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平成22年4月 第2396号(4月7日)

高めよ 深めよ 大学広報力 〈66〉 こうやって変革した63
 好イメージ維持に努力
 少人数教育 学生は財産 学生もOGも広報担当 
 清泉女子大学

 女子大冬の時代が言われて久しい。少子化の波は受験者の減少など大学を直撃しているが、この10年間、入試志願者の数が安定に推移している大学がある。この間、新学部や学科の開設、入試制度の改善といった大きな改革は行っていない。それでいて学生の就職率も高いという。清泉女子大学(門野 泉学長、東京都品川区東五反田)。文学部のみの一学部で、一学年約450人という小規模な大学。受験志願者が安定して、就職もよい、というのは大学にとって理想形。いったい、どのような大学運営を、そして教育を行っているのか、そして大学広報は? 学長に、そのあたりを中心に聞いた。(文中敬称略)

受験者数安定、高い就職率

 キャンパスは、「島津山」と呼ばれる小高い丘の上にある。JR五反田駅から徒歩7分という立地ながら、緑豊かな落ち着いた環境。本館の建物は、大正時代に建てられた島津公爵邸でイタリアルネサンス風の西洋館。
 手入れの行き届いた庭園には、幹周り約3メートル、高さ20メートル、ふうの木がある。樹齢約200年で、品川区の指定天然記念物。十数本の桜の木があり、3月末には庭園を開放してお花見を行った。
 来日した聖心侍女修道会の4人の修道女が、1935年、東京・麻布に設立した清泉寮学院が前身。50年、神奈川県横須賀市に4年制女子大学(文学部国文学科、英文学科)として清泉女子大学を設立。62年、横須賀から現在地に移転。
 61年、スペイン語スペイン文学科、63年、キリスト教文化学科(94年文化史学科に改組転換)を設置。01年、地球市民学科を新設、1学部5学科に。現在、1800人の学生が学ぶ。
 ここ10年のなかで、大きな改革は、01年の地球市民学科の新設。地球的視野・発想を養うため学際的学問が必要になるという観点から、地球社会、多文化理解、フィールドワークなどを学ぶ。
 学長の門野が大学を語る。「キリスト教精神に基づき、少人数制教育により、人と人との触れ合いを通して、自分で考え、判断し、決断することのできる女性を育成します。また、自国と外国の文化をともに理解し、グローバルな視野を持って人々の幸福に貢献できる女性をめざしています」
 入試志願者の数が安定、学生の就職率も高い、という点を学長室(広報担当チーフ)の安田 馨が説明する。
 「志願者数(2月の一般入試)は、02年が1200人強で、06年に900人と減少しましたが、あとは1000人台を推移してます。08年1223人、09年1037人、10年1163人となっています。
 就職は、1年次から各学科の専門教育と平行して、共通教養科目にしている『キャリアプランニング』が成果をあげ、就職希望者による就職率は95%以上です」
 そうなったのは、どのような大学運営や教育を行ってきたのか。門野は「少人数教育」と「学生は財産」をあげた。
 「きめ細かな少人数教育で、学生と教員の距離が近く、何でも話せるアットホームな雰囲気があります。人格的な触れ合いを通じ、自分で考え決断することができる女性が育っています。
 就職でも、少人数制の特徴を活かし、一人ひとりの就職活動を親身になってサポートしています」
 「学生は財産です。受験生の皆さんには、うちの学生を見て、大学を知ってほしいと言っています。キリスト教精神に基づき、他の人のためにする喜び、人に尽くす喜びを実践。キャンパスキャストという役割を学生は誇りを持って行っています。学生一人ひとりが広報担当なのです」
 キャンパスキャストは、大学と一体になり清泉を支える学生。図書館で図書の検索をサポート、就職活動を終えた4年生は、就職応援スタッフ、オープンキャンパスで受験生の案内をするキャンパスガイドなど八つある。
 旧島津公爵邸ガイドは、一般の人を対象に公開している同公爵邸を案内する。ガイドを務める学生は「質問に答えられるよう、資料を探して勉強しています。ツアーが終わってお帰りになるさい、笑顔で感謝の言葉をかけて頂いたとき、ガイドを務めてよかったと思います」と話している。
 門野が語る。「清泉は、少人数教育もあって卒業生の母校愛が人一倍強い。就職では後輩の面倒をよくみてくれています。学生だけでなく、卒業生も広報担当だと思っています。卒業生を見て清泉を思ってもらう、わかってもらう。そうやってきましたし、これからも、そうしていきたい」
 広報担当の安田が補足する。「独自に学生の満足度調査をしていますが、2年生のときは67.5%なのが、4年生になると84.9%に跳ね上がります。高校の先生が『他の大学では埋もれてしまう生徒が清泉では伸びている』と言っていましたが、一人ひとりの個性を見つけ、よりよく伸ばす教育が成果を上げているようです」
 就職では、前述の就職応援スタッフや卒業生が協力する。「4年生は、昼休みなどを使って、これから就職活動を始める3年生の相談を受けます。また、『OG懇談会』は、社会で活躍する卒業生と気軽に話をすることで、仕事のやりがいや雰囲気、業種の特徴などを知る機会になります」(門野)
 同大独自のインターンシップは、「社会研修」という2、3年生対象の科目としてカリキュラムに組み込まれ、単位化されている。インターンシップ先は、官公庁、企業、NPO、外国公的機関など、例年20から25の受け入れ先に40〜80人の学生が出かける。
 生涯学習にも積極的だ。品川区教育委員会と共催で開くのが「土曜自由大学」。各分野の専門家の講義を一般の人に聴いてもらう無料の公開講座。春は5月、秋は10月に3週連続で行っているという。
 延べ170余の講座を持つのが「清泉ラファエラ・アカデミア」。誰でも参加できる社会人のための生涯学習講座。文学、芸術などの教養系から、英語、スペイン語、イタリア語、韓国語などの語学まで学べる。「地味なことですが、清泉のイメージアップに貢献していると思います」(安田)
 安田は、これからの広報を語った。「学内7、学外3の比率で、学生を主役に、前面に出し、大学のイメージが滲み出るような広報を展開したい。広報活動が、学生の満足度に貢献できるようにやっていきたい」
 大学のこれからを、門野が語った。「自律した女性として社会に貢献できる人材を育てて、送り出したい。清泉のイメージは品格、落ち着き、上品と言われています、これを崩さず、よりよくするよう教職員、学生が一体となって取り組んでいきます」
 二人は、清泉のイメージを強く語った。この大学のイメージが、安定した入試志願者、高い学生の就職率につながっているのかもしれない。

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