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平成20年5月 第2314号 (5月7日)

ファカルティ・ディベロッパーとは 教育力高める専門職
  佐藤浩章・愛媛大准教授に聞く

 四月より、学部教育でのFDが義務化された。義務化に際して、文部科学省は、大学組織全体として取り組むこと、また、単に講演会を開くなどの取組では不十分であることを公表している。愛媛大学の佐藤浩章准教授・教育企画室副室長は、教育改善の専門職である「ファカルティ・ディベロッパー」の必要性を訴え、また、自身がそれに取組み、全国に広く呼びかけている。ファカルティ・ディベロッパーとはどのような仕事なのか、佐藤准教授に聞いた。

 ―FDの義務化についてどうお考えですか。
 FDを義務化するのではなく、採用・昇進にあたっての教員の教育業績評価を義務化すべきでした。教育業績評価が義務化されれば、教員がFDに取り組む動機となります。しかしFDが義務化されても、目的が曖昧なために「やらされ感」が残ったり、その成果も曖昧だったりして、悪影響の方が多いのではないかと思います。
 例えばアメリカやカナダでは、研究業績評価はもちろん教育業績を丁寧に評価する文化を作り上げてきているので、「教育力が低い」と評価された教員はFDに取り組み、何とかして自分の評価を上げようとします。教育能力が高い教員が評価される文化を作らねばなりません。
 ―佐藤准教授は、自らファカルティ・ディベロッパー(FDer)と名乗っています。これはどのような職業でしょうか。
 教員が、自らの教育力を高めようと思ったとき、個人で取り組めるのであればよいのですが、他者の支援を得ることで、さらに効果的な場合があります。
 このように教員や組織の教育力を高める支援をする専門職が、FDerです。カナダのある先生は、「大学全体が学習に焦点化していくための仕事をする」のがFDerだと言っています。
 FDerは、教育・学習に関するあらゆる課題解決が仕事です。教員一人ひとりの能力開発、例えば、プレゼンテーションの仕方やシラバスの作り方、パワーポイントの使い方といった授業改善に関わる研修やコンサルテーションから、大学の理念に合わせたカリキュラムの開発、大学全体の組織改革に至るまでが仕事の範囲となります。高校生向けのパンフレットで教育内容がうまく表現されていないと感じれば、広報室と連携して改善を行います。もちろん教員だけでなく職員とも連携します。
 教員の能力開発の場合、今挙げた研修以外にも、多種多様なメニューを開発しています。何故なら、教員の課題が様々だからです。出来合いの研修をただ行うのではなく、個々の教員のニーズに対応できるように絶えず努力しています。
 しかしながら大前提は、教員本人に授業改善の意欲があることです。それがなければ、いくら良質なプログラムやコンサルタントを用意しても意味がありません。
 ―FDerにはどのような人が適任でしょうか。
 FDerは専門職なので、必ずしも教員である必要はありません。いくつかの大学では高等教育を専門とする研究者がFDを担当している場合もありますが、求められているのはアカデミックにFDを論じることではなく、実際に教員の授業実践力やカリキュラム開発力を向上させるために汗をかくことです。そのためには、アカデミックな研究者という意識を捨て、臨床研究者としてFDerに徹する覚悟が必要となります。
 しかし実際のところは、FDerの持っている知識、経験、人格が教員から信頼されないといけませんので、我が国の大学教員文化を鑑みると、当面はFDerが教員であることは欠かせないと思います。
 ―小さな大学でFDをやるには何をすればよいでしょうか。
 「小さな私立大学では専任のFDerが雇えない」という話もよく聞きます。FDerがいなくとも、教員数が少なければ、全員で授業を見せ合い、評価し合うこともできるでしょう。むしろ小規模だからこそ、全教員でのチームプレーも可能になります。プレゼンテーションを学生に教えるとして、それが苦手な教員に無理に担当させずに、得意な教員がカバーするなど、教員一人ひとりの特色を生かしながら、カリキュラムの工夫で教育改善を行っていくこともできるのです。もちろんこの際は組織内に同僚性の文化が構築されていることが前提です。
 人手が圧倒的に足りないなら、教育改善に先輩学生や大学院生、職員、地域の方にも協力して頂きます。教育は教員だけでやる、という発想をせず、大学や地域にある資源を最大限に活用して厚みのある教育にしていくことができます。
 愛媛大学でも、学生のボランティア活動には、大学生協や地元のメディア、行政などに、ボランタリーに支援して頂いています。いくらでもやりようはあると思います。
 ―今後についてどうお考えでしょうか。
 FDerが最終的に目指すことは、まさに大学組織の変革です。学生がもっと学ぶ環境を作りたいと思います。学士課程教育の再構築が話題となっていますが、まさにこれはFDerが本領発揮できる場面だと考えています。
 今のところ、まだFDerという職業が確立するかは分かりませんし、食べていけるかも分からない。しかし、専門性を持ったFDerが育成され、教員の教育業績評価とFDの両輪がうまく回り始めれば、その仕事に対するニーズも高まるのではないでしょうか。
 これからは、特にFDerのなり手として、全分野のポスドクに呼びかけたいものです。大学教員が様々な専門性を持っている以上、FDerのバックグラウンドは多様であって構わないのです。
 今後、有能なFDerを増やすためにも、全国の志を同じくするFDerに呼びかけて自主的な勉強会を行っています。このメンバーで、新しいFDerを各地で育てたいと考えています。FD義務化を機に、幅広くこの職業を認知して頂ければと思います。

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