フェイスで学べます。専任教員による質問や相談の時間も設けられ、学修だけでなく、就職などさまざまな助言が受けられます」
就職にも力を入れる。「学部共通のカリキュラムでは、入学当初の導入教育から、就職対策に役立つ科目や、社会での実践力を高める科目を充実させています。早期から就職に向けた心構えを持つことで、高い社会性も養成しています」
ユニークな文化財学科とドキュメンテーション学科。文化財は、国宝の仏像から、古文書、土器、美術品、民具、神楽など、有形無形さまざま。ドキュメンテーションとは、情報を加工して使いやすくする一連の流れ全体のこと。木村が説明する。
「文化財学科は、文化財を深く探求することで、大切な文化財を次世代へとつなげていく役割を担います。ドキュメンテーション学科では、コンピュータなどを駆使し、人類が蓄積してきた膨大な“情報”を分類“整理”提供する技術と知識を身につけます」
歯学部は、附属病院での診療参加型臨床実習を開設以来実施。患者を診療しながらスキルを磨くのが特長。今春、私立大歯学部の17学部のうち11学部で入学者が定員を下回った。鶴見大も含まれる。原因は、不況で高額な学費負担ができないことや、歯科医師の過剰などのイメージが広がったためとみられる。
「歯学部の厳しさは、大学内の横のつながりを強くしました。これまで2つの学部は独自の路線でやってきました。こういう状況になり他人事ではない、と全学の委員会でも他学部の助言をするなど連携が強固になりました」
冒頭の木村の「連携を強め、有機的に結び付ける方策を実践して活力ある大学に変革したい」という言葉に重なる。
人気の司書司書補講習
司書・司書補講習は、開講以来、半世紀を超える。修了者の全国の図書館での活躍が、講座への信頼を生んでいる。同大の図書館は70万冊を超える質の高い蔵書を備え、全国大学図書館ランクでも常にトップ10に入る。
地域と密着した大学
生涯学習センターは、開かれた大学、地域と密着した大学を目指す。「文学」「歴史と文化」「趣味と実用」「創作と生活」「ふれあいと育み」「健康とスポーツ」「宗教と生きがい」「語学」「パソコン」と幅広く展開している。
歯学部もユニークな活動に取り組む。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と共同で「難民支援歯科診療」を今年2月から始めた。日本在住の難民申請中の人たちを対象に、歯学部附属病院で口腔内の検査と歯の治療を無償で行っている。
「歯学部を持つ本学の特長を生かして、難民救済のお手伝いをするということは、社会貢献的な分野での国際交流のひとつといえるでしょう。早くから国際交流に取り組んできたことが、難民支援につながったのかもしれません」と木村。
また、日本小児歯科学会と連携し、小児の難病の克服を目指し『歯髄細胞研究バンク』を設立する。昨年10月から歯髄細胞を預かる細胞バンク事業を産学連携でスタートさせている。
これまでの研究から、「親知らず」や「乳歯」に含まれる歯髄細胞が再生医療に有効なことがわかった。脳卒中の後遺症や脊髄損傷などの神経疾患、骨粗鬆症等の骨や軟骨疾患、さらに小児の難病に有用だといわれており、今後が期待される。
大学広報を木村が語った。「難民支援歯科診療や歯髄細胞研究バンクの話題は、マスコミにも取り上げられました。誇大広告的なものは駄目ですが、教育研究や社会貢献などの成果は、きちんと正確に発信していきたい」
ところで、04年の夏の高校野球を制覇し、北海道に初の優勝旗をもたらした駒澤大苫小牧高の香田誉士史監督が08年5月、駒大苫小牧高を退職、鶴見大職員に。「野球部の強化か」と大学関係者やマスコミの間で話題になった。
理事で事務局長の落合一恵が話す。「香田さんには教育の一環として硬式野球部コーチをお願いしていますが、野球部を特別扱いすることはしません。香田さんを慕い入学する学生も出てきており強いチームに育っています」
最後に、これからの鶴見大の改革について木村に聞いた。「附属中学、高校、幼稚園を含め学園全体の再構築プロジェクトを進行中で、大学改革もその一環です」と前置きして語った。
教育教養センターを
「社会の荒波の中でも、たくましく生きていける『人間力』を養う教育。そんな教育を鶴見大学の特色として徹底を図っていきたい。真に『人間力』のある人材を育成するための『教育・教養センター』のようなものを検討しています」
少子化とグローバル化という時代のうねりの中で、人間力のある人材の育成をめざす。それが、新たなユニークさ、即ち魅力ある大学につながる、そんな確信が木村の言葉には、こめられていた。