平成22年7月 第2408号(7月14日)
■看護系人材養成の期待
私立大で量的拡大を
一、医療・看護を取り巻く状況の変化と看護系人材養成の現状
昨年7月に保健師助産師看護師法が改正された。改正は「看護師の受験資格に大学が明記され、保健師と助産師の教育年限が1年以上に延長された。新人看護職の臨床研修が努力義務化された」という2点である。このたびの法改正は看護界にとって長年の懸案であった看護基礎教育改革への大きな一歩である。
看護師養成は昭和22(1947)年の制度開始当初から、3年課程はその年限を変えることなく継続してきた。看護師養成3年課程は、養成所・短期大学・大学に大別されるが、多様な学校種が存在しさらに複雑さも指摘されている。このうち大学は、平成4(1992)年の「看護師等の人材確保の促進に関する法律」の制定を機に増加し、入学定員でみると、平成21(2009)年では、看護師養成3年課程の34.7%を占めるようになった【図1濠ナ護師養成3年課程の1学年定員数の推移】。
近年の医療の高度化・複雑化に伴う医療の質の確保、看護職に求められる役割の拡大等から、新卒看護師に求められる資質も高くなってきた。医療関係職種においては医師の臨床研修(1968年に医師法に努力義務として規定され、2004年に、診療に従事しようとする医師は2年以上臨床研修を受けなければならないと必修化された)の制度化や薬剤師の教育年限延長(2006年に6年制教育へ変更)等、状況に対応すべく、教育制度の改革がなされてきた。看護の基礎教育制度は前述したとおり3年を基本枠組みとしたままで大きな変革はされてこなかった。
その結果、年限は変わらず教育内容が増加するという事態となっていた。日本看護協会の看護教育基礎調査結果によると、教育に取り組む教員も、教育年限の不足を実感していた【図2濠ナ護師基礎教育の年限延長に関する教員の回答】。教育年限の延長が必要だと考える理由として、現行の教育ではカリキュラムが過密で、十分な看護の知識や技術の養成が困難と多くが回答している【図3濠ナ護師基礎教育の年限延長が必要だと考える理由】。また、患者の人権尊重や医療安全の流れを受け、基礎教育での臨地実習で行える内容の制限もあり、結果として新卒看護職員の臨床能力の低下を招き、さらに就業後一年以内の早期離職の要因であると考えられた。
二、文部科学省「大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会」の動向
(第一次報告の概要)
平成21(2009)年3月31日に第1回の検討会が開催され、@学士課程における看護学基礎カリキュラムによる看護学教育の在り方、A新たな看護学教育の在り方とその質の保証の在り方、B大学院における高度専門職業人養成の在り方、の三点を主な検討事項として看護学教育の改善・充実を目指した議論が進められている。2009年8月に第一次報告がまとめられ公表された。
第一次報告は検討事項の@学士課程における看護学教育の在り方について示すものである。20年後、30年後でも、あらゆる場・あらゆるニーズに対応できる応用力のある人材を養成する観点からカリキュラムを見直すという基本方針が提示され、見直しの方向性として教養教育の充実、保健師・助産師・看護師に共通する専門職業人の基礎を教授することなどが提示された。
報告では、現在の社会ニーズの変化等を背景にし、大学における看護学教育の課題としてカリキュラムの過密化や実習内容の制限等が明記された。そして、これらの状況を受けて、これまで大学では必須とされてきた保健師教育について、選択制を導入することが結論づけられた。現在、AとBの検討事項について引き続き議論がされている。
三、大学における看護系人材養成への期待
今、医療と看護をめぐる状況は大きく様変わりしている。今後更なる人口の高齢化により、疾病を長期に有しながら生活する人々が増加する。そのため、医療においても病気を治すことに主眼を置く「治す医療」から病を抱えながら生活する患者と家族を対象とし、生活を主眼に置き支援していく「治し支える医療」へ進んでいる。さらに、生活・療養の場が多様化し、また、医療の高度化・複雑化と医療への効率性・効果性を求め労働集約的な医療提供体制への転換を進める必要性から、チーム医療・役割分担の推進にキーパーソンとなる看護師へ求める役割・能力は非常に大きくなってきた。充分な知識と技術を教育し、応用力のある看護師を育てるにはどうするか、社会が求める看護師を養成するためには、教員の体制や教育資源などの基盤整備がなされ、教育期間も長い、4年制大学での看護師教育を推進することである。
これまで、日本の看護師養成は3年制の養成所教育が長く支え、教育の充実が図られてきた。しかし、最近では大学進学率上昇などの変化も受け、養成所の受験者が減少し、定員割れが起こっている状況にある【図4麹s刳w校卒業者の進学状況】【図53年課程の入学定員充足率】。
一方で、看護系大学への志願者数は年々増加する傾向にあり、看護系大学の定員総数が増えているにもかかわらず、定員に対する志願者の倍率は高い【図63年課程の志願者数の変化】【図7国蜉w数と志願倍率】。また、都道府県別に3年課程定員総数に占める看護系大学定員の割合に示すように、地域別の大学設置状況に格差がみられる【図8酷s道府県別3年課程に占める看護系大学定員割合】。全国的にみた看護師偏在や将来の看護師不足を招かないよう、人材確保の点からも、社会が求める看護系人材養成への期待に応えるためにも、私立大学において看護学部の新設が進むことを大いに期待している。
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〔日本看護協会とは〕
1946年に設立された日本看護協会は、保健師・助産師・看護師・准看護師の資格を持つ個人が自主的に加入し運営する日本最大の看護職能団体。47都道府県看護協会と連携して活動する全国組織で、現在62万人の看護職が加入している。
現在、日本は人口減少、少子高齢社会を迎えた。また、国や地方公共団体の厳しい財政状況などを踏まえ、年金・医療・福祉(介護)など社会保障制度の一体的見直しが重要な課題になっている。
特に、医療が高度化・専門化・複雑化する一方で、医療安全の重要性、医療情報の透明性など国民の医療に対する関心は高まっている。また、平均在院日数の短縮や療養病床の再編成など、保健医療政策は大きな転換点にある。
同協会は、このような看護・医療をとりまく状況の変化や、これからの看護のあるべき姿を見据えて、看護師の基礎教育年限を4年以上に引上げること、看護職員の人員配置を引上げること、看護職員確保対策を充実させること、生活習慣病予防対策や訪問看護を推進することなど、看護政策の実現に向けて活動を進めている。
看護職(保健師・助産師・看護師・准看護師)の活躍の場はさまざまである。専門看護師や認定看護師の誕生、訪問看護ステーションの開業そして多機能化…、社会の変化とニーズにあわせ、新たな看護の役割を切り開いている。