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平成20年7月 第2323号(7月9日)

教育振興基本計画

  第2章 今後10年間を通じて目指すべき教育の姿

(1) 今後10年間を通じて目指すべき教育の姿

 知識基盤社会の進展や国内外における競争の激化等の中で、未来に向けての教育の重要性を考えるとき、教育の発展なくして我が国の持続的な発展はなく、社会全体で「教育立国」の実現に取り組む必要がある。
 このことを踏まえ、教育振興基本計画においては、改正教育基本法に示された教育の理念の実現に向け、今後おおむね一〇年間を通じて目指すべき教育の姿として、以下の目標を掲げる。
 @ 義務教育修了までに、すべての子どもに、自立して社会で生きていく基礎を育てる
 幼児期から義務教育修了までの教育を通じて、学校、家庭、地域が一体となって、基本的な生活習慣の習得や社会性の獲得をはじめとする発達段階ごとの課題に対応しながら、すべての子どもが、自立して社会で生き、個人として豊かな人生を送ることができるよう、その基礎となる力を育てるとともに、国家及び社会の形成者として必要な基本的資質を養う。
 ア 公教育の質を高め、信頼を確立する
 世界トップの学力水準を目指すとともに、責任ある社会の一員として自立して生きていくための基礎となる、知・徳・体のバランスの取れた力を育てる。このような力を、子どもの状況に応じ、特別な支援を必要とする子どもや不登校の子ども等も含め、すべての子どもたちに養う。このために、教育内容、教育条件の質の向上を図り、全国どの地域においても、だれもが安心して子どもを学校に通わせ、優れた教員の下で教育を受けることができるようにする。
 イ 社会全体で子どもを育てる
 教育の出発点である家庭の教育力を高める。地域全体で子どもをはぐくむことができるよう、その教育力を高めるとともに、地域が学校を支える仕組みを構築する。このことを通じ、地域の絆や信頼関係を強化し、より強固で安定した社会基盤づくりにも資する。
 A 社会を支え、発展させるとともに、国際社会をリードする人材を育てる
 義務教育後の学校教育の質を向上させるとともに、世界最高水準の教育研究拠点形成や大学等の国際化を通じ、我が国の国際競争力の強化に資する。また、個性や能力に応じ、希望するすべての人が、生涯にわたりいつでも必要な教育の機会を得ることができる環境を整備する。
 ア 高等学校や大学等における教育の質を保証する
 高等学校について、多様化する生徒の実情を踏まえつつ、高校生の学習成果を多面的・客観的に評価する取組を進めるとともに、その結果を高等学校の指導改善等に活用することなどを通じて教育の質を保証し、向上を図る。あわせて、将来の進路や職業とのかかわりに関する教育を重視し、社会の有為な形成者として必要な資質を育成する。
 教養と専門性を養い、社会の各分野を支え、発展させていく資質・能力を確実に養う。こうした観点から、大学等の個性化・特色化を進め、それぞれの機能に応じた教育研究活動を促す。また、大学等における教育の質の保証・向上に向けた制度を整備・確立する。
 あわせて、生涯を通じていつでも必要な学習を行うことのできる機会の提供を推進する。
 イ 「知」の創造等に貢献できる人材を育成する。こうした観点から、世界最高水準の教育研究拠点を重点的に形成するとともに、大学等の国際化を推進する
 「知」の創造・継承・発展に貢献できる人材を育成する。こうした観点から、国際的競争力を持ち、世界の英知が結集する教育研究拠点を重点的に形成するとともに、大学の教育研究の高度化を促す。
 また、「留学生三〇万人計画」を推進するとともに、国内外の優れた学生等が相互に行き交う国際的な大学等を実現する。
 義務教育修了までの教育は、個人として、国民として生きる上での基本となる力を培うものであり、これに幼児期の段階から取り組むことにより、早い段階で能力と責任感を備えた社会の構成者を育成し、将来も含めた社会の安定や発展にも資することが期待される。また、義務教育後の教育、中でも高等教育は、知識基盤社会における活力の源泉となるものであり、将来にわたる社会の発展の基盤の構築に寄与すべきものである。これら各段階における教育の充実を通じて、生涯学習社会の実現を目指す必要がある。

(2) 目指すべき教育投資の方向

 今後一〇年間を通じて以上のような教育の姿の実現を目指すためには、関係者の一層の努力を促すとともに、その教育活動を支える諸条件の整備を行うことが必要である。
 現在、我が国の教育に対する公財政支出は、他の教育先進国と比較して低いと指摘されている。例えば、公財政教育支出のGDP(国内総生産)比については、OECD(経済協力開発機構)諸国の平均が五・〇%であるのに対して、我が国は三・五%となっている。また、特に小学校就学前段階や高等教育段階では、家計負担を中心とした私費負担が大きい。こうしたデータについては、全人口に占める児童生徒の割合、一般政府総支出や国民負担率、GDPの規模などを勘案する必要があり、単純な指摘はできないところであるが、そうした中で現下の様々な教育課題についての国民の声に応え、所要の施策を講じる必要がある。
 学校段階別に見ると、小学校就学前の段階では、諸外国には近年、幼児教育の重要性を踏まえ、無償化の取組を進めている国がある。幼児教育の無償化については、歳入改革にあわせて財源、制度等の問題を総合的に検討することが課題となっている。
 小学校以降の初等中等教育段階については、多様な教育課題に対応するとともに一人一人の子どもに教員が向き合う環境づくりの観点から、きめ細かな対応ができる環境を実現するなど、質の高い教育を実現するための条件整備を図る必要がある。
 高等学校及び高等教育段階については、家庭の経済状況にかかわらず、修学の機会が確保されるようにすることが課題となっている。高等教育段階については、知的競争時代において諸外国が大学等に重点投資を行い、優秀な人材を惹き付けようとする中で、教育研究の水準の維持・向上を図り、国際的な競争に伍していくことが課題となっている。
 さらに、学校施設をはじめとする教育施設の耐震化など、だれもが安全・安心な環境で学ぶことのできる条件の整備が大きな課題となっている。
 教育投資の規模については、教育にどれだけの財源を投じるかは国家としての重要な政策上の選択の一つであることを考える必要がある。とりわけ、資源の乏しい我が国では人材への投資である教育は最優先の政策課題の一つであり、教育への公財政支出が個人及び社会の発展の礎となる未来への投資であることを踏まえ、欧米主要国を上回る教育の内容の実現を図る必要がある。
 以上を踏まえ、上述した教育の姿の実現を目指し、OECD諸国など諸外国における公財政支出など教育投資の状況を参考の一つとしつつ、必要な予算について財源を措置し、教育投資を確保していくことが必要である。
 この際、歳出・歳入一体改革と整合性を取りながら、真に必要な投資を行うことに留意する必要がある。
 あわせて、特に高等教育については、世界最高水準の教育研究環境の実現を念頭に置きつつ、教育投資を確保するとともに、寄附金や受託研究等の企業等の資金も重要な役割を果たしていることから、その一層の拡充が可能となるよう、税制上の措置の活用を含む環境整備等を進める必要がある。

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