平成20年11月 第2340号(11月26日)
■FD義務化を超えて 専門家に聞く"実践"とは
"FD"なんて言う必要ない
学長補佐 山田 登
―静岡産業大学では、ティーチング・メソッド研究会を開催しています。
山田学長補佐 「分からないのは学生が悪いのではなく、教え方が不十分なのだ」。そんな考えのもと、年に一度、全学部の教員が参加して、「ティーチング・メソッド研究会」を開催しています。今年で七年目になります。
具体的には、シラバスの書き方から始まり、話し方や資料の使い方といった授業法、試験や成績の評価法など幅広いテーマについて、教員が日常に工夫した事例を研究しています。「学生に分かる授業、楽しい授業とは何か」を熱心に議論しています。教員が議論によってお互いの教育内容を共有することは大事なことです。
三年前からは「ティーチング・メソッド研究会」に学生が加わり、教わる立場からの意見をもらっています。実際に新設の科目が生まれるなど成果に結びついています。
教員は日常的にティーチング・メソッドの開発・実践の目標を掲げています。達成できたか、できなかったなら、その理由は何か。改善策、達成結果も報告して、PDCAサイクルを回しています。
大坪学長 実践と研究が融合された静岡産業大学独自のティーチング・メソッド「SSUメソッド」の構築を目指しています。学問分野によって教授法も違うだろうから、試行錯誤を行いつつ独自のやり方を探そうと。公文式のように「SSU式」を作りたい。一〇年目には出版したり、このメソッドを外部に売っていきたい。
研究会は、原則は誰にでも公開しています。高校の先生、マスコミ、教育委員会など、大勢の関係者が見学に来ます。公開することでPRにもなりますし、議論の活性化にも繋がります。
―反対する教員はいませんでしたか。
大坪学長 開学当初より「教育第一」を謳っており、ミッションでは「教員は教育のプロに徹する」ことが求められていますから、反対が起きるわけもありません。静岡産業大学は教育の大学。最初から取り組みは真剣でした。
研究活動も、最先端の研究や技術を学生に教えるために行う。だいたい、「オフィス・アワー」という制度はおかしい。学生はお客様で、いつでも教員から学ぶ権利がある。教員に「研究者」という意識があるから、オフィス・アワー等という概念が生まれる。
FDという言葉もそうです。なぜ、わざわざ「FD」なんて言うのか。教員が教育力を高めるのは当然のこと。教育によってミッションを達成するのですから、ティーチング・メソッドの開発は必要なことなのです。
―大学が掲げる「大化け教育」とは。
大坪学長 ヒトは誰でも“オバケスイッチ”を持っています。そのスイッチが入ると、やる気が出て、才能が開花し、まるで違う人物になったみたいに「大化け」してしまう。そういうスイッチがある。学生のそのスイッチを入れようと。
分かってきたのは、キャリア教育にヒントがあるということ。人生で何をしたいのか。自分の取り組むべき目標を発見したときに、このスイッチが入る。すると、普通に過ごしていた学生がある日突然、目標に向かって一生懸命になったり、個性を発揮するようになる。
一方で、これまでは教員のスイッチも入っていなかったのではないか。研究目標はあるかもしれませんが、教員としてのキャリアの目標や、高い志がなかったのではないか。
教員もオバケスイッチが入ると、活き活きしてくるのです。学生はそんな教員と日常的に接している中で影響され刺激を受け、火がついて燃え上がる。教育内容というよりは、教員の総合的な人間力を見て、感化されてスイッチが入ります。
金剛石でなくたって、普通の石でも磨けば価値が出る。その価値の付け方を研究するのが大学です。「勉強しなさい」と言っても勉強しません。可能性や潜在能力、それを信じているのといないのでは、学生への伝わり方も違います。
―リーダーシップの発揮の仕方は…。
山田学長補佐 大坪学長のリーダーシップの下、一人ひとりの仕事内容を“見える化”して、PDCAサイクルを全学的に構築しています。
まず、理念とミッションを明確にして誰もが分かるようにしました。ミッションの実現のための中期計画、学長方針、学部長方針の策定、具体的な実行計画にまで次々に落としていく。
具体的には、年度ごとの細かい方針を作ります。学部長、三人の学長補佐、事務局長、本部長、図書館長がどんな方針でやるかを作成します。それから、毎月、報告書を書きます。これを全員で共有して、ティーチング・メソッドはもちろん、学会参加や本の執筆、社会での貢献活動、海外出張など教員が何をしているかを把握します。
また、常に大坪学長をはじめ、学部長などが何を考え実施しているかという情報を共有するシステムが徹底しています。
大坪学長は、提案するだけではなく率先して自らやるから、他の教員もやらざるを得ないと言う面もありますね(笑)。
―教員に実行してもらうのは大変ではないですか。
山田学長補佐 新しい試みではあるものの、一方的に「こうしなさい」といった押し付けがましいものではありません。とにかく歩みだして、うまくいかなければ止める。失敗してもいいのですよ。
それに完璧を求めません。六〇%達成すれば、あとは皆で知恵を出して改善して一〇〇%に近づける。基本は前向きに、ポジティブに。だから、新しいものを提案しやすいのです。
提案は、教職員が集まって議論をします。議論の末、実現段階では提案内容がガラリと変わることも。話し合いの中でよいアイディアが出ています。そういう新しいことに挑戦しやすい雰囲気が醸成されています。
大坪学長のパッションが、学生だけではなく、教職員をも“大化け”させています。講演を聴いた方は皆さん感動しています。大坪学長のリーダーシップの下で、様々な挑戦をしています。
大坪学長 経営学の本に書いてあることを実践しているだけですよ。大学は最大のシンクタンク。教員の持っているアイディアは凄いので、それを活用している。
学生の能力を引き出し、発揮できるように、変化だけではなく、進化していこうと。新しい大学経営の在り方ではないでしょうか。
大坪 檀氏
静岡産業大学学長。カリフォルニア大学経営学大学院でMBA取得後、(株)ブリヂストンに入社。経営情報部長、米国ブリヂストンの経営責任者、宣伝部長を歴任。その間、上智大学講師を勤める。
その後、静岡県立大学経営情報学部教授、学部長、学長補佐。一九九八年四月より静岡産業大学国際情報学部教授、現在に至る。
山田 登氏
静岡産業大学学長補佐(学事担当)。
情報学部特任教授。専門は応用言語学。