平成22年4月 第2398号(4月21日)
■健全な証券投資を行うために
―証券市場に関する学生への注意喚起 @―
近年、金融危機の中で市場の混乱に乗じた不公正取引が(若年層も含めて)増加傾向にある。そこで証券取引等監視委員会から、学生の証券取引への注意喚起及び学生を指導する教育関係者へのメッセージを寄せていただいた。(3回連載)
●はじめに―証券取引等監視委員会の活動―
証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」と略)は、平成4年に発足し現在17年が経過している。証券監視委の主な活動は、市場にかかる情報収集と分析審査、証券会社等に対する検査、不公正な取引やディスクロージャー違反を摘発する課徴金調査、開示検査及び犯則事件の調査である。これらの監視活動の結果、取引の公正を害するような法令違反が認められれば、証券監視委は行政処分等を勧告したり、告発をして刑事訴追を求めるなどして厳正に対処している。
昨今においては、金融・資本市場のグローバル化の進展により、日本を含めた世界の金融・資本市場の連動性はますます高まってきており、その中で発生したサブプライム・ローン問題は瞬く間に世界を巻き込む金融危機へと発展する結果となったことはご承知のとおりである。証券監視委としては、このような世界的な金融不安の経緯の中で、市場の混乱に乗じた不公正取引への監視や国際的な連携の強化などに取り組んでいるところである。
一方、市場の健全な運営のためには、証券取引所などの自主規制機関や関係当局等との問題意識の共有や緊密な情報交換が不可欠であることから、その連携強化を図っており、また、市場参加者との対話、市場関係者に対する情報発信も強化しているところである。
今回、このような形で掲載させていただくのも教育関係者の方々への情報発信の一環である。世界的な金融危機を背景とした日本の証券市場におけるインサイダー取引や相場操縦などの不公正な取引が増加傾向にある中で、それらは犯罪事件として頻繁に報道されているところであるが、若年者による行為も見受けられている。
そこで、証券監視委としては、日頃、「市場の公正性・透明性の確保」と「投資者の保護」を目指して市場監視に取り組み、不公正な取引を摘発する立場から、実際に証券投資を行う機会のある学生に対して、市場における犯罪・法令違反行為を意識し、本来の健全な証券投資とは何かとの認識を深めていただくよう、教育関係者を通じて情報の発信を行うこととしたい。
なお、文中、意見にわたる部分は筆者の個人的見解である。
●インサイダー取引規制とは
証券監視委が調査・検査し摘発する証券市場での不公正取引は、インサイダー取引、株価操縦、風説の流布、有価証券報告書の虚偽記載(粉飾)等多岐にわたる。これらの不公正取引は「金融商品取引法」で違法な行為とされ、課徴金の納付、刑事告発などに繋がる。
広く一般的に知られている不公正取引といえばインサイダー取引であろう。そこで、本稿ではインサイダー取引を中心に解説していきたい。
インサイダー取引とは、「投資判断に重要な影響を及ぼす上場会社の『重要事実』を知って、その『公表前』に『株券等の売買等を行う』こと」である。
証券市場では、上場会社の情報が的確に公表され、一般の投資者が平等にその情報に接する機会が与えられていることが必要である。しかし、上場会社の役職員は、例えば決算見込み修正等の投資判断に影響を及ぼす情報について、自ら関与する特別な立場にあるため、この立場を利用して、「重要事実」の公表前に株取引などをすると一般の投資者との間には、情報の取得又は利用に著しい差が生じる。
このことから、市場においてインサイダー取引が規制されていないと、一般の投資者にとって著しく不利となるばかりでなく、市場の公正性・健全性が損なわれ、投資者保護に重大な支障を来すこととなる。つまり、インサイダー取引が放置されると、やがては投資者の離反を招き、証券市場に対する投資者からの信頼を失ってしまうこととなり、そのような事態になると、投資者の多様な資金運用と上場会社の円滑な資金調達という証券市場の基本的な役割が果たせなくなり、我が国の国民経済の健全な発展に支障を来すことにもなりかねない。
すなわち、投資者保護の実現、市場への信頼の確保を図るため、インサイダー取引は厳しく規制されているのである。
●インサイダー取引にかかる注意点
インサイダー取引に該当するのは、上場会社の『会社関係者』が、その職務等に関して未公表の「重要事実」を知った場合である。上場会社の役員や職員が『会社関係者』に該当することは明らかであるが、当該会社のアルバイト従業員でも『会社関係者』とみなされるため、アルバイトをすることが多い学生にとっても注意が必要である。また、当該上場会社と契約を締結している者が、その契約の締結、交渉、履行に関して「重要事実」を知った場合も『契約締結者』として該当する。
さらに、『会社関係者』や『契約締結者』以外にも、これらの者から未公表の「重要事実」の伝達を受けた者は『情報受領者』として、インサイダー取引規制の対象となる。例えば『会社関係者』である友人(もちろんアルバイトも含む)から聞いた「重要事実」の情報を元に株の売買をすれば規制の対象となる。また、何かのパーティでたまたま同席した人から、その会社に関する未公表の「重要事実」を聞いたときは『情報受領者』とみなされる可能性がある。
したがって、「インサイダー取引に該当しない」と思われるような場合であっても、安易な気持ちで取引を行わないよう注意する必要があることを強調しておきたい。
(つづく)