平成20年11月 第2340号(11月26日)
■地域に評価される大学 GPの成果をどう考えるか
おわりに
留学生や外国人観光客の支援により、地域活性化に結びつける大学もある。
京都外国語大学は、現代GPを機に、学生と教職員の協働によって、「Learning about Kyoto」というデジタルポートフォリオや神社仏閣の駒札を作成した。
京都市の外国人観光客数は平成十六年度から四年連続で過去最高記録を更新。平成十九年度は九二万六〇〇〇人となったが、背景にはこうした大学の取組が寄与していると考えられる。
京都御所・知恩院・南禅寺についての研究成果をまとめた学生の言葉。
「普段何気なく通っている京都に改めて目を向け、新しい発見をするたびに胸が躍った。研究するお寺に実際に出向き、日本文化に直接触れて感じた気持ちを精一杯英語で表現し、外国の人に京都の見所を伝え、それが京都の活性化につながれば嬉しく思う」
学習成果・研究成果を目に見える形で世界に発信できたことに大きなやりがいを感じている。
昭和女子大学では、地元FMラジオ放送局「FMせたがや」の協力の下、学生が番組を制作した。東京都世田谷区の外国人を対象にイベント情報を英語で放送。今後の同局国際化のさきがけとして位置づけられた。
放送を聞いた地域住民が番組のボランティアを志願するケースも見られた。番組はGP終了後も英語系学科の授業として取り入れられ、現在継続中である。
また、学生が主体となって行なう、近隣の外国人や地域の大学の留学生を招いての正月イベントをはじめ、世田谷ボロ市での英語通訳案内、英語力を活用して地域の人々に英語の手伝いをする活動には、多くの感謝が寄せられた。「国際ソロプチミスト」日本支部から評価もされ、支援を受けることとなり、現在も学生が活発に活動を続けている。
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大学の地域共創。
学生が地域に飛び出すことで、人と人との新しいつながりやアイデアが生まれ、「やってみようじゃないか」と取り組みが始まる。駿河台大学のように、「地域に学生がいる」こと自体が地域活性化への期待を持たせることもある。
大学が直接地域を活性化している、というよりも、活性化に結びつく動機やつながりやアイデアを醸成する場として機能している。
経済効果がなければ地域活性化とは言えない、との意見もある。しかし、仙台大学のように「高齢者が元気になり若返る」姿を目の当たりにしたとき、「この経済価値はいかほどか」という問いにどのくらいの意味があるのか。
一方、大学の本来の目的である「学生の成長」についても、大学が意図した以上の効果が見られる。
ここで登場した学生たちは、地域で自らの役割を果たし、「自分でも人の役に立つことができる」のだ、ということを実感している。教えるつもりが、教えられていることに気付いている。
筑波学院大学で回答のあった、「このような体験は将来必ず役に立つ」との意見は、教育の本質を捉えている。地域で学生を見守る様々な社会人も、それを理解しているから協力をしてくれるのであろう。
二つのGPを通して「大学の地域共創」は一歩ずつ前に進んでいる。地域の声を集めれば、それは大学の独りよがりではないことは明らかである。金沢工業大学や松本大学のように、視察に来た大学あるいは、同じGP採択校との連携を強化し、新たな教育プロジェクトにつなげている事例もある。
政府をあげて、「競争力」の源泉であるイノベーションの創出が推進されている。イノベーションは多様性から生まれる。地域の多様性、教育の多様性は、物的資源の少ない日本にとって競争力となる。しかし、拙速で一元化された評価からは多様性は生まれない。
GP事業が始まり、ようやく「地域共創の多様性」が緒についてきた。しかし、多くの関係者の不安にも現れているように、この競争力の源泉を生かすも殺すも、今後もGP等の政府の支援にかかっていると言ってもよいだろう。