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平成22年7月 第2410号(7月28日)

新時代の大学図書館C
 学生による選書の取り組み
 ライブラリーサポーター選書ツアーについて
   


法政大学図書館事務部多摩事務課 市川さやか 

 学士力が問われている現在、大学図書館に求められる役割も変化してきている。
 以前は図書館の中心的な業務であった資料の収集・整理の業務に加え、現在は学習支援の担い手として、全国の大学図書館で様々な取り組みが行われている。法政大学でも、多様化した情報検索・収集に対応するための情報リテラシー教育の実施や、レポート作成講座の開催、大学院生による学部生への学習支援(学習相談等)として、学習アドバイザー制度を開始するなど、様々な取り組みを実施してきた。
 このような学習支援を行っていくうえで重要なことは、「学生は何を求めているか」という視点ではないだろうか。学習の場としての図書館に、まず学生に足を向かわせるためには、学生の図書館サービスへの要望、期待を把握することが大切である。そのうえで、それに適合した図書館サービスを行っていくことが、真の学習支援に繋がっていく。
 そのような状況の中、法政大学では、2008年度からライブラリーサポーター制度を開始した。この制度の目的は、「学生の図書館への働きかけ」を生み出し、それを図書館サービスの改善に活かすこと、そしてその結果として学生の満足度を高めることである。ライブラリーサポーター(以下、サポーターと略す)の募集は公募制で、筆者が所属している多摩キャンパスのサポーターの人数は、2008年度9名、2009年度11名、2010年度16名と年々増加している。
 「学生の図書館への働きかけ」は2つの面からなされる。第1は、学生の図書館サービスへの評価である。これは年2回、職員とサポーターとの懇談会を実施し、彼らの意見、要望を図書館サービスの改善に活かしている。第2は、学生の図書館運営への参画であり、代表的なものは、選書と図書館に関する企画の実施である。
 今回はそのうち、学生による選書の取り組みである「選書ツアー」について紹介する。選書ツアーとは、都内の大型書店で、サポーターが図書館で購入したい図書を選定するという取り組みである。これは、学部生が図書館の選書に関わることで、蔵書への関心を呼び起こし、図書館利用を促進する、という目的で始められた。
 また、図書館としては、学生が求める図書資料の傾向を知ることができるという利点もある。今年度は年2回実施を予定しており、6月に1回目の選書ツアーを実施した。選書はバーコードリーダーを使い、各自希望する図書のバーコードを読み込む形で行われる。予算は1人3万円程度、時間は約90分である。選書した図書は、自館の所蔵との重複チェックと、職員によるチェックを行った後、発注している。納品後、サポーターが各自選んだ図書のポップを作成し、1ヵ月程度「ライブラリーサポーター選書ツアー本コーナー」として展示配架している。
 展示配架された図書は大変好評で、同じ学生が選んだ図書ということから、注目度が高く、毎年ほとんどの図書が一般学生に貸し出されている。また、選書ツアーに参加したサポーターからは「自分が選んだ図書を、他の学生がすぐに手に取って借りている姿を見て嬉しかった」という感想も聞かれた。選書ツアーを通じて、サポーターのマイライブラリー意識の向上、来館の動機づけが出来たことからも、図書館利用の促進という点に関し、選書ツアーは一定の効果を上げていると思われる。
 では、サポーターがどのような図書を選んでいるかについて、見てみよう。6月に実施した多摩ライブラリーサポーター選書ツアーは9名が参加した。選書した図書は計203冊、所蔵重複チェックと職員によるチェックを行った後、実際に発注した図書は140冊である。選書した図書の約30%が自館で既に所蔵しており、それらは主に学習用図書として既に職員が選書しているものや、購入希望により所蔵している図書であった。
 サポーターが選書した図書の主題分類の割合は表1の通りである。今回選書ツアーに参加したサポーターは全員社会科学系の学部生であったが、学部に関わらず、幅広い分野から図書が選ばれていることが分かる。その中でも特に文学系が49%と、半数近くに上っており、学生の希望が非常に高いことがうかがえる。
 昨年までの選書ツアーでも、やはり文学系図書の選書が多かったことや、また以前から、文学系図書の充実を求める声があったこともあり、本図書館では現在、文庫の収集タイトルの追加や、現在は受け付けていない文庫の購入希望の受付開始などを検討している。文学系以外で選書された図書については、本学の選書基準による職員の選書からは外れるが、メディアで話題の図書などが多く選ばれている。
 以上のように選書ツアーのデータを分析すると、学生に有用な学習用図書は職員が選書できており、学生から充実が望まれている文学系図書は、上記の見直しで対応する、そして選書ツアーが定着していけば、メディアで話題の図書等も充実することから、学生の満足度の高い蔵書構成になると考えられる。
 最後に選書ツアーに参加した学生の感想を紹介しておこう。
 「初めて自分が欲しいと思う以外の視点で本を選んだ。とても良い経験になったと思う。」
 この言葉からは、選書ツアーに参加した学生が、大学生が読むべき図書とは何か、大学図書館にふさわしい図書とは何かを考えながら、選書をしていたことがうかがえる。このことから、選書ツアーの取り組みが、図書館の利用促進や満足度の高い蔵書構成への貢献にとどまらず、参加した学生の学習意欲の向上や知的発見にも繋がっているのではないか、と筆者は感じている。

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