平成20年9月 第2331号(9月17日)
■競争的研究資金の協議会開く 支援体制強化が資金獲得に直結
拡充する科研費など申請増を
日本私立大学協会(大沼 淳会長)は、去る九月三日、東京・湯島の東京ガーデンパレスで、平成二十年度「競争的研究資金制度に関する協議会(通算第四回)」を開催した。協議では、私立大学の経営基盤としての競争的資金の位置づけ、科学研究費補助金(以下、科研費)制度、人文学及び社会科学分野の共同研究拠点の整備の推進事業の講演のほか、競争的資金に関わる申請事務・学内支援体制についての事例発表が行われた。科研費については、平成二十年度から若手研究((B)、スタートアップ)にも間接経費が措置されるなど、年々拡充が図られていることから、一九七大学から二二〇名余が参加して、会場は熱気に溢れた。
同協議会は、同協会の私立大学基本問題研究委員会(担当小委員長=高柳元明東北薬科大学理事長・学長)のもとで開かれた。
開会に当たり高柳小委員長は「質の向上はもとより、財政基盤の充実を目指して競争的研究資金の獲得に向けて取り組まれ、さらなる発展を図られるよう祈念しています」と述べ、さっそく協議に入った。
大学の力こそ国家の力
はじめに、文部科学省の磯田文雄研究振興局長が「私立大学の経営基盤について―基盤的経費と競争的資金をめぐる諸課題を中心に―」と題し、基調講演を行った。
同氏は、まず「私学行政の経営基盤」として、これまでの高等教育計画の概略を解説し、当面する課題として、規制改革、少子化の進展、私立大学経営、大学「全入」時代等に触れた上で、「大学の力こそ国家の力であり、日本の高等教育の七割以上を私立大学が担っている」と強調した。
次に、「学術研究の推進と私立大学への支援」について解説した。
科学技術政策では、科研費のような研究者の自由な発想に基づく研究と戦略的創造研究推進事業のような政策に基づいた基礎研究の両者が、それぞれ独立して推進される必要があると述べた。
また、科研費等の競争的資金については、引き続き拡充を図りたいとの意向を示し、間接経費については、全ての制度で三〇%措置を早期に実現させていきたいと、今後の方向を語った。
そのほか、私学助成や国立大学法人運営費交付金等の基盤的経費と競争的資金の組合せ等についても、その有効な方策等の検討の必要性について言及した。
科研費への応募については、国公立大学に比べて私立大学の研究者の応募がかなり低い(教員一人当たり平均、国立大一・一〇四件、公立大〇・七二七件、私立大〇・三三一件)状況であることから、一層の応募を促した。
多様性を確保する科研費
昼食をはさみ、「科研費補助金制度について」と題し、(独)日本学術振興会の岡本和久研究事業部研究助成第一課長が解説した。
同氏は、競争的研究資金の約四割を占める科研費は、自由な発想による研究の多様性を確保するものであると述べ、その研究費制度における位置づけについて概要を解説した。ここ数年の厳しい財政事情から、科研費の予算も伸びがゆるやかになっていること、応募件数の推移(十九年度は「新規+継続」が一三万二〇〇〇件で対前年度一〇〇〇件減、「新規」が九万九〇〇〇件で対前年度三〇〇〇件減など)、採択件数(人文・社会系ではじめて二〇%を超えたことなど)、さらに、審査委員の選考方法や年度間繰越制度等についてデータをもとに詳細に解説した。
最後に、平成二十一年度の公募内容について、研究種目名の変更(萌芽研究が挑戦的萌芽研究に変わることなど)、応募受付の完全電子化、応募書類の提出期限(十一月十日)などに触れた。
共同研究拠点の推進
引き続き、取組事例として、「人文学及び社会科学における共同研究拠点の整備の推進事業」と題し、大阪商業大学における取組みについて、同大学の岩井紀子総合経営学部教授・JGSS(Japanese General Social Surveys)研究センター長が発表した。
同氏は、この事業の目的について、「大学の蓄積された人的・物的資源を活用し、国公私立を通じた共同研究の促進及び研究者ネットワークの構築、並びに学術資料等の構築、さらに学術資料等の共同利用の促進等、研究体制や研究基盤を強化するために、人文学及び社会科学分野における共同研究拠点の整備を私立大学等にも拡大すること」と説明し、二十年度に採択された共同研究五拠点(同大学のほか、文化女子大学、早稲田大学、慶應義塾大学、関西大学)の一つであると紹介した。
JGSSでは、@社会科学の幅広い分野をカバーする社会調査の実施、Aデータの公開、B分析結果の社会への還元などを行う。さらに、東アジア地区の比較調査(EASS)にも発展し、二〇〇六年の「東アジアの家族調査」や今後行う「東アジアの文化とグローバリゼーション」(準備中)なども紹介した。
そのほか、JGSS研究センターの組織や事業内容の詳細も述べ、最後に、競争的研究資金を獲得するためには、「熱意溢れた申請書作成」が大事であり、「評価に基づく改善等にもしっかり対応していくことが大切」と締めくくった。
申請、学内支援体制
「申請事務と学内支援体制の取組み等」と題し、九州産業大学の中尾和弘産学連携支援室長が、同大学の取組み事例を発表した。
同産学連携支援室の構成員は、同大学学術研究推進機構(機構長(学長)、副機構長(情報科学部教授))の事務を担当し、知的財産権、科研費(二〇年度三一件)、受託研究、奨学寄附金、学園の個人研究費等のほか、私大戦略的研究基盤形成支援事業(二〇年度二件申請中)も担当している。
なお、二十一世紀COEプログラム(柿右衛門様式陶芸研究センター(平成十六年度採択))等もフォローしている。
同氏は、「研究は、過去・現在・未来いつの時代も“大学の顔”である。研究の成果が教育の質を向上させ、研究も教育も相互に発展する」と今後に向けての抱負を語った。
次に、日本福祉大学の山本和子研究・教育連携部長が「小規模社会科学系を主とした研究支援における取組み」について発表した。
同氏は、同大学がこれまで獲得した研究資金について、教育系、研究系それぞれについての紹介、研究者の状況として、社会科学系(医療・福祉経営含む)の教育・心理・人文を、また医療系(リハビリテーション等)の福祉工学・建築・環境等の研究領域を、さらに、研究の規模等については、全体の五割強が「科研費の基盤研究(C)規模」(四〇〇万円〜五〇〇万円)と小規模で社会科学系が中心であることなどを説明した。
科研費の状況等についてでは、申請教員が三〇・七%(平成十九年度)だが、基盤研究(C)のみでは五五・六%と高いこと、交付金については、平成十五年度二三七〇万円から、平成二〇年度六五二四万円と伸びていること、また、採択率も二四・〇%から四〇・五%となっていることなどを紹介した。
なお、学内研究助成制度があり、課題研究費へ応募したものについては、原則として同一テーマで科研費に応募していることが条件になっている。
発表の最後に同氏は、「申請件数が多くなれば、採択件数も増える」と強調した。
各講演、事例発表とも、それぞれ終了後にはフロアとの質疑応答も行われ、協議会は終了した。