平成20年11月 第2340号(11月26日)
■改革担う大学職員 大学行政管理学会の挑戦G
「大学人事」研究グループ
人事は"目配り、気配り"… 「大学人事研究U」も発刊予定
吉川倫子
1.研究会発足の背景
「大学人事」研究グループは一九九七年一月十一日の学会創立直後から発足した、最も古い研究会の一つである。前身は同年三月十五日発足の「人事・組織合同研究会」(座長:当時中央大学の高橋輝義氏)。今後の学会における研究会のあり方を模索すると共に先鞭をつけるという意味から立ち上げたプロトタイプの研究会であった。
学会事務局便り第一号(一九九七年二月十日発行)によると、「三月から「第一回人事・組織合同研究会」(座長:高橋輝義氏)と「第一回大学職員・トップマネジメント合同研究会」(座長:孫福 弘氏)が始まります。入会時に最も関心のある研究領域についてお伺いしましたが、上記二研究会は最も希望の多かった領域です」と書かれてあった。さらに「テーマ別研究グループを作りませんか。グループ化したい研究会がありましたら研究テーマを明記し、事務局までお知らせください」ともあった。
現在の「大学人事」研究グループは、この後、一九九九年四月十七日に正式に発足。第一回の研究会は、オブザーバーを入れて二三名が参加し、孫福初代会長が発足の趣旨を話された。研究グループの八つのミッションもこの時に制定されている。「八つ」とは、@私立大学の人事制度の実態調査と産・官・学比較、A処遇、B賃金政策、C雇用管理、D能力開発、E労働条件、F福利厚生サービス、G教員人事であった。
初代リーダーは慶應義塾大学の原 邦夫氏(第四代学会会長)であったが、当時のエピソードとして、〇四年八月発行の学会会報(故孫福氏追悼号)に原氏が次のように記載している。
「学会設立の数年後、孫福さんや村上さんらの学会設立のファンダーに、早稲田大学の井原さん、立教大学の山口さんと私の三人が丸善の学会事務局に呼ばれ、それぞれ「組織・業務管理」研究グループ、「大学職員」研究グループ、「大学人事」研究グループのリーダーをやって欲しいとの依頼を受けました。先輩たちに囲まれ「NO」の返事はできない雰囲気の中で、思わず「わかりました」と返事をしてしまいました」…「大学人事」研究グループ発足の瞬間である。
2.これまでの歩み
初代リーダーは〇一年三月まで原氏、サブリーダーは法政大学の吉田信正氏が務められ、以降、二代目は〇四年三月まで獨協大学の水野雄二氏がリーダー、サブリーダーが東洋大学の高橋清隆氏、三代目は〇六年三月まで明治学院の櫛田繁輝氏がリーダー、慶応義塾大学の高橋 剛氏がサブリーダーであった。
そして、現在四代目が不詳私は名ばかりのリーダーであるが、二人の優秀なサブリーダーである慶應義塾大学の椎名絵里香氏と大正大学の河村哲嗣に助けられ研究会を運営している。
活動は、毎月第三土曜日の一五時から約二時間、主に首都圏の大学で人事に関する発表や事例を通じた研究を行っている。これまでに行った研究会は通算七三回。登録メンバーも六八名と継続した活動が行われてきた。遠隔地のメンバーの中には、通常の研究会には参加が困難であっても毎年八月に実施する二泊三日の合宿研修には必ず参加するなど全国規模で所属大学を超えた横断的な繋がりが構築されている。
今年八月には千葉県館山市にある日本大学芸術学部館山セミナーハウスにて、テーマを「大学職員の人材育成を「人事」・「組織」の視点から考える」とし、大学事務組織研究会合同により二泊三日の夏期集中研究会を実施。セミナーハウスの和室で模造紙を広げ、ブレイン・ストーミングならぬブレイン・ライティングを実施したが、普段、自大学内では部下に対し研修を受けさせ、眺めている立場であるメンバーが逆の立場で研修を受ける側となり、また、大学を超えて、文字通り膝を突き合わせての議論を行ったことは、貴重な経験と充実感を得ることが出来た。
これまで八つのミッションに従い、その時々の環境変化に対応しつつ研究活動を継続してきた。時には外部から講師をお招きし、また、他の研究グループと合同で研究会を開催するなど人事を中心とした幅広いテーマで大学職員相互の啓発と研鑽を重ねてきた。
〇四年には大学職員人事制度の分析と事例を報告した冊子「大学人事研究」を発刊。その二年後には増刷するなど好評を得たが、今年度末には第二巻目の「大学人事研究U」を発刊予定である。テーマは教職員への評価制度であるが、第一巻の人事政策に関する調査も継続して実施している。これは多くの大学にアンケートを送付し、回答を頂いた結果を集計したものである。ご多忙のところ人事担当の方々にはご協力を頂き恐縮している。この場を借りてお礼申し上げたい。
3.今後の研究会活動
大学を取り巻く環境は大きく変化し、サバイバル時代を迎えようとしている。高等教育に求められている質の保証も益々厳しく、生き残りをかけての競争が激化している。
今年三月に中教審から出された「学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)」でも教職員の職能開発の重要性を提起しており、社会的にも本学会への期待が高まっている。大学経営において大学職員の果たす役割は非常に重要であり、今後一層大学職員への期待は強くなり、益々多忙になることであろう。
このような時代を向かえ、研究グループは、八つのミッションにいま一度立ち返り、大学職員力の養成を図るため、より一層会員相互の研鑽と互いの啓発を邁進していく所存である。
最後に、「組織は人なり」といわれるが、「人事」も結局は「ヒト」である。いかに良い人事制度や組織を作ってもその運用次第で全てが機能しなくなる。
教職員一人一人が何のためにここにいるのか、大学のみならず自分の立ち位置を見極め、常に将来あるべき姿を目指し、今何をなすべきかを考え実行することである。重要なのは、「なすべき事」を実行するにあたっては周囲への感謝と愛情をもって行なうこと。
「目配り、気配り、人配り」である。