平成18年9月 第2246号(9月20日)
■共同と共創による地域連携教育の実践
〜地域と共に実現を目指す工学アカデミアの形成〜 −2−
金沢工業大学企画調整部 福田崇之
金沢工業大学(石川憲一学長)は、人間形成・技術革新・産学協同を建学の精神に掲げ、一九六五年に開学した。以来、「学生が主役の大学」として、教育付加価値日本一の大学を目指し、理事、教職員、学生が一体となって工学アカデミアを形成している。大学が所在する野々市町においても、PDCAサイクルに基づき、自大学の強みと弱みを認識した上での連携を行い、大きな効果を上げている。このたびは、同大学企画調整部の福田崇之氏に、同大学地域共創事例について寄稿していただいた。
2、「社会貢献と教育効果」〜アウトプット〜
一、「地域連携教育プロジェクト」の学習プロセスおよび実質的な効果
本学が所在する野々市町との連携のコアとなる「地域連携教育プロジェクト」は、地域に実質的な効果をもたらすとともに、学生に対して、実践的な問題発見解決プロセスの修得を実現するものである。これまでの取組の中で、学生ならびに地域に対して効果をあげた「地域連携教育プロジェクト」について次に事例を示す。
《野々市町の安全安心まちづくり講座》
○講座概要
この講座は、近年、子どもやお年寄りが被害に遭う事故や事件が急増している中において、「安全・安心のまちづくり」をテーマに必要なまちづくりのあり方を、学生と地域住民が共に学び考えていくものである。
○学生ならびに地域住民の学習プロセス
学生は、地域住民を顧客と位置付け「地域住民の安全安心に関する知識の習得」「地域住民の連携を深めるワークショップの開催(有効な改善策の検討・実施)」「危険箇所を知るために防犯・防災マップの作成」といった一連の問題発見解決プロセスを都市計画の側面から設計し、そのプロセスに基づいて実践的な問題発見解決を実践する。
一方、地域住民は学生が設計した問題発見解決プロセスを共有していくことで、自らが「安全・安心まちづくり」といった一つのまちづくりに参画する手法やスキルを修得する。
○学生への学習効果及び地域への実質的な効果
先に述べたとおり、プロジェクトにおける問題発見解決プロセスは、学生が自ら設計したものであり、その設計過程において目的をもって専門的スキルを修得することは言うまでもない。また、地域住民とのディスカッションやフィールドワーク、さらには、地域住民にサービスを行う野々市町の存在は、問題発見解決を行ううえでの制約条件となり、実践的な学習環境を演出する重要な要素となる。この学習環境で学生が学ぶことにより、コミュニケーション力や、情報収集力、企画・提案力さらにはチームワークやリーダーシップといった、「行動する技術者」としての高い人間力の修得を実現している。
一方、地域に対する実質的な効果として、一つの小学校の校下において地域住民による独自のセーフティーネットワークが構成され、本プロジェクトの学習プロセスを基盤とした継続的な取組が行われるという社会的効果を得られることができた。
現在では、他の小学校の校下から連携の依頼があり、プロジェクトとしての活動範囲が徐々に広まるとともに、参画する地域住民の数も増え、プロジェクトを中心とした地域住民のコミュニティが活性化している。
プロジェクトに参画している地域住民のアンケート結果からは、「町の安全は、町民全体の協力で、成り立っていることを改めて感じた」「主体は町内会で、町内会単位で活動・取り組みをまとめ、実践し参加の輪を広げることが大事」といった声を聞くことができ、プロジェクトへの参画意欲の高さが伺える。
学生に対するアンケートには、「地域住民と直接ディスカッションすることができ、大変勉強になった」「相手の立場(住民)に立って考えて解決策を設計することの大切さを知りました。」といったコメントが得られるなど、特に地域住民とのコミュニケーションの場が、本学の実践的な問題発見解決を行う場として機能していることがわかる。
つまり、当たり前のことではあるが、「地域連携教育プロジェクト」の実践において、学生に対する学習効果、ならびに地域社会に対する効果といった双方に効果を生み出すためには、プロジェクトテーマの設定が非常に重要となる。では次に、プロジェクトのテーマ選定のあり方について述べることとする。
二、地域コミュニティをターゲットとしたプロジェクトテーマ選定
地域住民の積極的な参画を促すプロジェクトのテーマ選定は、地域に関連する社会的な問題点、地域のさまざまなコミュニティにあるニーズなど、比較的リアルなテーマが用いられている。しかしながら、プロジェクトの中で扱うテーマが、地域住民のニーズや問題点を踏まえたリアルなテーマであればあるほど、教育プロジェクトとしてのリスクも高まる。
これに対して、本プロジェクトにおけるテーマ選定は、地域のさまざまなコミュニティ(町会、商店街、PTA、各サークル活動、ボランティア活動等)が抱える問題点をターゲットとしている。もちろん、これらの中には地域住民とのトラブルになる恐れのあるリスクの高いテーマもある。そこで、本プロジェクトでは、まず本学職員と野々市町職員との打ち合わせの中で、テーマを取り巻く地域住民のコミュニティの成熟度調査を行う。特別な基準があるわけではないが、プロジェクトへの参画について理解を示してくれているか、また地域住民自らが解決を考えようとしているかなど、コミュニティに参画する地域住民と何度もディスカッションを重ねていく。
これらのディスカッションの後に、学生と地域住民が一体となって問題を解決していくプロセスがイメージできるテーマを選定し、プロジェクトを実施する。
三、プロジェクト実施に伴う新たなコミュニティの重要性
プロジェクトを進めて行くプロセスの中で、地域住民の新たなコミュニティが生まれるケースがある。先に紹介したプロジェクトの中でも、一つの校下を中心とした安全安心のまちづくりに対するコミュニティが生まれた。このコミュニティにはプロジェクト自体を継続的かつ、魅力的にする要素が数多く含まれている。
地域のコミュニティが抱える問題点の多くは、地域住民の意識的な要素が大きな割合を占めているケースが多くある。新たなコミュニティが生まれるということは、地域住民の中で意識的なまとまりができた証しであり、新たなプロジェクトテーマの創出やプロジェクトの規模拡大に向けた発展が可能となる。このようなプロジェクトの発展は、地域コミュニティの活性化という地域に対する効果であり、本学ならびに野々市町がそのコミュニティの中に深く参画し、継続的なサポートを行う必要がある。
四、プロジェクト実施から得られた野々市町との連携強化
現在では、このような活動が、野々市町においても認識されるようになり、野々市町と本学の間において、それぞれが有する人的・知的資源の相互交流と有効利用を図り、地域の発展及び人材育成に寄与することを目的とした、包括的な協力協定を締結することができた。これに伴い、金沢工業大学野々市町連携協議会が毎年開催され、野々市町との連携事項についての確認と調整を行っている。
さらには、地域住民の文化活動の拠点である野々市町情報文化振興財団において、事業評価委員に本学教職員がメンバーとして参画するなど、野々市町の事業に対して、本学教職員が深く参画することが認められている。
では、このような実施体制のもと、プロジェクトをどのように継続していくのか、「地域連携教育プロジェクト」が目指す最終的なゴールはどこにあるのかについて、次に述べることとする。
(つづく)