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平成22年7月 第2407号(7月7日)

新時代の大学図書館@
 私立大学図書館協会の歴史とその役割
   


私立大学図書館協会会長・関西大学図書館長  北川勝彦 

 各大学が学士課程教育のあり方を模索する中で、大学図書館を利用した教育改革を進めている大学がある。私立大学の約九割が加盟する私立大学図書館協会より、学生に読書・学習をさせる学習支援の担い手として、その機能と役割について、寄稿いただいた。5回連載。

 平成22(2010)年5月14日に青山学院大学で開催された私立大学図書館協会国際図書館協力シンポジウムにおいて、ブリティッシュ・コロンビア大学の図書館長パラン博士は、「デジタル学術コンテンツと図書館の未来」と題する基調講演を行った。同博士は、ペーパー・ベースの世界からデジタル化された世界への移行期にある今日、ネットワーク時代における国際連携を真剣に考えるべきであるとの認識を示した。
 6月11日に明星大学で開催された本協会東地区部会総会、6月18日に九州共立大学において開催された本協会西地区部会総会では、「私立大学を取り巻く環境の変化に対応して大学図書館をどのように活かすか」について館長間の意見交換が行われた。9月には、西南学院大学での総会・研究大会で「場としての大学図書館―図書館とラーニング・コモンズ―」がメインテーマとなる。
 以上のように、私立大学図書館は、大学をめぐる近年の著しい環境の変化―少子化、学際化、国際化、情報化、地域連携―のなかで研究、教育、学習等に関する多様な要望にどのように応えていくかという課題に直面している。
 私立大学図書館協会は、私立大学図書館の多面的な改善発展を図るために、調査・研究及びその成果の刊行、研究会・講演会の開催、機関誌の発行、対外関係活動等の諸事業を行ってきた。現在、加盟館は520館(東地区259、西地区261)で、私立大学の約90%が加盟している。本協会は、東・西地区部会からなり、役員校には、会長校、東・西地区部会長校、理事校、監事校があり、総会、常任幹事会、東西合同役員会で各種の問題が審議される。
 このような体制は、発足後70年にわたる歴史の中で徐々に形成されてきたものである。私立大学図書館協会の歴史は、それぞれの時代の問題に取組んできた私立大学図書館の歴史でもある。昭和31(1956)年に発刊された『私立大学図書館協会史―東京私立大学図書館協議会より第15回総会まで―』によれば、第15回総会に至るまでの歴史を知ることができる。私立大学図書館協会の前身にあたる東京私立大学図書館協議会は、私立大学図書館独自の課題を協議する機関を設けようとの考えに立って、昭和恐慌期にあたる昭和5(1930)年6月に結成された。その後、昭和12(1937)年5月14日の第7回協議会(早稲田大学)で、全国組織の結成が発議され、同年7月5日の臨時総会(明治大学)において全国私立大学図書館協議会が結成された。明けて昭和13(1938)年5月6・7日には、慶應義塾大学で第1回総会が開催された。戦時体制下で昭和18(1943)年5月に開催された第6回総会(中央大学)では、私立大学図書館協議会を協議機関から決議機関へと改組し、名称を私立大学図書館協会に変更し、今日に至る。
 ところが、戦局が厳しくなり、各私立大学での図書館職員の減少、図書館事務の弱体化、交通の制限、物資の不足等のために総会を開催しないまま終戦を迎える。戦後の日本は、昭和25(1950)年に至るまで連合国軍司令部の占領・統治下にあった。戦後の混乱期にもかかわらず、協会関係者の奔走の結果、昭和21(1946)年7月12・13日に第7回総会が高野山大学で開催され、図書館運営の再建が課題として取り上げられた。また、学制改革にともなって誕生した新しい私立大学に加盟を勧誘することになり、昭和25(1950)年2月10・11日に明治大学で開催された第10回総会までには加盟大学は44校となった。その後、第12回総会では、中部地区の加盟校は関西部会に移管され、図書館員による研究発表会が開催されることになる。昭和28(1953)年の第14回総会では、全面的な規約改正が提案され、「会則」が定められた。これによって協会の組織構成と目的が明確になり、目的達成のために必要な役員、事業、会費等が規定された。さらに協会の運営は館長または代表者のみならず、すべての私立大学図書館員の参加と協力が得られる組織運営に整備された。
 以上の経過を経て、昭和29(1954)年5月には関西大学で第15回を記念する総会・大会が行われたのである。
戦前期の経済水準を回復し、政治の枠組みも安定して、高度経済成長期の入口にあたる昭和30(1955)年の第16回総・大会では私立大学図書館の実態調査の実施が決められ、翌年の第17回総・大会には「私立大学図書館改善要項」が協会関係者の努力で完成した。これは以後の私立大学図書館の指針となった。第21回総・大会(昭和35年)では、加盟校数の増加にともなって地区部会の活動を重視することが発議され、その運営に係る本協会会則を改正した。
 ところで、高度経済成長を謳歌した日本経済は、昭和46(1971)年以降、2つの石油危機を経験し、景気後退とインフレーションが同時に進行する時代に突入した。昭和58(1983)年頃からようやく立ち直りをみせた日本経済は、昭和60(1985)年のプラザ合意以降の円高を克服し、平成元(1989)年までのバブル期を経て、以後10年ものいわゆる「平成不況」を経験する。この間の私立大学図書館における管理運営面でのイノベーションをみれば、1970年代には先進的な一部の私立大学図書館でコンピュータの導入が始まる。1980年代には図書館の機械化が本格化しはじめ、1990年代には機械化された図書館はごくありふれたものとなり、電子図書館の実現に向けた取組が進められる時代に突入した。
 2000年以降、電子ジャーナルやデータベースに代表されるインターネットを介した電子図書館機能を充実させるべき時代に入った。1990年以降2009年に至る私立大学図書館協会の総会・研究大会のメインテーマを概観すると、この間の時代の変化を如実に反映している。他方、図書館の電子化が進行するにつれて、来館者数の減少傾向があらわれ、大学における図書館の位置と役割を教育改革の中で再考すべき時期に来ていることが広く意識されるようになった。
 冒頭で述べたように、このような変化の著しい移行期にあたって私立大学図書館協会の役割は重要である。本協会の加盟校は、その収容学生数から見れば中規模ないし小規模の大学が多く、近年、図書館の専任職員数も減少傾向にあり、変化の波の影響を被りやすい。したがって、本協会の提供する調査研究の機会、研究会と研修会を通じて行われる図書館員のスキルアップ、機関誌およびウェブサイトによる情報の交換と共有、海外研修による国際的視野をもった図書館員の育成など、その使命と役割はますます大きいといえるであろう。



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