平成22年6月 第2405号(6月16日)
■高めよ 深めよ 大学広報力 〈72〉 こうやって変革した69
就職力で存在感強める
キャリア支援センター2課制 一年生から就職指導
九州産業大学
「就職力」が大学の重要なテーマになっている。この大学は、その力が抜きん出ている。キャリア支援センターは二課体制で、マナー実習ができる鏡張りのマナートレーニングルームと併設されたメイクコーナー、最新のAV機器で模擬面接を検証する面接室…などを常設。九州産業大学(佐護 譽学長、福岡市東区)。大学案内でも「4年生が3年生に活きたアドバイスを行うジュニアアドバイザー制度など1年次から行う就職指導で職業観を育みます」と謳う。今年、開学50周年を迎えた。記念事業では、給付奨学金制度の新設(給付人数を40人から290人に拡充)、学生寮の立花寮の建替えや女子寮の建設。記念の特別講演会や学術シンポジウムなども目白押し。学長らに、半世紀の大学と、これから、もちろん「就職力」も聞いた。(文中敬称略)
開学50周年 全学共通基礎教育行う
九州産業大学は、JR鹿児島本線の博多駅から約15分の九産大前駅で降りると、目の前に大学がある。ひとつ手前の香椎駅は、松本清張の小説『点と線』に登場することで知られる。
1960年に九州商科大学(商学部)として開学。63年に九州産業大学に改称、工学部を設置。64年に商学部第二部、66年に芸術学部、68年に経営学部、93年に経済学部、94年に国際文化学部、02年に情報科学部を設置…次々に新学部を開設した。
現在、8学部20学科、大学院5研究科(博士前期課程12専攻・博士後期課程6専攻)を擁する西日本有数の総合大学になった。学部生1万1500人(うち、留学生360人)が学ぶ。
学長の佐護が大学を語る。「建学の理想『産学一如』(理論と実践の統合)を踏まえて、産業界の期待に応えられる実践力、熱意、豊かな人間性を持った人材を輩出してきました。教育で重視しているのは、知性・感性・創造力の開発です」
佐護は九州産業大の4期生、45年前の香椎地区は、海に面した緑豊かな丘陵地帯だったという。福岡の副都心といわれる所に大学があるせいか、卒業生も今風で多種多彩。総合企画部広報係長の坂井英治が話す。
「モデルで女優のエビちゃんこと蛯原友里がそうです。俳優、脚本家、演出家の松尾スズキもOBです。歌手の長渕 剛、コメディアンの松村邦洋、江頭2:50らも本学の出身です」
広報体制を尋ねた。大学広報は3人で、HP管理、広報誌「+K」や学園誌の発行、広告出稿、報道対応と忙しそう。プレスリリースは年間30〜40出している。「HPに毎週、学生を登場させるコーナーをつくりました。学生はもちろん学内外で関心が高いのは嬉しいですね」(坂井)
開学50周年を迎え、佐護の胸中には、さまざまな思いが去来する。「商学部のみの単科大学から、よくぞ、ここまできたなという思いです」と、半世紀のエポックを語った。教育面では、「50周年を前に、教育システムの整備がほぼ終わった」と3つの改革を説明した。
08年度から導入した全学共通基礎教育。「入学直後の学生が高校教育から大学教育へスムーズに移行できるようにするのと、高度な専門教育の土台づくりを支援する。コミュニケーション能力とモチベーションの向上につながった」
企業に直結した活発な学部間連携プロジェクトを行う。専攻科目で履修した技能や知識を結集してひとつのプロジェクトに取り組む。「フォーミュラカーやロボットの開発から、博多織やシューズデザインまで企業とも連携して進めている」
ビジネスに特化した実践的な英語教育に力を注ぐ。「全学共通英語教育による4年間一貫した取り組みで、初級者には基礎力を、上級者には応用力を、を指針に、学部の枠を超えて横断的にクラスを編成。文科省の特色GPに採択された」
文化とスポーツ面。「2000年に、有田焼の人間国宝、14代酒井田柿右衛門の大学院教授就任を機に本格的な登り窯をつくりました。02年には、九州産業大学美術館を設置しました。
学生スポーツも健闘しています。硬式野球部は、05年の明治神宮野球大会で初の全国制覇。九州の大学としては99年の九州共立大以来2校目。今春は、九州共立大に惜敗して全国大会出場はダメでしたが、秋は九州一になってほしい」
さて、「就職力」だが、2階建ての瀟洒なキャリア支援センターの入口には1万円の札束が山積されている。2つの札束の山がある。大きいほうが2億9000万円、もうひとつは、半分ぐらいで9120万円。キャリア支援センター事務部長の久保裕道に聞いた。
「正社員とフリーターの生涯賃金です。このように、卒業後の現実をわかりやすく形にすれば、学生も真剣に就職に取り組むのではないか、とつくりました」。むろん本物の1万円札ではない。 キャリア支援センターは、1・2年次生のキャリア教育支援を行うキャリア教育課と、3・4年次生の進路・就職支援を行う進路支援課がある。「入学から卒業まで各学年に合わせた様々な支援を行うためです」
久保が続ける。「支援内容は@低学年次生対象のキャリア教育支援A3・4年次生対象の進路・就職活動支援B各種資格取得講座等の受付及び実施Cインターンシップ支援D卒業生対象の再就職支援の5つです」
ジュニアアドバイザー制度は、九州では九産大が最初に設けた。就職が内定した4年生が、キャリア支援センターと連携しながら後輩に就職活動の支援を行う。これを経験した学生は社会人になったと同時にキャリアアドバイザーとして引き続き就活を支援する。
昨年度の就職状況を久保に聞いた。「厳しかった」と口調と同じ厳しい顔で答えた。「本学への求人企業数は前年比30%強減少、就職決定率は前年比9.4ポイント減少し86.6%になりました」。本年度は、どのように?
「就職ガイダンスを3年生の6月から始めるなど日程を前倒しにしました。さらに、少人数によるフォローガイダンスを設けるなど、いま何をしておけばよいのか、学生に徹底させています」
佐護が最後に、開学50年の感想とこれからを語った。「半世紀にわたって蓄積してきた知的・物的資産を活かして、未来に向かって大きく飛躍すべき年」と振り返る。
これからを「大陸アジアと地理的に近く、そこと歴史的にも深い関わりを持ってきた『九州・福岡』の地の利を活かし、アジア・太平洋地域に目を向けた教育を志向していきたい」
九州産業大学は、地の利を活かし、アジア・太平洋地域にしっかりと目を向けて進む。