平成20年6月 第2320号 (6月18日)
■人材育成が不可欠 安全や偽装競争が激化、ゆらぐ信頼
「平成十九年度ものづくり基盤技術の振興施策」(ものづくり白書)がこのほど、閣議決定した。昨年に引き続き、文部科学省、経済産業省、厚生労働省の三省共同で作成作業を行い、まとめた。
「ものづくり白書」は、基盤技術振興基本法に基づく、政府がものづくり基盤技術の振興に関して講じた施策に関する報告書。概要を紹介したい。
第一章 我が国ものづくりが直面する課題と展望
我が国の製造業は、二〇〇二年を底に景気が回復する中、生産を拡大、地域の立地が増加傾向にあるが、足下では資源価格の高騰等を背景に不透明感が増している。
グローバル競争の激化、アジアの成長を背景に、我が国製造拠点のアジア展開が進展。サプライチェーンがアジア規模に広がる中、我が国からのアジア向け中間財輸出は増加している。
一方、我が国のものづくり基盤産業もアジアとの競争下に置かれ、今後競合が一層強まると見込まれ、その経営基盤強化が我が国ものづくり全体の競争力強化の観点から重要だ。
競争が激化し、ものづくりが高度化・複雑化する中、製品の安全問題や偽装問題が相次ぎ、ものづくりへの信頼が揺らいでいる。経営トップから現場に至るまで「安全」や「信頼」が持つ価値を再認識し、設計思想や体制も含めた取組強化が求められる。
また、資源・環境制約の高まりは製造業の経営を左右する段階を迎え、取組加速が必要。産業競争力の基盤を支えるレアメタルも価格高騰や産出国の資源政策変更による供給リスクを抱えている。資源保有国との関係強化、3Rや代替資源・材料開発といったレアメタルの使用量を削減するものづくりへの転換等の取組を進めることが急務だ。
第二章 ものづくり基盤強化のための人材の育成
製造業の雇用者数は、二〇〇五年後半以降、プラス傾向で推移してきた。労働者の不足感は高水準。新規学卒入職者数は、増加するも依然低水準で、中小企業を中心に定着に問題がある。
ものづくり現場の経営課題として、国際競争等の下で「高品質・精度」、「短納期」、「価格競争」が最重視されている。
雇用労働者に占める正社員、パート等非正社員の構成比に大きな変化はない。需要変動、アジアとの競合・価格競争等に伴い、派遣労働者が増加するなど、ものづくり現場全体の就業形態は多様化している。
正社員の職業能力開発の現状についてみると、OFF―JTは八割弱、計画的OJTは約五割の事業所で実施されている。こうした基本的課題を踏まえると、以下の三つの重要性が増す。
@正社員については、OJTによる業務経験の蓄積とOFF―JTによる専門知識の獲得の両立、人的ネットワークの活性化による知識・価値の共有化、A正社員以外の労働者については、教育訓練や技能の底上げ、キャリア展望の明確化、B両者共通し安全面を含む基礎訓練の充実や能力評価基準等の整備。
第三章 ものづくりの基盤を支える学習の振興・研究開発
ものづくり基盤技術の振興には、これを支える人材の育成が不可欠。とりわけ高等専門学校・専門高校は、産業界と連携したものづくり教育の中核をなす教育機関。
実践的・創造的なものづくり技術者の育成を担う高等専門学校は、ものづくり技術力の継承・発展とイノベーションの創出に向けた機能の一層の充実・強化が重要になる。
地域のものづくり産業を担う次代の専門的職業人を育成する工業高校等の専門高校の実践的な職業教育の充実が重要であり、長期間の企業実習(デュアルシステム)や技術者の招聘等の取組を推進する。
改正教育基本法で、新たに教育の目標として職業との関連の重視が規定。新学習指導要領で、職場体験活動を新たに規定。観察・実験等を支える人材を小学校へ新たに配置する。
大学については、高度な知識・技術を併せ持ったものづくり技術者の育成を目的とした教育プログラムへの支援、産学協同による質の高い長期インターンシップの推進など、各大学の特色を生かしたものづくり教育を推進する。
大学等と企業との共同研究の推進、知的財産本部の充実やTLOとの連携をはじめとした知的財産戦略の強化、大学発ベンチャーの創出支援、地域イノベーション・システムの強化等を行う。これを通じて、研究開発成果の社会への還元を推進することにより、ものづくり基盤技術を創出する環境を整備する。