平成21年9月 第2374号(9月23日)
■高めよ 深めよ 大学広報力〈45〉 こうやって変革した42
「工芸連携」を推進中
ユニークな風の研究 改革は広報とともに
東京工芸大学
日本の大学は、時代の流れに沿って着々と歩んできた大学と、時代を先取りして疾走してきた大学と、二種類あるように思える。東京工芸大学(東京都中野区、若尾真一郎学長)は後者のようだ。他大学に先駆け、次々と学部学科の設置などの改革を行ってきた。この進取の精神が成長の原動力になってきたようにみえる。小西本店(現コニカミノルタ)の七代目店主、杉浦六右衞門が設立した、日本初の写真学校である小西写真専門学校に淵源を発する。著名な写真家も多く輩出してきた。大学名は東京写真専門学校、東京写真大学と変わり、現在、工学部と芸術学部の二学部から成る特色ある大学となった。07年度から、マンガ学科及びアニメーション学科ゲームコースが開設された。ユニークな大学、東京工芸大の改革の歩みと広報体制を取材した。
(文中敬称略)
マンガ学科などを開設
東京工芸大学は、1923年に写真の技術と芸術表現という新しいメディアを修得する写真専門学校として発足。1966年、東京写真大学、77年、東京工芸大学と改称、現在、工学部5学科、芸術学部6学科4コース、学生総数約5000人の大学になった。
キャンパスは中野区と神奈川県厚木市にある。中野キャンパスでは、芸術学部の一部および大学院芸術学研究科の学生が、これ以外の芸術学部および工学部・大学院工学研究科の学生は厚木キャンパスで学ぶ。
広報担当理事の箱守 健が大学を語る。「表現を追求する芸術学部は、写真、映像、デザインからアニメーション、マンガまでメディアコンテンツに関するあらゆる学科があり、技術を追求する工学部はコンピュータ、画像、生命環境化学など時代の先端の学科を設けています」
芸術学部は、写真学科のみならず映像学科、デザイン学科、メディアアート表現学科、アニメーション学科、マンガ学科がある。アニメーション学科は、大学の学部・学科として日本で最初に設置された。
工学部は66年に設立され、当初は写真工学、印刷工学が学問的領域の中心となっていたが、その後、工業化学科、芸術と関係の深い建築学科などを開設。複合科学技術の追求が特長のひとつになっている。
東京工芸大学は、絶え間なく改革を行っている。94年開設の芸術学部の歴史をみればわかる。03年にはアニメーション学科を設置、さらにデザイン学科にビジュアルコミュニケーションコースとヒューマンプロダクトコースを設けた。
07年にはマンガ学科増設のほか、アニメーション学科の中にアニメーションコースとゲームコースとを設けた。2010年には、ゲーム学科およびデザイン学科デジタルコミュニケーションコースを新設、そして、インタラクティブメディア学科を設置(メディアアート表現学科から名称変更)する。
工学部も負けてはいない。2010年4月、電子機械学科を開設(システム電子情報学科から名称変更)する。ロボット製作やプロジェクト実験など実践的な学びを重視。一年次には、学生10人弱に1人の教員がつき、学習指導だけではなく公私にわたって支える。
いま、力を入れているのが、「工芸連携」。箱守が説明する。「本学は、工学部と芸術学部の2学部があります。写真は、真実をありのままに写し取る技術(工学)によって美的価値を創造(芸術)するもの。工学と芸術とは本来不可分のものと考えられます」
「工芸連携」は具体的に、どのように行っているのか。「工学と芸術のコラボレーションによって新たな研究や表現を生み出すため、両学部の連携を推進しています。工学と芸術学が融合した科目群として、どちらの学部の学生でも履修できる『工・芸融合科目』を開講しています」(箱守)
工・芸融合科目の一つとして、09年度から、「工房」の名称で「マンガ工房」「アニメーション工房」「ロボットラボ」「模型スタジオ」という工芸大ならではの四分野が設けられた。それぞれ専用スペースで授業を行い、正規の実習科目として単位認定される。
企画広報課課長補佐の松尾未来が語る。「工学部の学生でもマンガを描いてみたい、芸術学部の学生でもロボットを作ってみたい、そんな好奇心を満たすことができる授業が受けられます。工・芸融合科目の履修で、視野の広い技術者・アーティストになることが期待されています」
さらに、工・芸両学部の学生が協力して行う研究を推進している。学生から提出された申請書とプレゼンテーションをもとに、学長を委員長とした審査委員会が審査し、支援する活動を決定する。「学生たちが、学部や学科を超えた新しい価値の創造にチャレンジしています」(松尾)
ユニークといえば、学長の若尾の発言もそうだ。新聞社の取材に、こう答えている。「理科系と文科系に分けて、ひとくくりにする今の日本の教育システムに疑問を持つ。本学は、工学系か、芸術系か悩む学生も歓迎する。なぜなら、自分に向き合って悩み考えるところから、創造性やオリジナリティーが生まれてくるからだ」
大学院工学研究科の風の研究もユニークである。建築学専攻の風工学研究センター(厚木キャンパス)で、都市や建物の強風災害の低減、室内の風の流れや換気の問題、熱・空気環境の改善などについて研究している。「風工学・教育研究のニューフロンティア」は文部科学省グローバルCOEプログラム(2008年度〜12年度)に採択された。「人間と地球上の大気の相互作用を総合的に研究し、風工学において世界をリードする若手研究者・技術者を育成しています」(箱守)
学生が全て企画・制作した大学紹介サイト「Kougei Crossing」も珍しい。「キャンパスで学生がすれ違う風景をつなぎ合わせ、普段の大学の様子をご紹介しています。また、東京工芸大学がどのような大学なのかを尋ねたインタビューも読むことができます」(松尾)
現在、中野キャンパスをリニューアル中。2009年から15年までの6か年計画で全面的整備を行い、メディア芸術の拠点を形成するという。これにより中野キャンパス学生収容人数が増えるため、厚木キャンパスは現在よりも余裕ができることになる。
箱守は最後に、こう語った。「現代のデジタル化された社会は、新たな価値観が問われていると言えます。教育設備等のデジタル化など教育内容の充実とともに、様々な改革に積極的に取り組み、常に時代をリードする、社会に有用な大学をめざしたい」
改革やユニークな取り組みを学内外に訴求するのが企画広報課。松尾は、箱守の言葉を、こう引き取った。「工学と芸術は不可分ということから、本学では、『工学×芸術=∞(無限の可能性)』という考え方をとり、これを訴求しています。単なる工業大学でも、単なる芸術大学でもない、というメッセージで、この特長を広報していきたい」
箱守と松尾の発言からわかるように、東京工芸大学のこれからの改革は広報とともに止むことなく続く。