平成21年8月 第2371号(8月26日)
■大学分科会
「中長期的な大学教育」 第2次報告(案)を審議
更なる内容の具体化等、第3次報告へ
質保証システム再検討・大学院教育の充実・学生支援学習環境整備など課題整理
中央教育審議会大学分科会(安西祐一郎分科会長)は、去る6月に「中長期的な大学教育の在り方について」の審議経過を第一次報告として公表した。その後の各部会等での審議状況を踏まえ、第一次報告での提言内容の一層の発展・充実、論点整理段階からの内容の具体化、さらに、新たな課題の整理などを行い、8月4日の同部会で示していた素案を、26日の会合で第二次報告(案)として取りまとめ審議した。同報告(案)では、特に、歴史的経緯によって成り立っている現行の大学制度や施策の検証、欧米の大学の国際的動向も踏まえた大学制度の国際的枠組みの中での検討を重視している。公的な質保証システムの再検討、大学院教育の充実、学生支援・学習環境整備などを柱にした第二次報告(案)の概要は次のとおり。
質保証システムの再検討
ク公的な質保証システムに関する経緯と課題
「第一次報告」では、設置基準、設置認可審査、認証評価の公的な質保証システムの改善の方向性を提示したが、「第二次報告」(案)では、事前規制型から、一定水準以上の大学であることを保証する事前規制型の長所と、大学の多様性に配慮しつつ恒常的に大学の質を保証する事後確認型の長所をあわせ持つ、事前規制と事後確認の併用型への転換といった歴史的経緯を整理し、質保証システムの設置基準、設置認可審査、認証評価の三つの要素の役割と相互の関係をあらためて検証し、その制度・運用の改善等を図るとしている。
設置基準及び認証評価に関連する制度等の検討課題例としては、機関別評価の第二サイクルが始まる平成23年度に向けて、大学評価基準と学校教育法や大学設置基準との関係の整理、認証評価の結果の公表にあたり、その根拠について学校教育法や大学設置基準、大学評価基準との関係の明確化などを示した。
ケ公的な質保証システムの検討に関わるその他の観点
A大学内部の質保証の仕組み
情報公開のための体制の整備等の具体的な検討が必要であるとして、次のように取りまとめている。
(情報公開)社会に対する説明責任を果たすとともに、教育研究活動等に関する基本的な情報の整備・公開を進めることが重要であり、そのための体制の整備が求められる。さらに、各大学の教育研究活動等に関する情報の項目の具体化、提供するデータベースの構築等、国内外への情報発信を推進するための方策の検討も課題である。
(自己点検・評価):学内情報を集約・分析するための部署や担当者の配置、それを担う専門的職員の育成等が求められる。また、自己点検・評価の質を高めるとともに、その実質化を進めるために、自己点検・評価の内容の共通化や適切に行われていない場合の対応の検討も欠かせない。
(学協会、大学団体等の取組):学協会や大学団体、大学コンソーシアム等による質保証のための主体的な取組の支援の推進も重要。
(事後確認の体制):設置認可後完成年度までの設置計画履行状況調査と認証評価の期間におけるチェックや、設置基準違反が疑われる事例についての詳細な調査等を行うための仕組みの検討も求められる。
B学生支援・学習環境整備の観点からの質保証
学生支援には、学生相談、学修支援、経済的支援等があげられ、また、正課外教育の在り方、例えば、部活動を含むキャンパスライフ等も検討していくことが求められる。学生の多様化が進展している現状や、国の内外から幅広い年齢層の学生や教員・研究者が集い、相互に交流しながら学んでいく場をどう整えるかが課題となる。学生支援を担当する教職員や多様な専門家を活用した組織づくりなどが課題である。
(新たな大学の教育活動としての職業教育(キャリアガイダンス)の大学教育への位置づけ):検討課題例として、学生が入学時から自らの職業観、勤労観を培い、社会人として必要な資質能力を形成していくことができるよう、教育課程内外にわたり授業科目の選択等の履修指導、相談、助言、情報提供等を行うなど、「職業指導(キャリアガイダンス)」を適切に大学の教育活動に位置づけることが必要である。
Cグローバル化の進展の中での質保証
「第一次報告」以後の審議のうち、質保証に関わりの深い課題として、国際的通用性の観点からの重要な課題がある。
(大学制度に関する情報発信の重要性):我が国の大学の信頼性を高めるため、質保証システムの仕組みと内容について積極的に情報提供していくことが望まれる。その際、根拠となる学校教育法や大学設置基準をはじめとする各種法令等を整理するとともに、英語で適切に表記することも求められる。(組織的・継続的な教育連携関係の構築の促進):ダブル・ディグリーをはじめとする組織的・継続的な教育連携関係の構築の促進は、留学生30万人計画推進上も重要である。なお、ダブル・ディグリーの実施に当たっては、単位互換の対象となるプログラムの質の確認、研究指導や学位審査の取扱い等について十分な検討が必要。
大学院教育の充実
平成17年の「大学院教育振興施策要綱」で平成22年度までの五年間の振興計画として示した改革の方向性と重点施策についての進捗状況の把握と課題(各大学の取組状況、取組によって得られた効果、大学への施策の影響などの学問分野別・学位の種類別の把握・分析)の検証を実施する。 その上で、大学院教育の実質化、大学教員の意識改革、産業界等との連携による人材育成などについて検討して課題を整理する。また、今後、質保証の在り方については、分野別・学位の種類別に検討していくことも課題である。 さらに、博士課程入学志願者の減少傾向の現状や卒業後の進路の受入先が不十分であることから、規模を縮小していくべきという議論もあるが、諸外国との国際競争力の観点から、社会の在り方や大学院の人材育成機能の観点等も踏まえ、より幅広い視野からの議論を行う。
学習支援・学習環境整備
学生相談の内容が、対人関係、学修上の問題、経済的問題等、多様化しており、また、学生が抱える課題には様々な背景がある可能性が高いため、学内外の関係機関による有機的な連携・協力が重要である。 また、学生への経済的支援方策については、平成21年3月時点で、大学の中途退学者のうち経済的理由で退学する学生が約16%(7715人)に及ぶという調査結果も報告されていることもあり、一層の教育費負担軽減策を充実することが課題となっている。 個人のニーズに応じたきめ細かな支援の在り方として、進学にかかるコストの提示及び経済的支援等に関する見通し(ファイナンシャル・プラン)の作成を支援することなども検討課題の一つである。