平成21年6月 第2363号(6月17日)
■高めよ 深めよ 大学広報力〈35〉
こうやって変革した 32
武庫川女子大学
「実学教育」が実を結ぶ
伝達手段ウェブやケータイ活用
相変わらず、新聞社、出版社、受験産業などによる「大学ランキング」が花盛りである。これを大学の広報宣伝に使う大学も増えている。こうした大学ランキングの各分野で、常に上位にランクインする女子大学がある。武庫川女子大学(糸魚川直祐学長、兵庫県西宮市)。大学ランクでは、資格・就職率はもとより、大学力、大学満足度といったジャンルでも常にトップクラス。これが、どの大学も苦悩する受験生集めに威力を発揮しているのは間違いない。そこで、どのようにして、大学ランクの上位を独占するようになったのか、このことをどのように広報しているのか。そのあたりを広報担当者に尋ねた。取材したのが新型インフルエンザでの休校明け直後だったので、それも合わせて聞いた。 (文中敬称略)
大学ランクで”上位独占”
武庫川女子大が新型インフルで休校したのは5月18〜24日まで。取材は授業が再開して一週間経った6月1日。取材に応じたのは、学校法人武庫川学院(武庫川女子大・武庫川女子大短期大学部)の広報室広報室長、福田 徹。
「公衆衛生のお医者さんを入れて対策会議を持ちましたが、休校にした場合、実習や補講はどうするのか、といった議論が続出しました。県からの要請もあり、授業を続け、万が一が起きたとき学校としての社会的申し訳がたたない、ということから休校を決めました」
新型インフルで休校
休校に入る前は、同大の学生が乗る阪神電車などの車内では乗客の九割がマスク姿だったという。休校は5月16日に決定、学生への連絡は、ホームページで行った。休校初日は職員が駅に立って連絡漏れを心配したが、通学した学生はいなかった。
休校期間中の22、23日は学科対抗の「体育祭」が開催される予定だったが中止に。「学生らは、マスゲームの練習など猛特訓をしてきたので、『やらせてほしい』と泣いて訴えてきました。そこで、30日の一日だけの開催で実施しましたが、みんな大喜びでした」(福田)
武庫川女子大は、1939年創立の武庫川高等女学校が前身。自立した、社会に役立つ有能な女性の育成が目的だった。1949年、武庫川女子専門学校を母体に武庫川学院女子大学が開学した。
1958年に現校名の武庫川女子大学に改称し、文学部および家政学部を設置。59年音楽学部、62年薬学部を設置。94年に家政学部を生活環境学部に改組して現在に至っている。
カリキュラムでは、共通教育科目と特別学期の各講座が白眉だ。共通教育科目は幅広い知識と教養の修得を目的とした科目を開講、学部・学科・学年の枠を超えて自由に選択できる。特別学期は、資格取得や就職対策の講座が充実している。
広報室長の福田が説明する。「本学は、豊かな教養を身に付けた女性の育成を目指すとともに、社会の要請に応えるため、思考力を兼ね備えた人材の育成に努めています。開学当時、一般的だった単なる花嫁学校という女子校のイメージを越えて、女性の社会進出を積極的に支援しようとする先進的な学び舎でした」
同大のホームページには、各媒体が行う「大学ランキング」の結果をまとめた最新のランク情報が紹介されている。
<資格・就職に強い大学を今春卒業生も実証! 管理栄養士187人、薬剤師152人、教員は公立学校146人、公立幼稚園・保育所71人、私立幼稚園・保育所113人が合格しました>
<09年3月卒業生の各国家試験、教員・保育士採用試験の結果がまとまりました。本学卒業生は大健闘、資格に強い大学であることを実証しました。09年度採用の公立小学校教員採用選考では、小学校131人、中学校9人、高等学校1人、特別支援学校4人、栄養教諭1人が合格しました。あらためて「教育の武庫川」を印象付けました>
きりがないので、このへんで留める。どのようにして、このような資格・就職に強い大学になったのか。福田が答えた。
「教育の武庫川」
「本学の伝統的な教育方針が実を結んだということだと思います。創立以来、幅広い教養と豊かな人間性をはぐくむ全人教育を行ってきました。学部・学科・学年の枠を越え、学生が自主的に自由に選択して受講できる『共通教育』、『特別学期』も貢献していると思います」
さらに、社会に貢献できる人材を育てる「実学教育」も力になっているという。「最新の設備を整えたマルチメディア館では、コンピュータ活用能力を高める基礎的・専門的な情報処理教育を、健康科学館では、食物栄養学科の実習・演習を中心とした実務教育を行っています」
いくら、このような結果が出ても、受験生や高校、保護者らに、この事実が伝わらなければ意味がない。「問題は、このランキング結果を広報がどう発信するかです」(福田)。
同大の広報は@大学のありのままを伝えるAニュースになりそうなものはプレスリリースにするB広報のアイデアでニュースを”創る”C大学のシンポジウムなどには積極的に関与する―を心掛けているという。ランキング結果は「ありのままを伝えているだけです」(福田)
広報の役割を福田が続けた。「広報としては、等身大の大学の姿をリアルタイムで伝えたい。伝えるメディアは紙媒体からウェブ、そして携帯電話と変化しています。伝えるのは、どのメディアがよいか、を常に考えます。最近では、ウェブでの動画配信や携帯サイトのメルマガなどを活用しています」
福田は、ランキングのことばかり聞かれるのに辟易したのか、「うちは、こうしたこともやっています」と切り出した。
「国際化教育のためアメリカ分校を設けました。ここでは年間500人を超える学生が、現地教員の指導を受けながら生きた英語を学んでいます。さらに、米国、英国、豪州、カナダ、韓国の諸大学との間に交換留学制度を設け、毎年、留学生の交換派遣を行っています」
歴史的な甲子園会館
「女子大学で初めて開設した大学・建築学科、大学院・建築学専攻は、フランク・ロイド・ライトの意匠を継承する歴史的建造物『甲子園会館』を教室として使っています」
甲子園会館は、1930〜1944年まで甲子園ホテルとして使われていた。昭和モダニズムの意匠を引き継ぐホテルとして歴史的価値の高い建造物。ロイド・ライトの縁で、東京の帝国ホテルに、同大は東京事務所を置いている。
一部の女子大では共学化が行われているが、この点について聞いた。福田は「本学は、女子教育に特化して、専門性を待たせ、多様化した時代に合わせて、やってきました。これからも女子大のよさを大事にしていきたい」。
わが国最大規模の女子総合大学として一万人を超す女性が学ぶ大学の広報担当者は、ちょっぴり自信をのぞかせた。