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平成20年11月 第2340号(11月26日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈14〉
  UIの確立に全力 FDや大学交流に実績
  山形大学学長 結城章夫

こうやって変革した(11)

 東京・霞ヶ関からの“順風”が吹いているようだ。昨年十月、文部科学省の結城章夫・前事務次官が学長に就任して話題になった山形大学(山形市、米沢市、鶴岡市)。国立大学が少子化、運営費交付金の削減などで大学運営に呻吟しているなか、山形大は健闘している。FDに関する取り組みで東日本の大学をつないだネットワーク「つばさ」をつくる原動力になったり、他大学との交流の輪を大きく広げている。学内では意思決定のスピードアップ・事務の簡素化を図るなど改革を進めている。広報活動においても従来月一回だった学長会見を月二回にするなど広報力強化を実践している。推し進める大学改革の現状とあるべき大学広報の姿などについて、結城学長にズバリ尋ねた。(文中敬称略)

学長は元文科省次官

 山形大は人文学部、地域教育文化学部、理学部、医学部、工学部、農学部の六学部からなり約一万人の学生が学ぶ。山形、米沢、鶴岡の三市に四キャンパスがある。取材に訪れた十一月中旬、山形市のキャンパスの周囲の山野は錦繍に染まっていた。
 読売新聞の「大学の実力教育力向上への取り組み調査」(〇八年七月二〇・二一日)によると、山形大は、「FD取り組みのモデルとしている大学」として東日本の大学で一位、「教育力向上への取り組みで注目している大学」で同二位と高く評価された。
 〈「FDモデル」では、教員同士で授業を“診る”授業改善クリニックなど先駆的な取り組みや、東日本の大学をつないだFDネットワーク『つばさ』をつくり、蓄積したノウハウを公開する姿勢が評価されたようだ〉〈「教育力向上への取り組み」でも『他大学との連携』が評価された〉と同紙は論評した。
 同紙には結城のコメントも載った。「本学独自のFDの取り組みをさらに強化するとともに、東日本地区の他大学と連携・協力し、FDの経験と知識の共有化を進めていく」
 結城が学長に就任(〇七年九月)して最初に感じたのは、「大学は議論が多く、時間がかかるところ」だった。そこで、意思決定のスピードアップ・事務の簡素化を図った。「いま、目に見えないが、それは確実に進んでいる」(結城)という。
 続けて、結城は就任四か月後の〇八年一月、「結城プラン二〇〇八」を発表した。学長就任時に挙げた@何より学生を大切にして、学生が主役となる大学創りをするA教育、特に教養課程を充実させる」という「基本方針」を総論とすると、結城プランは各論だった。結城が説明する。
 「山形大が取り組むべき課題と目標を示しました。これに沿って一年間改革を進め、年末には、改革の達成状況を検証します。ローリングプランで、来年初頭には結城プラン二〇〇九を作っていきます」
 結城プランの基本方針は前出の通り。行動計画として@学生部門では▽「教育」を学生中心のものに改革▽「学生支援」の充実▽「研究」の高度化、A大学と外との連携では▽「社会連携」の強化▽「国際交流」の活発化▽「情報発信」を濃密に、B経営基盤では▽「財務」の健全の維持▽「組織運営・人事」の改善▽「評価」を定着させる。
 東日本の大学でトップと評価された「FDへの取り組み」は、結城プランの「教育」の重点事項になっている。「教養教育科目を中心に学内FD活動を強化し、東日本地区のFDネットワーク『つばさ』を構築する」とある。
 山形大は、「FDへの取り組みは私が来る以前からやっていた」(結城)というように九九年からワークショップを始めるなどFDに熱心に取り組んできた。学生を対象にした授業改善アンケートや公開授業など新しい取り組みを次々に導入してきた。これが『つばさ』となって羽ばたいた。
 結城が『つばさ』をつくったことについて語った。
 「これまでのFD活動の実績をふまえて、東日本の大学に声をかけた。一つの大学だけでなくネットワーク化したほうが他の大学との比較ができるし、優秀な学生を送り出すにはいろんな大学との相互交流が大事。本来はオール日本が望ましいが、とりあえず東日本の大学に呼びかけた。
 二〇〜三〇(の大学が)集まれば、と思ったら三四もの大学が集まった。扉はオープンなのでまだ増えるのではないか。うち(山形大)は、あくまで事務局で、みんな対等で、知恵と経験を出し合いFD活動を高めようというのがねらい」
 結城は謙遜気味に語ったが、FDに実績のある山形大への期待の大きさが三〇を超える大学の結集に結びついたようだ。
 海外の多くの大学との学術交流を含め、他大学との交流も積極的だ。今年六月には関西の私大、立命館大学と職員・学生相互交流を実現した。
 「職員、学生がお互いに訪問しあって、職場や授業を見学したり、会議をもったりしている。国立と私立、関西と東北、と異質ですが、だからこそ学ぶことは多いと思う。年末には双方の学長が交流成果をまとめて発表する予定」
 広報に関する「情報発信」も結城プランの重点事項にあり、@広報媒体の点検と再構成を進め、体系的かつ機動的な情報発信を行なうA月二回の学長定例記者会見を更に充実させる―とある。進捗状況を聞いた。
 「広報媒体は大学全体のものと学部単独のものがあった。整理して、それぞれ継続させ、重複しているものは大学全体に持ってくるなどして学部を厚くした。広報誌『みどり樹』は編集方針を見直し、大学の姿だけ(取り上げるの)でなく地域社会に浸透させる広報誌をめざしている。
 学長会見は、月二回にして在県の新聞、テレビ一八社にFAXなどで通知して大学内で開催している。毎回、八から一〇社の方がみえる。会見の都度、発表事項をまとめて発表している。地元紙や全国紙県版、地元テレビなどの手ごたえはいい」
 同席した広報室室長の森岡宏全が付け加えた。「学長は、会見用のプレスフォーマットを作ってくれました。発表事項に前文をつけて一、二枚に短くまとめ、わかりやくしました。記者の人たちに好評です。『つばさ』や結城プランの発表では地元紙などに大きく報じられました」
 また、大学広報のあるべき姿について結城に尋ねると、こんな返事だった。
 「前向きに取り組むことが大事だと思う。これからは、大学内での不祥事、事故など危機管理に対する対応が重要になる。問題が起きたら、その重要性を考え、(学長が)陣頭指揮をとることもあるだろう。隠さない、うそをつかない、謝るべきときは謝る、真摯に説明する、(これらを)心している。今後とも、UI(ユニバーシィティー・アイデンティティー)の確立に力を入れていきたい」
 終わりの“UIの確立”という言葉に力がこもった。
 最後に、運営費交付金の削減で厳しい国立大学運営について、「傾向と対策」を尋ねた。それまで穏やかにこたえていたが、急に厳しい顔になった。
 「山形大の昨年度の収支は、国からの予算(運営費交付金)は減ったが、競争的資金の獲得や民間との共同研究など外部資金で微増になった。しかし、財政再建で運営費交付金を毎年度一%減らす施策は、どこかで止めてほしい。うちも、無駄を省くことや効率化に一生懸命取り組んでいるが、それにも限界がある。運営費交付金削減は止めるのでなく、増額してもらいたい」
 朝日新聞の「国立大学長アンケート」(十一月十七日付)は〈運営費交付金の削減で大学経営に苦慮。「国の予算配分が問題」と答えた学長が九割、「教育研究に悪影響」という回答が四割〉という結果で、結城のコメントと“地つづき”となった。就任以来、これまで順風にみえたが、これからが正念場。結城・山形大は逆風に挑む。

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