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平成21年2月 第2350号(2月25日)

改革担う大学職員 大学行政管理学会の挑戦H
  大学事務組織研究会
  事務組織から大学変える 3月には"研究報告書"発行も

 大学事務組織研究会リーダー 日本大学本部人事部次長 大工原 孝

 一、研究会発足の背景
 どこの大学にも事務組織があり、その組織では多くの職員が事務を執り行なっている。
 大学職員と事務組織の関係は、船と船員の関係に例えれば分かりやすい。どんなに優秀な船員がいても、ぼろ船では上手に操れないし能力を発揮しようがない。逆に最先端の装備を持った船でも、未熟な船員では船の能力を十分に使いこなせない。立派な船と優秀な船員が揃ったときに、初めて素晴らしい航海ができるのである。今、大学を取り巻く海は荒れ模様であり、相当注意して進まないと沈んでしまう可能性がある。
 船にあたる「事務組織」研究の必要性を痛感したものの、当時、職員の働く場である「大学事務組織」の研究はほとんど行われていない状況にあったし、事務組織を理論的かつ実践的に組織として研究している状態とはいえなかった。この状況下では他にも同学の士がいるに違いない、自分達のことは自分達で研究してみるしかないと思い、研究会の発足を計画した。
 まず、同学の士を募るために、大学行政管理学会の研究集会で「大学事務組織の研究―序説・その必要性―」として研究発表することとし、そのプレ発表を二〇〇六年七月、東北学院大学で行われた東北地区研究会と大学人事研究会の合同研究会において行った。そこでのリアクションを反映させ、マイナーチェンジしながら同年九月の第一〇回研究集会において正式発表を行い、発足コアメンバーとして、東北学院大学の斎藤英夫氏をサブリーダーにお願いし計七名でスタートしたのが「大学事務組織研究会」である。
 大学事務組織とは、バーナードによる組織の定義を借りれば「教育・研究を行う上で発生する事務や、大学の管理運営や経営に伴う事務を行うために設けられた二人以上の職員によって構成される機構・制度」を指す。
 そもそも組織は複数人が共通の目的のために行動を共にするものであるから、最初にコアメンバーによるキックオフ・バーベキューを開催することにした。別にバーベキューにこだわったわけではない。が、各自がバーベキューの食材や飲み物を持ち寄り、「一つの目標」に向かって作業を共にすることを実感したかったのである。作業の中で、包丁で肉を下準備するパートに時間がかかったり、重い鉄板を運んでくるには二人以上の力が必要になったりする。分担制にしたものの、自分のパート以外でも率先してヘルプで入らないとバーベキューを食べることができない。一人ではできないことを、「組織」では所定の時間内に達成することができる。これは事務に限らず、バーベキューというレジャーにも当てはまる。各パートの壁を低くし、いつでもヘルプしようという意識の大切さを私たちに教えてくれた。
 次に、研究会活動を理論的に進めるために、メンバーの研究レベルをほぼ同じにすることを最優先事項とし、必要最低限度の課題図書の読み込みをお願いした。また「大学事務組織の研究」という切り口は、ほとんどの領域が研究対象となってしまうので、絞り込む必要も出てきた。明らかになっていない大学事務組織の実態をつかむことを当面の課題として、「私立大学事務組織実態調査」の実施のための準備に入ることになった。
 二、研究会活動これまでのあゆみ
 こうして二〇〇六年十月に「大学事務組織研究会」として仮発足したものの、今後全国の大学に「アンケート調査」をお願いしていくためには、学会から正式な「研究会」として認めてもらう必要があった。二〇〇七年一月十八日には学会常務理事会において設置が承認されることになり、アンケート調査に照準をあてて本格的な活動に入った。
 「事務組織アンケート」の間口は広い。どこにポイントを絞り、設問項目を精査していくかが次の課題である。そこで、調査技法を参考に、プロトタイプを作成し、予備調査として慶應義塾大学・國學院大学・昭和女子大学・東北学院大学・日本福祉大学の各校にご協力いただき、調査項目の当否・質問の意図の分かりやすさ・回答時間などにつき、多角的に指摘していただき、本調査に臨むことになった。
 予備調査で分かったことは、三桁を超えるであろう各大学からの回答をいかに集計するかであり、機械処理できるように修正も加えた。本調査依頼大学は@全国四五七の私立大学、A調査期間は二〇〇七年六月十一日〜二十九日、B回収方式はWebまたはFax、C回答大学数は一七三大学・回答率三七・九%、D回答依頼者は総務部長等であった。調査票の構成は事務組織の制度・組織の現状調査、その運用状況、事務組織改革の状況、事務情報の組織としての利活用、事務組織の歴史資料調査となっている。おそらく私立大学協会・私立大学連盟等を問わない日本の私立大学の事務組織全般に亘る調査をした、初めての試みではないかと考えている。
 詳細は学会誌第一一号「全国『私立大学事務組織実態調査』の報告」をご覧いただきたい。
 三、研究会を通して得られた知見
 研究会は当初、アンケート調査の設計を中心としたため、非公開として一二回開催した。アンケートの集計結果については、二〇〇七年九月の同学会第一一回研究集会において発表し、その時点から研究会をオープン化し、その後、合計二〇回の開催に至っている。
 実態調査から分かってきた点は、@事務組織規程の有無からみても各大学で事務組織の整備状況にバラつきがあること、Aここ一〇年は社会環境の変化から大学事務組織変革の時代であったこと、B既存の組織をカバーするためにプロジェクト組織が増加したこと、Cトップの経営戦略を支えるために経営企画・戦略部署の新設が多くなってきたこと、が挙げられる。
 四、今後の研究会活動
 事務組織研究の奥はかなり深い。実態調査として単純集計はしたものの、今後はクロス集計や追跡調査などを続け研究を幅広く深化させていく必要がある。本年三月には研究会として「事務組織研究報告書」を発行する。この報告書には今まで蓄積されてきた研究成果を公開し、加えて、メンバーの個別論文や研究ノート・参加大学事例報告も掲載していく。これらの成果を積み重ねることによって、いずれは出版に結びつけたいとも思っている。
 「組織」を考えるとき、どうしてもそれを担う「人材」が育成できているのか、反面では、どうしたら伸びる「人材」を活用できる「組織」を作れるか、という永遠のテーマにぶつかってしまうことがある。しかし、大学職員や事務組織が変わることによって、教員、ひいては大学が変わるという意識を持つ時機に来ていることは間違いない。
 本年四月からはリーダーに東北学院大学の斎藤英夫氏、サブリーダーには第一二回研究集会で大学事務組織研究として発表された芝浦工業大学の寺尾 謙氏と日本大学の濱野泰三氏が就任される。新しい視点からの「事務組織研究」を周回軌道に乗せていただき、あわせて事務組織に関心のある大学職員の参加を心から歓迎しているところである。

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