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平成21年9月 第2374号(9月23日)

新刊紹介
  太宰の影響が…
  「鷺と雪」
  北村 薫 著

 大学には、様々なサークルがある。今年度の第141回芥川賞と直木賞の受賞者は早稲田大学の体育会系と文学系サークルのOB二人だった。これは椿事ではないか。
 芥川賞は、早大漕艇部出身の磯崎憲一郎が「終の住処」で、直木賞はワセダミステリクラブOBの北村薫が「鷺と雪」で、それぞれ受賞。ここでは、北村のほうを取り上げた。
 北村薫は、高校の国語教師をしながら、1989年、覆面作家として「空飛ぶ馬」でデビュー。「夜の蝉」で日本推理作家協会賞を受賞した際、自らの素性を明らかにした。
 「鷺と雪」(文藝春秋)には、令嬢と女性運転手が活躍する〈ベッキーさん〉シリーズ。日本にいるはずのない婚約者が写真に映っていた。今回は、この謎解きに挑む。物語は昭和11年2月、結末を迎える
 作品を読んで、太宰治の影響があるのではないか、と思った。「鷺と雪」もそうだが、女の一人称体の作品が多い。「空飛ぶ馬」から始まる一連の円紫さんシリーズの主人公の「私」は女子大生。太宰にも「斜陽」、「女生徒」など女の一人称体の小説がある。
 さらに、「鷺と雪」には華族や学習院出身といった高貴な方が出てくる。太宰の「斜陽」にも敗戦によって没落した貴族が登場するように共通点がある。
 演出家で作家の久世光彦は〈私はずいぶん長いこと「隠れ太宰」だった〉(「書林逍遥」、講談社)と書いていたが、男には久世のような屈折した想いが密かにあるものだ。
 男という生き物は、太宰の含羞と無頼には魅かれるが、女々しさを嫌悪するのだろうか。北村は、太宰の含羞と傷つきやすさ、を受け継いでいる。

 「鷺と雪」
 北村 薫著
 文藝春秋
 03―3265―1211
 定価1400円+税

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