平成22年7月 第2408号(7月14日)
■高めよ 深めよ 大学広報力 〈76〉
こうやって変革した 73
15年で医療と福祉の総合大学実現
全国に4つの附属病院医学部新設をめざす
国際医療福祉大学
わずか15年間で「医療福祉の総合大学」を実現させた、そのスピードに驚く。栃木、神奈川、福岡の3県に4キャンパスを設け、現在、6学部15学科に約5500人の学生が学ぶ。栃木県、東京都、静岡県に4つの附属病院を擁する。国際医療福祉大学(北島政樹学長、栃木県大田原市)の凄さは、それだけではない。看護師、理学療法士、視能訓練士などの医療職でも、社会福祉士や精神保健福祉士などの福祉職でも、国家試験の合格率が高い。卒業後の就職も順調で、求人は卒業生一人に79人という高さ。卒業生は全国の医療機関、社会福祉施設などで活躍している。改革の手をゆるめず、21世紀の医療福祉現場で主流となるとみられる「チーム医療」に力を入れる。国際医療福祉大学を訪ね、15年間の発展・改革の経緯、そして現状と今後などを常務理事らに聞いた。
(文中敬称略)
高い国家試験合格率 学生1人に79人の求人
国際医療福祉大学の、この15年間の発展、改革の歩みは、時系列で示すと、わかりやすい。
1995年 国際医療福祉大学開学、保健学部(現保健医療学部)を開設。
1997年 医療福祉学部を開設。
2002年 国立熱海病院を承継、国際医療福祉大学附属熱海病院を開設。
2005年 東京専売病院を承継、国際医療福祉大学附属三田病院を開設。
2005年 薬学部開設、福岡県大川市にリハビリテーション学部を開設。
2006年 神奈川県小田原市のJR小田原駅前に小田原保健医療学部を開設。
2009年 福岡市に福岡看護学部を開設。栃木県矢板市のJA栃木厚生連塩谷総合病院を承継し、国際医療福祉大学塩谷病院を開設。
なぜ、これほどの発展、改革が可能だったのか。理事長である高木邦格の稀有な医療そして教育にかける情熱によるところが大きいようだ。
常務理事の佐々木 博(教授)が大学を語る。「病気や障がいを持つ人も健常な人も、お互いを認めあって暮らせる『共に生きる社会』の実現を目指し、技術や知識だけでなく慈恵の心を育む教育を行っています」
大田原キャンパスにはリハビリテーションセンターや特別養護老人ホームなどがある。「高齢者や障がいを持つ方たちとのコミュニケーションをもてる環境で、学生は医療福祉の学びを通して、人と人とが互いに支え合い、共生していく『社会』そのものを学んでいます」
「チーム医療」を佐々木が語る。「チーム医療とは、医師、薬剤師、看護師、理学療法士ら異なる分野の専門職が協力して、病気に苦しむ人々や日常生活でハンディキャップを抱える人々に最善のケアを提供することです」と述べ、続けた。
「質の高いチーム医療を確立するためには、将来メディカルスタッフの一翼を担う学生に対して、教育スタッフや教育環境を充実させることが不可欠。各界の第一人者を教育スタッフに招き、1年次から4年次まで体系化されたカリキュラムで、専門性を獲得するだけでなく、他の専門職とのコミュニケーション能力を身に付けています」
チーム医療の教育・研究体制は、大学附属病院や多くの関連医療・福祉施設、全国に約600ある実習協力施設が支える。全学科が横断的に連携して一つのチームをつくり、「チーム医療」を学ぶ関連職種連携教育(IPE)を実施している。
大学名に「国際」という名がつくのは、海外の医療福祉事情を学び、将来は海外での仕事を視野に入れているため。中国やベトナムに「海外保健福祉研修」で学生を派遣。例年、100人前後の学生が参加する。JICAの中国リハビリテーション専門職養成プロジェクトなどの国際貢献にも積極的に取り組む。
4つのキャンパスに通う学生は、それぞれのキャンパス周辺の都道府県出身者が多い。男性四割、女性六割で女性がやや多い。「就職に強い大学」が徐々に浸透、受験者数は順調に推移している。
困ったのは、薬学部が6年制になった時だ。経済的な負担が増し、薬剤師を目指す学生の進学が危惧された。「本学でも薬学部の志望者が減少しましたが、学費の見直しと特待生入試を導入するなどの改革を行い22年度入試では大幅な志願者増を達成することができました」(佐々木)
同大学の特長のひとつが、ボランティア活動が盛んなこと。大田原キャンパスには約4000人の学生がいるが、このうち800人がボランティアサークルに所属する。
事務部長の榎森 洋が話す。「医療や福祉に対する関心が高い学生がボランティア活動から学ぶものは大きい。学内に高齢者や障がいを持つ方の施設が5つもあり、大学側もボランティアセンターを設置して、学生の活動を支援しています」
国家試験の合格率が高いのはなぜか。榎森が語る。「うちの学生は、入学の動機がはっきりしています。国家試験には十分な対策を立てて指導していますが、学生は、よく勉強します。毎年、全国平均を上回る合格率を達成しています」
病院など医療機関は、実習で医療福祉の腕を磨き、国家試験合格率が高い大学から採用する傾向がある。「09年度の求人数は全学科で8万3926人、学生一人あたりの求人数は79.0人。毎年、就職率ほぼ100%を達成しています」
広報について、佐々木に尋ねた。「開学して十数年で知名度は、ようやく認知されつつあるのではと感じています。教育の中身や大学力などを全国区レベルまで認めてもらうためにも広報は大事。様々な媒体を通じ、受験生や保護者、高校の先生方などに訴求したい」
「医療福祉の総合大学」の大学にないものがある。そう、医学部がないことだ。今年2月の朝日新聞(2.21)に、「医学部新設申請へ、三私大準備」と報じられ、大学院長の開原成允の「早ければ早いほどいい。可能なら2011年度を目指し、地域医療の担い手となる臨床医を養成したい」の談話が掲載された。
佐々木は「医師不足もあり医療と福祉の教育の面からも環境が許すなら(医学部新設を)認めて欲しい」。穏やかだが、強い決意が滲んでいた。
国際医療福祉大は、どんな大学をめざすのか。 理事長の高木は、経済誌に、こう答えている。「米MGH(マサチューセッツ・ゼネラル・ホスピタルグループ)のような、大学の教育・研究を中核として、質の高い医療機関がぶら下がりながら連携することで、あらゆる医療福祉のニーズに最高レベルで応えられるグループを目指している」
取材してみて、これまでにない大学が誕生した、という思いを強くした。国際医療福祉大の今後の歩みは大いに注目だ。