平成21年9月 第2374号(9月23日)
■私大協会
“地域共創”の研究協議会開く
産・官・学一体となっての地域活性化
〔基調講演〕愛知工業大学開学50周年記念映画製作
「築城せよ!」に見る地域自治体・企業・人々との連携
日本私立大学協会(大沼 淳会長)は、去る9月14日、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷において、「平成21年度“地域共創”に関する研究協議会」を開催した。研究・協議では「大学参加の映画製作/愛知工業大学開学50周年記念映画「築城せよ!」―地域自治体・企業・地域の人々との連携」と題した愛知工業大学の森 豪エクステンションセンター長の基調講演のほか、文部科学省の古田和之高等教育局大学振興課大学改革推進室課長補佐の「地域共創関係の補助金」についての講演、さらに長岡大学、広島工業大学からの取組事例発表が行われ、同協会加盟校から102大学約130名が熱心に耳を傾けた。
同研究協議会は、同協会の基本問題研究委員会の担当(担当小委員長=小林素文愛知淑徳大学理事長・学長)のもとで開かれたもので、今年で通算5回目。
開会に当たり、同協会の小出秀文事務局長は、「私立各大学が存続・発展していくためには、建学の精神に基づく教育・研究の特色化・高度化を強力に推進するとともに、存立基盤の地域社会との協力関係の再構築をめざし、新たな大学づくりが重要となっている。各地域での取組み事例等を参考に、今後の“地域共創”の推進方策等を協議していただきたい」との開催主旨を述べて挨拶とした。
映画製作で文化面での地域共創
始めに、愛知工業大学の森氏が登壇し、「映画『築城せよ!』」を巡る「映画製作」について基調講演を行った。
この「築城せよ!」(古波津陽監督)の映画は、現在一般劇場で公開されている。築城のためにこの世に蘇った戦国武将が地域の人々と段ボールの城を三日間で築城するという奇想天外な内容。
同大学では、今年開学50周年を迎え、その記念事業としての映画製作を決めた。学長は、「@みんなでつくる、A映画製作を教育の場とする、B地域の人と交流する」との指針を示し、テーマは「ものづくり、人づくり、地域づくり」となった。同大学では開学以来「ものづくり」に取り組んでおり、「ものづくり」が映画製作の中核にある。
そのきっかけは、2000年に開講した総合教育科目の「ものづくり文化」の講師として、この度の映画製作のプロデューサーを招いたことにあった。
同大学の主な役割は、メセナ支援(企業等による文化活動支援)の働きかけ、撮影地(豊田市・猿投温泉)の地域協力要請、大学施設の提供(撮影、スタッフ用宿舎)、スタッフ(70名)・エキストラ(140名)としての学生・教職員の協力、学内施設でのセット製作などであり、中でも1万2000枚に及ぶ段ボールによる城づくりへの挑戦は、関係した参加者全員の連帯感を生み、強い「絆」が築城された。
この事業は、地域とともにつくりあげた「地域共創」の産物であり、豊田市が後援の約束をするとともに、「『トヨタ自動車の城下町』と言われるだけでなく、文化面でも充実させていくこと」を目指していることと合わせて言えば文化の面からの「地域共創」の試みであった。
なお、この撮影と並行して同大学建築学科の建築研究会では「段ボールによる城づくりが工学的に可能か」の実証実験をしており、技術的蓄積があった。
「感動させるテクノロジー、創造的マネジメント」を標語とする50周年の記念事業の成果は、同大学の今後の発展に大いなる役割を果たすことになるのではないかと思われる。
産官学による地域連携を支援
引き続き、文科省の古田氏から、地域共創関係の補助金について、まず、近年の大学改革の状況を述べる中で、特に地方活性化、大学間連携等が求められているとして、21年度の戦略的大学連携プログラムの選定状況等を紹介した。
平成21年度には、60億円(前年の二倍)の予算を組み、@総合的連携型に申請76件・選定25件、A質保証特化型に申請43件・選定13件があった。そのうち、@では大学・自治体・産業界など地域が一体となった人材育成の推進(地域人材育成プログラム、就職サポート、地域課題対応型の取組等)が募集テーマにあがっている。
選定された具体的な取組事例として、▽未来を拓く地域人材育成を目指す異分野大学連携による「旭川キャンパス」(旭川医科大学、旭川大学ほか)、▽全国の地域で活躍できるプロフェッショナル〈まちづくリスト〉育成プログラム(法政大学、沖縄大学ほか)、▽地域共創のための高度人材育成基盤整備―「筑後川流域総合大学」化に向けて(久留米工業大学、聖マリア学院大学ほか)
また、総合的連携型のうち87%は何らかの形で地域自治体等と連携した取組となっている。
講演の最後に、8月末に提出した平成22年度の概算要求では90億円を要望しており、民主党政権は概算要求の見直しを行うことから不透明だが、「地域主権」を表明していることから推進できるのではないかとの感触を示した。
長岡大・広島工大の事例発表
休憩をはさみ、次に二大学からの具体的な事例発表が行われた。
一つめは、長岡大学の石川英樹地域研究センター運営委員長が「長岡大学における地域連携の取組等について」と題し、大学の現状、学生の意識等を踏まえての“生き残り戦略”とも言える地域連携の仕組み・施策等を説明した。
同大学の教育プログラムは、@ビジネス展開能力開発プログラム、A資格対応型専門教育プログラム、B産学連携実践型キャリア開発プログラムが柱で、地域産業界と密接に連携して産学融合型の専門人材の開発を目指す(長岡方式)。
この長岡方式によって産学融合による実学教育(産学連携科目への企業等からの講師は延べ50人。また、学生による地域活性化提案プログラムでは、地域の課題(ゴミ、環境、介護など)についての各テーマ別ゼミを開き、自治体等に報告書を作成し、提言している(受託研究に結びつくこともある)。
そのほか、一般市民向け公開講座の開設、“まちの駅開設”などのユニークな地域連携を展開している。
次に、広島工業大学の茂里一紘学長が登壇し、同大学の地域連携の取組みを説明した。同大学の教育目標は「社会・環境・倫理」を重んじて行動することであり、地域連携における特徴は、@産学連携推進憲章:「産」を広く社会・地域と意識しての宣言の制定、A研究のみならず教育における産学連携:新しい技術者教育、B「地域(地元)があっての広島工業大学」という理解での地域(産)との連携:“地域力”の三つ。
同氏は“地域連携におけるPDCAの在り方”を大学全体のPDCAの仕組みとともに解説した上で、産学連携の持つ広い意義(社会還元、人材育成など)を強調した。なお、実践事例では、インターンシップによる共同研究への展開、自動車技術研究センターによる産学官連携学内外共同研究などを紹介した。
取組事例の発表後に質疑応答も行われ、フロアからは「特定の先生方だけが担当し、全教員等が参加・協力しているのか」「地域貢献とブランディングについて」などの質問が出されるなど活発な意見が出され、研究協議会は終了した。