平成20年7月 第2323号(7月9日)
■「私の履歴書人生越境ゲーム」
青木昌彦 著
青木昌彦と姫岡玲治のどちらが主体的に書いた著作なのか。青木は世界的な経済学者、ペンネームの姫岡は安保全学連の伝説的な理論的指導者だった。
経済学者・青木の世界人脈に圧倒される。初の米留学で、招かれた経済学教授の家の〈不遜な一〇歳の子〉はのちのサマーズ米財務長官だった。
米スタンフォード大教授に復帰したときのパーティーで〈トロッキー談義をした〉女性政治学者はのちのライス米国務長官。
〈学者になることは高校時代から考えていた〉青木は東大入学、全学連で暴れた後、数理経済学から比較制度分析という領域を開拓。国の内外で七つものベンチャー創生にも関わる。
そんなスーパー学者の〈自分史と同時代史が分かちがたく絡み合っている〉。姫岡玲治の部分が生き生きと映ったのは僕だけだろうか。
六九年、京大助教授に招かれたさい〈赤軍派が「姫岡」が帰ってきたというので、電話をかけてきたが、「もう接点はない」と答えた〉
八四年、全学連時代からの盟友、唐牛健太郎の追悼の一文は胸が熱くなった。
〈楽しい、いい酒だったが、彼の永遠の旅立ちで一番の飲み友達を失うことになり、それ以来だんだん「飲む」というカルチャーから私は縁遠くなっていった〉
大学改革でも発言する。日本の大学の問題点の多くは、次のようなことから生じていると指摘。鋭い。
〈研究者がキャリアの早い段階から国家公務員として一律の給与表によって遇され、学界外部からの中途採用による競争的チャレンジから隔離されている〉
ずっと前ばかり向いてきた男が初めて後ろを振り返った。日経の「私の履歴者」によくある成功者の回顧録に終わっていない。(N)
青木昌彦著
日本経済新聞出版社
03-3270-0251
定価 1900円+税