平成20年3月 第2307号 (3月5日)
■音楽大学の大きな可能性
大阪音楽大学・同短期大学部学長 中村 孝義
本学は、音楽といういわば社会的に見ればやや特殊な領域を扱う専門大学である。それゆえ一般的には、例えば医学部が医師を育成するのと同様、音楽家という限られた人材を育てている大学とみなされがちである。しかし毎年、大学、短期大学部をあわせて約五〇〇人もの学生が卒業していく中にあって、社会の需要を考えれば、その全てが音楽家になるわけでも、またなれるわけでもない。
もちろん世界に通用する音楽家養成は本学が目指すべき究極の目標であるが、それは本学が目指すべき多くの目標の一つに過ぎない。むしろ私は、彼ら音楽家になる人をも包摂した広い意味での「音楽人」(古代ギリシャは深い教養を持つ人間を指してそう呼んだが)を養成することこそが、本学が目指すべきより重要な目標であると考えている。生半可な姿勢では到底ものにすることができない音楽という芸術に情熱を傾けてきた学生には、深遠な芸術に対する理解力や技術力はもちろんのこと、集中力や忍耐力、持続力、精神力などが豊かに身に付くが、それは社会のあらゆる場面において不可欠な力でもある。音楽大学はそうした力を涵養できる大きな可能性を持っているのである。
ただ勉学を特定の専門に特化するということは、往々にして視野が狭くなりがちな弱点を併せ持つことになる。それをしっかりと補うのが人間力や社会力を養う様々な鍛錬である。
私は、今後の音楽大学においては、この面での強化が不可欠であると考えている。そうすることによって、音楽大学を卒業した学生は、一つの充実した専門を身に付けると同時に、広く社会に適応、活躍できる「鬼に金棒」的な存在になりえるのだ。