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平成21年6月 第2363号(6月17日)

新刊紹介
  いまマルクスの出番?
  「マルクスの逆襲」
  三田 誠広 著

 なぜ、この本を取り上げたのか? いま、マルクスブームで関連本が売れている。そして、今の大学生にマルクスを知って欲しい、という著者の思いに応えた。
 著者は、団塊世代の代表格。18歳で文壇にデビュー、早大文学部卒業後、サラリーマン生活を経て1977年、『僕って何』で芥川賞を受賞した。
 五章からなり、序章と一章は、いわばマルクス入門編。マルクスは大貧民の味方なのか、大貧民はいかに救われるか、を歴史的に説き起こす。
 二章の「日本のマルクス主義」に『僕って何』が顔を出す。〈かつてマルクスは一つの世代を丸ごと抱え込むほどのブームを巻き起こした〉。早大時代に体験した全共闘、内ゲバ、過激派などを振り返る。
 著者の言いたいことは三章「マルクスは敗北したか」以下にある。〈戦後の日本の経済成長は、社会主義同様の統制経済による。実は、日本はマルクス主義国家だったのだ〉
 独自の歴史観を披瀝する。〈小泉純一郎というカリスマが構造改革、規制緩和を打ち出すまではそうだった。が、その末期に官僚支配と官民癒着で国を滅ぼしかねない経済の停滞と制度崩壊をもたらす〉
 マルクスの夢を実現するにはどうすればいいのか。いまこそマルクスの出番で〈会社や地域がコミュニティーであるような、そういう社会を実現することだ〉と主張。わかったような、そうでないような”残尿感”みたいなのが残る。
 それより、神戸女学院大教授、内田 樹の<マルクスのいちばんよいところは、「話がでかい」ところである。貨幣とは何か、市場とは何か、交換とは何か、欲望とは何か、言語とは何か……そういう「ラディカルな話」をどんと振って、私たちに「ここより他の場所」「今とは違う時間」「私たちのものとは違う社会」について考察させる>といった主張に共振する。

 「マルクスの逆襲」
 三田誠広著
 集英社新書
 電話03−3230−6080
 定価700円+税。

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