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平成22年7月 第2408号(7月14日)

新時代の大学図書館A
 学生一人当たり年間図書貸出50冊を目指して
   


九州女子大学・九州女子短期大学附属図書館長  高橋 昇 

 九州女子大学では、一人当たり年間貸出冊数は10.8冊である。標題の目標である50冊を実現するために、本学の図書館では近年、様々な取り組みを実践してきた。
 九州女子大学・九州女子短期大学は、福岡県北九州市にある学生数1500名ほどの小規模な大学で、大学院は設置していない。1983年に竣工した地上5階の独立した図書館は、閲覧スペース1500平米、座席数384席の独立棟である。今から30年ほど前には、今のような電子図書館の兆しもなく、伝統的な活字資料を閲覧するための図書館として建築された。
 私が本学に着任したのは2003年、図書館長に就任したのが2004年である。就任当初は竣工から4半世紀が過ぎ、館内の各所が時代を感じさせる雰囲気が漂い始めていた。また近年の大学図書館の情報化の進展にも十分対応しているとは言いがたく、さらに収蔵冊数が書架の収容量に近づきつつあった。このような状況の中で、図書館長として図書館職員と協力して、学生を中心とする利用者に対して少しずつ利用環境を整えてきた。
 館内設備
 本学では、この6年間の予算額は幸いなことにほぼ変動が無かった。新規の事業計画に取り組むことも出来なかったが、年度末のささやかな残額を予算流用して、少しずつ設備を更新して図書館の利便性や美観も整えることが出来た。入口のすぐ右手にある、館内表示や掲示板を整備する外、1階の事務スペースを縮小させることで、エントランスを広く取り、“明るい雰囲気の図書館”という印象を与えることに成功した。
 本学の図書館の事務スペースは、館長席も図書館員の席もすべて、学生から見える場所にある。この図書館員と学生の物理的な距離の近さが、両者の心理的な距離感の近さを生んでいる。入館ゲートから入る一人ひとりの学生に対して職員が声を掛けて挨拶をすることも、学生と図書館員との間の日常的な親近感を高める効果をあげている。
 館内に設置されていたキャレル(個人用閲覧席)の一部が、夜間や雨の日に照度不足に陥っていたが、全席に照明器具を設置することで問題を解消した。複写機に関しても予算の関係で台数を削減することも検討されていたが、複写機のリース契約を見直すことにより、五階を除く各階への設置を継続することができた。
 書架の更新
 さらに、5年ごとのシステム更新を2度実施した際にOPAC(オンライン蔵書検索)はもとより情報検索が可能な端末を6台から10台、さらに20台へと3倍強の増設を実現した。1階に12台、2階から5階にそれぞれ2台ずつ配置し、利用者の利便性を飛躍的に向上させることができた。それに加えて、雑然としていたコの字型の1階スペースに木製書架を壁面全体に配置することで、落ち着いた図書館空間を実現することができた。その書架には、書誌類や百科事典を中心とする参考図書をまとめて配架した。情報端末を併用することで、図書館の1階を学習や調査を開始するためのスペースとしての位置づけを明確にすることができた。
 より利用しやすくするために館内の図書の配架場所も変更した。本学の図書館には、利用者用の閲覧室の傍にある開架書架の外に、集密書庫が利用者用には2層用意してある。その書架に図書が配架されており、学生達が図書の配架されている場所を理解しにくい状況にあった。所在場所の理解を得るために、集密書架には雑誌・紀要・新聞のみ配架し、図書はすべて閲覧席室の開架書架に移すことにしたのである。書架表示も判りにくかったので、すべての書架に書架表示板の設置を行ったが、予算を掛けないために、表示板の中の表示は職員による手作りとした。
 設備更新の意義
 慶應義塾大学の酒井由紀子氏による2009年の私立大学図書館協会総会・研究大会で研究助成を得て実施したLibQUAL(図書館サービスの品質評価のためのウェブアンケートサービス)についての報告があった(『私立大学図書館協会会報』133p.74―91参照)。図書館サービスの品質評価の調査報告で、教員が期待するのは図書館資料、大学院生が期待するのは図書館資料と図書館という場所であるという結果だった。それでは、学部生が期待するのは何かということだが、それは「一人で学習・研究をするための静かな空間がある」であった。これは他大学での調査ではあるが、本学が近年取り組んできたことの意義が裏付けられたことになる。
 貸出冊数を10冊に
 図書の貸出についても改善を行った。本学では、保育士、幼稚園・小学校・中学校・高等学校の教員を目指す学生が多くおり、その資格取得には実習が欠かせない。大学を離れて郷里で実習を行う学生も多い。その学生たちは、図書館から資料を借り出していくのであるが、当初の貸出冊数は五冊であった。実習期間中に必要・充分な冊数を提供するため、貸出冊数を倍の10冊に変更した。
 学生の意欲
 昨年度、多くの大学でも行われている選書ツアーを実施した。本学の学生を大型書店に引率し、希望する図書を選書させてみた。学生たちが選んだ書籍の大半は、自分たちが学んでいる科目に直結した内容のものであった。学ぶことから外れたような書物を選ぶような学生がほとんどおらず、学生たちの学ぶ意欲が予想していた以上に高いことが判った。そのような結果を受け、2010年度から復活させることになった見計らい選書に、学生の有志を加えることに異を唱える図書館運営委員は皆無であった。
 最後に
 このように着実に学生の来館意欲を高める設備の充実と、図書館員という人的な要素を含めた快適な雰囲気の醸成、さらに教員との連携により授業科目に対する勉学意欲を高める取り組みにより、標記の目標がそう遠くない時期に実現すると信じるものである。

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